僕は真の勇者だ! その6
今回はいつもより長いです
7月16日、最後の方の一部を変更しました。
「ヴァルミネ大丈夫かな?」
準決勝が終わったあと、なかなか姿を見せないヴァルミネが、もしかしたら先に戻っているかもしれないという思いから僕とサラは先に宿に戻っていた。
しかし、いくら待ってもヴァルミネが戻ってくる様子はなかった。途中でサラに魔力探知をやってもらったら門の側にいたらしく、一人で出ていってしまうのではと心配したが、それは杞憂に終わり、こちらに向かっている途中だったそうだ。それにしては帰りが遅い気がする。
コロシアムでは決勝が終わった。勝ったのはヴァルミネに勝ったシャドウの方だ。詳しい内容はバラーガたちに聞くとしよう。
「ヴァルミネさん戻ってきませんね」
「うーん、コロシアムで決勝を見てたんじゃないかな? 彼女負けず嫌いだし、次にもしも機会があれば負けないようにって」
「少し探してみます………………たしかにコロシアムにいますね。古里さんの読み通りかもしれません」
「ならすぐに戻ってくるさ。明日は僕の番だな。ヴァルミネの分も頑張らないと」
「その意気ですよ古里さ……あれ?」
「どうしたのサラ?」
「いや、そんな」
「どうしたのさ?」
サラは突然取り乱した。様子がおかしい。
「ヴァルミネさんの魔力が消えました」
「なんだって!?」
ヴァルミネの魔力が消えた!? 一大事じゃないか!
「残滓はありますのでもしかしたら転移かもしれません。すぐに探しなおします」
「僕はバラーガたちに連絡をする! 『我が言の葉を彼の地にいる友へと導け』テレパシー!」
僕は遠距離にいる相手と連絡を取る魔法、テレパシーでバラーガと連絡を取った。
『古里殿? どうかしたのか? もうすぐ宿につくが』
「ヴァルミネが攫われた。今サラが探してるけど相手は転移を使えるみたいで苦戦中」
『すぐに戻る。しかし、ヴァルミネは本当に攫われたのか? あいつほどの魔法使いが転移で捕まるとは思えないのだが…』
「ヴァルミネは転移魔法を使えない。それなのにどこかに転移したってことは転移魔法を使えるやつがヴァルミネになにかしたってことじゃないか。魔法を封じられたらヴァルミネもやばいからね」
『しかし、そう簡単にいくものか? あれでもそういう類のアイテムの知識は人一倍あるのだぞ?』
「僕もそこは疑問に思っているところなんだ。でも、今この町には実力者がごろごろいるってことを思えば……」
『まあわかった。すぐに戻ろう。あと10分もかからない』
「できるだけ早く頼むよ」
僕はテレパシーが切れるのを感じた。
「古里殿、ヴァルミネは見つかったか?」
それから、宣言通り10分もかからないうちにバラーガたちは宿まで戻ってきた。
「バラーガ、今サラが探してるところだよ」
「町の中にいることはわかっていますのでもうすぐ……いました! これは……どこかの地下のようですね。感知しにくくなってますから、何か特殊な魔道具がつかわれているのかもしれません」
「今すぐそこに行くことはできる?」
「はい。大丈夫です」
「じゃあ行こう。1秒でも早くヴァルミネを助けなくちゃ!」
こうして僕たちはヴァルミネのいるあの部屋へと転移した。
それから一悶着あった。僕はてっきりシャドウという男がヴァルミネになにかしたのだと思っていたが、領主様は彼が被害者だと言っていた。いや、そんなはずはない。ヴァルミネが犯罪をするわけがないじゃないか!
このままだとヴァルミネは奴隷として売られてしまう。もう一度『王命』をつかえばいいと言おうとしたけど領主様に止められてしまった。『王命』はただの冒険者には効かない。それは王から聞いていたが、こうなると納得がいかない。
シャドウというこの男は従魔の部で優勝するほどのモンスターを従えて、さらに本人の実力もある。どこかのお抱えになっていてもおかしくないのになんでフリーなんだよ!
こうなってしまったからには仕方ない。『王命』なしでこの男にヴァルミネを解放させるしかない。
しかし、力ずくでやろうとすれば先程の二の舞になる。現に僕の使った、予備の魔剣『レグル』はランクの低い武器ではあるが、それをへし折られている。そもそも決勝に進むだけの実力があるのだからあの程度でやられるわけは…………あ、決勝だ。これなら!
「シャドウ、僕と勝負しろ!」
「勝負だと?」
「お前も決勝に進んでいるんだ。トーナメントで僕とお前が戦って僕が勝ったらヴァルミネを解放してもらう!」
僕はそう宣言した。たしかにこいつは強いけど、決勝には僕も全力でいくつもりだ。剣も予備じゃなくて普段から使っているものを使うし、魔法も出し惜しみなんかしない。それなら僕の勝ちは揺るがない。負けたのだからと言い訳もさせない。これなら
「嫌に決まってるだろ?」
「なぜ? もしかして怖いのかな?」
「メリットがない。そっちは俺に勝てばあいつの解放ってメリットがあるかもしれんが、俺は勝ってもなにもない」
「僕が負けたらヴァルミネが奴隷として売られる。充分君のメリットじゃないか」
負けるつもりは毛頭ないけどね。ヴァルミネを誰かに売られたりしてたまるか!
「それは勝負しなくてもそうだろ?」
「勝負を受けなければ僕の不戦勝だ」
「ふざけんな。意味がわからん」
「僕に負けるのが怖いから勝負から逃げた。これは不戦勝だろう?」
「逃げたわけじゃねえだろ。つかそもそも俺とお前が当たるとしたら決勝だろ? それまでに負けたらどうする気だ?」
「もちろんより上にいった方の勝ちだよ。僕も同じトーナメントなんだ。フェアだよ」
「どこがフェアだよ。お前さんトーナメント表を覚えてないのか?」
横から領主様が割り込んできた。トーナメント表だって?
「もちろん覚えているよ。僕が第一試合で彼が第六試合だろ?」
「そこじゃなくてシャドウとお前さんの試合相手だ」
「試合相手?」
「俺の見立てではお前さんが勝ち上がって戦う相手は仮面男、バラーガ、フェイグラードの三人だ。フェイグラードのやつは充分強いがそれでも3位。優勝できるほどじゃない。仮面男は未知数だ。対してシャドウの相手はアブサーラム、ベルセル、アイこの三人ってとこだろうな」
「お互い三人を倒して決勝で当たる。フェアじゃありませんか?」
「アブサーラムは巨人族の中でも相当優秀な戦士、ベルセルは俺自身の推薦、アイも推薦者だ。どう考えてもシャドウの方が勝ち上がる確率が低い」
「やってみないと」
「やってみないとわからないってか? やらなくても差は歴然だよ。推薦ってのは弱い奴じゃあ勝ち取れない。それに、推薦者が速攻で負けたらそいつを推薦したやつの責任問題にもなる。それだけ必死になるんだ。ましてベルセルは俺の推薦だ。元Sランクの推薦を勝ち取れるやつなんか基本いない」
「しかし、運も実力のうちとも言うし、彼は運悪く強者ばかりのブロックになった。僕は運よく強者の少ないブロックになった。ただそれだけで」
「たとえそうだとしても、受ける必要はない。さっきシャドウも言ったがメリットがないだろ。奴隷の売買はもう確定していることだ。シャドウはすでに金を受け取ることができる」
「勝負で僕が勝てばそれをなしに」
「メリットをつけろって言ってんだよ。受ける理由もない、メリットもない、そんなんで受けるわけがないだろうが。シャドウは俺が目をつけてるんだ。貴族連中の交渉もシャドウ自身がいらないといっている」
「なあ、クラインさん、俺は別に受けてもいいと思ってきた」
「ほんとか!」
「シャドウ、本気か?」
「はい。ただこちらの条件を認めればですけど」
「条件?」
「お前らが負けたらお前らが使ってた転移魔法を俺に教えてもらう。無理なら使い手をもらう」
「……サラ、できそうか?」
「この魔法は私の一族が代々受け継いできた魔法なので……」
「ならそいつをもらう。転移ってのは便利だからな。使えたら旅がはかどるし、家を買ったとしてもすぐに帰れる。そうすれば俺にもメリットができる」
「サラを渡すわけがないだろう!!」
「なら勝負はやめてそっちのを売るんだな」
「なんでそうなる!」
「こちらの条件をのめないなら勝負はできないだろ? まさか一方的にお前らの条件を聞けって言いたいのか?」
「お前の言ってることは無茶苦茶だ!」
「さっきまで俺は同じことをお前に思ってたよ」
「古里殿、これ以上話していても話は平行線だろう。本来使いたくなかった手だが、残されている手がある」
「ほんとうに!?」
「ああ。我々がオークションで買い戻す」
「ヴァルミネを見捨てろってこと!?」
バラーガ、気でも狂ったのか!?
「そうではない。このままだともしものことがあったら我々はヴァルミネとサラの二人をそこの男に奪われてしまう。しかし、向こうの言い分通り勝負をやめ、オークションで確実に買い取れば問題はない。優勝したら賞金が出るから、そのお金で買えばいい」
「しかし……」
「現状それ以外にいい手がないのだ。この場でごねればごねるほど我々の立場は悪くなっていく。……すでに手遅れかもしれないが……。ともかく、勝てばいいだけだ。それに、この証書の効果をつかわせてもらう」
バラーガが魔法の袋から一枚の紙を取り出した。あれはたしか…
「王様から出発前にもらってたものだよね?」
「ああ。ここには、万が一の事態が起こった時のためのことが書いてある。クライン殿、これを受理してもらいたい。これは『王命』ではないですが、断ることはできない」
「あぁ? どういうことだ? ………………これは」
領主様が用紙に書かれている内容を見て顔を怒りの形相に変えていく。
「お前らはふざけているのか?」
「いえ。このままよりよっぽど我々が仲間を救える可能性が高くなりますから」
「……だからといって、なんだこりゃあ? 『天上院古里、バラーガ・グーテン、サラ・ファルシマー、ヴァルミネ・カク、マーサのいずれかが旅の途中、やむを得ず罪を犯したと判断した際、1度限り、キャラビーをその代わりとするものとする。』だと? しかも上位契約魔法で縛ってあるとかシャレにならねえぞ? さすがの俺も上位契約魔法を破棄なんかできねえ。認めるしかねえのかよ……」
「これに関してあなたは介入できない。受理しなくても受理しても結果は変わらないですから」
それを聞いた時、僕たちの視線は一斉にキャラビーに向いた。キャラビーは、この世の終わりみたいな顔をしていた。
「……そいつには契約魔法をつかわせてもらう」
「クラインさん、いったい」
「悪いなシャドウ、事情が変わった。牢屋からは出さないが、お前さんが受け取れるのは向こうの嬢ちゃんを売った益だけだ」
領主様は申し分けなさそうにキャラビーに魔法をかけた。いやだいやだと暴れようとするキャラビーも、領主様の指示でやってきた大の男数人に押さえられては動けない。キャラビーの首に模様がかすかに浮かぶ。
どうなってるのか理解が追い付かないけど、少なくなくとも今度はキャラビーが危ないとわかって抗議しようとするが、ちらっと見えてしまった、バラーガによって、僕は何も言えなくなってしまった。
バラーガは、申し訳なさそうな顔をして、その手には血がうかんでいた。強く握りすぎて出た血だろう。
そこから先、僕は何も言うことなくそこから転移した。いや、なにも言えなかっただけだ。
ただ僕は1つ誓った。必ず優勝し、キャラビーを取り戻すと。
ただ、僕自身気づいていなかったが、この時の僕にはこんな思いもあったのかもしれない。
『キャラビーなら……』
と…………。
そして翌日、運命の決勝トーナメントが始まった。
どうもコクトーです
今回はいつもより長くなってしまいました
そして終わり方がなんか無理矢理みたいになってしまいました…
次回はメイ視点にもどります
ではまた次回