魔法使いです
広場でただ静かに時が過ぎる。
いったい何分くらいそのまま泣いていたのかわからないが、そっと私の前に一人の魔法使いが立った。私はその影をみてその人物を見上げる。
およそ魔法使いには似つかわないがたいのいい体にいかつい顔つき。その男は私に言った。
「魔法ならばなんでもよいのだな?」
「…………」コクリ
突然の質問にわけもわからず首を振る。
男は手を誰もいない方へ向けた。
「『水の流れに飲まれろ』アクア」
水の塊が手の平に作られてそれが壁に向かって飛ぶ。壁に当たる寸前で結界のようなものに当たって水の塊は消えた。
私はそれでもぼーっとしていた。
「なにを呆けているんだ。お前が言い出したことだろうが。俺の魔法でよければすべてくれてやる。しっかりと味わい尽くせ」
「なあ、姉ちゃん、作ったやつでもええんか? ならこないだ作った新作の魔法が」
「お前それ失敗してなかったか? それより俺っちのエンチャントの方がいいだろ。戦闘向きだしな」
「エンチャントって筋力上昇だけだろ?」
「わしの魔法も役に立てればよいのう」
「あーじいさん、無理して腰とかやるなよ?」
「フフフ。ボクの状態異常魔法もオシエテアゲルヨ」
「あのえぐいやつかー。ならその解除のもいるよな。ラウンお前使えたよな?」
「解呪なら専門分野だ。騎士どもは使えないとかぬかしやがったがな」
「あいつらはそんなのかかる前に倒すとか言い出しますから。それより私の召喚魔法はいかがです?」
次から次に魔法使いたちが真那のところにくる。
「えっと、あの……」
一人の魔法使いが手を伸ばす。はじめに発言していたロイトさんだ。
「別に全員もとより本心であんなこといってたわけじゃない。お嬢ちゃん風に言うならば『俺たちの知識、経験、もろもろ全部もっていけ』」
私はその手をとる。そして起こしてもらうと周りを見渡す。みんな笑顔でこちらをみている。
「あ、あ、あ……ありがとうございます!」
「よっしゃ、さてお前ら! この嬢ちゃんに俺らの知識全部くれてやんぞ!」
「「「「おぉー!!!」」」」
「おーし、まずは俺からだ!」
「ずりぃぞ!」
「言ったもん勝ちなんだよこういうのは」
「なら俺っちの勝ちだな。『大いなる力我が身に宿れ』パワーエンチャント!」
この世界で魔法を使うときは基本的に詠唱が必要になる。言霊として詠唱して、頭の中に術式を組み立てる。そうしてはじめて発動できる。
すっと前に出てきて魔法を発動した男の体が光る。すぐにその光は消えるが、真那にはその魔法の効力がはっきり見えていた。
男の筋力が上昇した。数値にして約1.5倍といったところだろう。それほど長く続くようには思えないがこれは使える。
「おま、せめて名乗れよ! そして順番だろう」
「せめてアクアやらサンダーやら簡単なやつからいこうぜ」
「お前ら全員敵か!?」
みな笑いながら魔法の順番等を話し合う。その様子を見ていると高校のクラスの休憩時間を思い出す。みんな授業中はしーんとしてなにも言わないが休憩になったとたんにうるさくなるんだよね。
そんななか、一人の若い魔法使いが紙を取り出してなにか書きはじめた。それも『アイテムボックス』という魔法だったらしいがなぜか覚えたのはスキルのアイテムボックスだった。
その人は書き終えるとエンチャントを作った魔法使いに聞いた。
「なあなあ、今の術式ってこうか?」
「ん?……あーここが違うな。そうすると発動しなくなっちまう」
「ねえ、それってここをこういじれば素早さのエンチャントに変わるんじゃない?」
「え? …………ほんとだぁあああ!!!」
「おいおい、お前の長年の悩みがあっさり解決しちまったな」
「俺っちの苦労は……」
「こうなら魔力だ。魔法使いには必須の魔法になるぞこれ」
「これならいらねーとかいってきた騎士に一泡ふかせられる!」
なにやら先程の魔法から派生して新たに魔法ができたらしい。
「もしかしてだけど、作った魔法全員で考え直せば派生とか強化とかできるんじゃない?」
一人の女魔法使いの発言に場が静まり返る。その女性は「私まずいこと言った?」といった感じでまわりをみている。周りの魔法使いたちはピクリともうごかない。
「「「「それだぁぁあああ!!!」」」」
突然大勢の声が重なった。
「それだよ! ナイスアイデア!」
「おい俺の魔法魔力効率悪いんだけどなんとかならねぇか?」
「それより俺の魔法の威力上げられないかな? スライムですら死なないんだけど」
「それはもう諦めなよ……」
「だな……」
「えー」
「逆に考えりゃいいんだよ。俺っちの魔法はスライムでさえ殺さない愛にあふれた魔法なんだって」
「いや、それ無理がある」
「同感」
「とりあえず黙ろうか」
「あれ? やっぱり全員敵か?」
そんな感じで次々魔法の改良が進んでいく。その度に私の使える魔法も増えていく。ただなぜだろう、普通の魔法が少ない。どうして雷魔法であるサンダーが闇属性の付与された雷魔法のダークサンダーになるのだろうか。見るだけですぐにどういう魔法なのか理解してしまう自分が怖い。
結局この集まりは夜まで続いた。よく使われるのが数種類、誰かが作ったのがその倍くらい、そしてこの場で作られたのがさらに倍くらい覚えられた。おかげで戦略の幅はかなり広くなった。
次の日、私は書庫にいくことになっていた。昨日集まっていた魔法使いの中に魔法に関する書物を多く集めているというマツヤナさんという老人がいて、その人の家の書庫でそれを読ませてもらう約束をしたのだ。
それというのも魔法は覚えたがそれを使うための知識がないからだ。魔力の操作もよくわからない。ラフォーレはたしか覚えるだけで、使えるのと使いこなせるのは違うと言っていた。わかってはいるがどうしようか悩んでいたので助かった。ちなみに、詠唱に関しては私は無詠唱魔法が使えるので問題はない。
「やあ、おはよう! いい朝だね」
マツヤナさんの家に向かおうと宿の廊下を歩いていたら声をかけられた。三人目の勇者、天上院古里。自分こそが正義だと信じており、自分に反対するやつは悪みたいな持論をもち、国王から世界を救ってくれとか頼まれてダンジョンに挑もうとしてる。鳴のことを傷つけた大嫌いな男。あと説明に来た悪魔を「悪魔なぞと話す言葉はない!」と殺したせいで自分の『力』のことも、主要ダンジョンのことも聞いてないらしい。ラフォーレから聞いた話だけど。
「……」
私は無言で横を通りすぎようとする。
「挨拶くらい返さないと」
回り込まれた。なんでかこいつはすごい笑顔だった。嫌そうな顔を隠すことなく向ける。
「……なんの用? 私今からいくところあるからどいて。邪魔」
「王様に呼ばれてるんだ。なんでも勇者に大事な話があるんだって。一緒に行こう」
「私は呼ばれてないしそんな話もしらない。ってことで失礼」
すっと横を抜けて廊下を進む。
しかし数歩進んだところで肩を掴まれた。
「痛いんだけど。なにすんの?」
「勇者に話があるって言っただろう? 君も勇者だ。僕たち2人だけなんだから一緒に」
肩におかれた手を強く払う。
「勇者は3人よ。いえ、私にとって勇者は1人。鳴だけよ。私はこの国の騎士を信用していない。当然騎士を操る国の上層部も信じない。私は魔法使いのみなさんと強くなる」
「その鳴って男の子は死んだんだろう? 谷底へ落ちていったと聞いたよ。せっかく騎士団の人たちが安全を確認してから渡ったらしいのに穴に落ちるなんてなんともまぬけだよね。これまでよっぽど悪いことを」
そこから先は聞かなかった。そいつの頬を思いっきり叩く。
「鳴は悪くなんかない!!」
そしてその場から駆け出した。
どうもコクトーです
PVが5000近くまできました!
ありがとうございます!
真那のお話はまだ続きます
ではまた次回