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やはり悪人

「まったく……相変わらずアホなやつじゃな」

「とかなんとか言っちゃって、ホントは自慢の息子なんだろ?」

「じ、自慢なんてしないもん!! ちょっとだけ自慢したいけどしないもん!!」

 夜来初三が姿を消した部屋で揉め合っている七色と速水。だが二人の争いは放っておいて、今この場にいるものが重要視して思案するべきことが、

「あ、天奈お姉ちゃん……どうするの? 怖いお兄ちゃん、また綺麗なお姉ちゃんのとこ行っちゃうよ」

「……」

 唯神は傍らで俯いている秋羽伊那を一瞥してから、しばし沈黙する。

 しかし結局は何をどう考えても、あの少年の行動理由や行動原理が全て予想することすら不可能だと気づく。

 一息吐いた彼女は口を開く。

「分からない。でも、初三は元に戻った。これだけは朗報」

 そこで七色が気づいたように言った。

「ああ、そうじゃ翔縁」

「なにー?」

弁償代・・・は労働で払ってもらうぞ」

「……はい?」

 七色の視線をゆっくりと辿っていく。するとそこには四足がバラバラに砕けている椅子、ヒビが入った床、もう使い道が無いだろう大きなテーブルがそれはもう盛大に破壊されたままだった。

 弁償代とは何なのか嫌でも分かってしまう。

 だが納得できない鉈内は、

「え!? ちょ、はぁ!?!? これ全部やっくんがやったんだよ!? 何で僕がンな借金返すのに体使わなくちゃならんのさ!!」

 哀れむように視線を向けている世ノ華が無慈悲な一言を放つ。

「諦めなさいよ」

「諦められるか!! これいくらよ!? いくら分僕は働きゃいいってのよ!!」

「五ま……一千万じゃ」

「盛ってんじゃねーよ!! つかとんだ高級家具だなオイ!!!! 嘘つくにしても限度ってもんあんでしょ!!」

 諦めの悪い鉈内に対して溜め息を吐いた七色は。

 ぴっと人差し指を彼に向けて差し、

「だから労働で弁償しろと言ってるじゃろう―――労働・・ならば『何でもいい』からきちんと弁償せい」

「はぁ? だから何すりゃ良いって―――」

「もう一度言う。労働・・ならば『何でもいい』のじゃ」

「っ」

 その意味をようやく理解した鉈内。

 彼は思わず肩をすくめて苦笑する。

「あっれー? 僕ってば一応重体患者タイプのズタボロ状態なんだけどー? まさかそんな僕にどうやって働けってのよ」

「な、ならば仕方ないのう。儂がついていって監督してやる。これならば、ほれ、あれじゃ、いざというときもお主を担げるじゃろう?」

 無理な言い訳に近い発言に速水が吹き出してしまった。

 彼女は口元に手を当てたまま、  

「最初に手伝う気がない態度取っちゃったけど実は自分も力になりたい可愛い可愛い七色ちゃんなのかい?」

「ち、違うもん!! 儂そんなツンデレじゃないもん!! どっちかって言うと素直ロリだもん!!」

「あーはいはい。分かった分かった。ならいっそのこと、鉈内の弁償代という名目で働きにいく姿の監視に行こうか?」

 七色の気持ちを察している速水はこの場の全員に尋ねていた。

 全員が全員。

 その質問に返す言葉は決まっていたのかもしれない。



 目的地の廃ビルが視界に入ってきた。

 距離は近い。あと少しで魔王城へ到着する。だがしかし囚われのお姫様は少年を監禁していた悪行を背負っている。よってお姫様だなんて美しい存在なのかどうかは分からない。もしかしたら、魔王を倒してお姫様を救ってもお姫様という『悪』がまた暴れだすかも知れない。少年を手に入れるためにまた悪魔的頭脳を駆使して狂いに狂うかもしれない。

 それを承知の上で尚。

 一流の悪人は手を繋いでいる悪魔と歩みを止めることはない。

 一歩一歩足をしっかりと動かして、魔王城ビルへ近づいていく。

「おい銀髪ロリ悪魔」

「何だ我輩の小僧」

「『我輩の』を強調すんな。……始めに言っとくが、お前は今回手ェだすな。俺がピンチでも絶対に出てくるな。あのクソ祓魔師はこの俺が消す」

「いいだろう。小僧の頼みとあらば飲んでやる」

 高い廃ビルの前で立ち止まった二人。そびえ立つ廃ビルを見上げてみれば幽霊スポットと見分けがつかない。だが二人は敵にも場所にも恐怖を感じていないのか……薄く薄く笑っていた。



 一流の悪人も最強の怪物も。

 どちらも―――ブチリと裂くような笑みを浮かべていた。



 一流の悪人は握ったままである最強の怪物の温もりを再確認してから……。二人の影は一つに混ざり合った。小さい影が大きな影へ吸い込まれるように入っていった。

 悪魔の神様と一つに戻り一心同体という関係に返った直後に―――悪人の右顔には禍々しい『サタンの皮膚』を表した紋様が浮き出てくる。

 つまり結果だけを確認すれば。


 怪物と化物が暴れる準備を整えたということだ。


『サタンの皮膚』を表した紋様が右顔に浮上したことで、完全に『いつも通り』に戻った少年は首を横に曲げてコキリと関節を鳴らす。

 そして一言。

「そんじゃ殺しに行きますかァ」

 ここで―――この世のものとは認識できない笑顔を浮かべながら『殺す』と宣言した時点で彼は善人ではないのだろう。『倒す』と言わずに『殺す』と笑いながら決断している少年は間違いなく善ではないのだろう。

 ヒーローならば『倒す』と言ったはずだ。

 善人だったならば『勝つ』と告げたはずだ。

 だから少年は違う。

 少年はやはり非情だった。

 少年はやはり冷酷だった。

 少年はやはり悪人だった。

 

 敵と認識した存在を即座に『殺す』と判断した時点で少年は極悪人だった。


 楽しそうに。

 愉快そうに。

 面白そうに。

 一流の悪人は『いつも通り』の邪悪な笑い声を小さく響かせながら廃ビルの中へ消えていく。

 その瞬間。

 月明かりに浮かび上がった少年の横顔は。 

 人間と思えないほどの。


 

『悪』に染まりきった怪物の笑顔が咲いていた。  


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