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無能

 なぜ、少年は少女を助けに行くのか自分自身に疑問を持っていた。まるでクイズの答えなんて知らないのにぼんやりと思ったことを言ったら正解を当ててしまったような感覚に近い。

 しかし。

 そんな少年―――夜来初三の考えに納得がいかなかった唯神天奈は、彼をひとまず七色寺へ連れて帰ることにした。世ノ華と連絡を取った結果、何やら鉈内が重傷を負ったとかで現在は治療中の真っ最中らしい。

 故に場所は七色寺の本殿。

 その内部に存在する部屋の一つには、夜来初三を出迎えた一人の少女の大声が鳴り響く。

「兄様あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!」

 絶叫と言う名の雄叫び。

 スポーツカー並みの走行速度。

 その二つの凶器を携えている金色の影が夜来初三の体へ直撃した。

「がっはッッ!?」

「よ、良かったです兄様あああああ!! 鉈内もあんなになっちゃうし、もう意味わかんないことばっかの連続で、でも兄様だけでも見つかって良かったですうううううう!!」

「わ、分かったからとっとと離せ。痛ぇんだよお前の抱擁」

 世ノ華雪花を引っペがして、一息吐いた夜来。やはり死んだような顔は一切変わっていない彼に対して、不安の溜め息を唯神は隠れて吐いていた。

 そこで七色夕那が夜来に向けて口を開いた。

「それで? お主を監禁していた雪白をお主は祓魔師の手からすくい上げる気らしいが。どれ、病院でも行っておくかのう? それともついにボケたか?」

「何で全部知ってんだよ……」

「唯神からメールで全て知らされたわい」

 七色は懐から携帯電話を取り出して届けられていたメールを見せてきた。確かにことのあらすじを大まかに並べ立てた内容が、ぎっしりと無駄を省いて詰め込まれているメール文だった。こういった辺りからも、唯神の知能の高さには驚かされるものがある。

 夜来は部屋の隅にいる唯神を一瞥してから、

「分からねぇよ俺も。俺のことが俺は分からない。だが―――雪白を助けずに殺されちまったら、それはもうやり直せなくなる。後で雪白を助けなかったことを後悔することになる。だったら、『一応』って形で助けるだけでも価値はあるだろ。生きてくれれば何度だってやり直せるんだから」

「意味がわからんのう。儂も雪白には腹が立っておる。まさかお主を……そんなにまで痛めつけるとは」

 七色は夜来初三のをじっと見つめて呟いた。

 確かに夜来の顔には未だに―――生気が戻りきっていない。まだ痛々しいと感じられるほどの死んだような目と感情がないような顔。それを見れば、実際に監禁生活を目の当たりにしたことがない七色だって『どれほど』の精神的な攻撃をされていたかは嫌でも想像がついた。

「なぜ助けるのじゃ? お主の助ける理由が儂にはよう分からん」

「知るか。俺も知らねぇよ。何でこんなに―――雪白を助けようとしてるのかもな」

 吐き捨てるように言った。

 彼は傍らに立つ大悪魔サタンの頭に手をぽんと置いて、

「なぁ、お前は……」

「我輩は小僧の味方だ。小僧と共に生きて死ぬ。だから小僧が行くのなら我輩は喜んでついていこう。正直あまり気は乗らんがな」

「悪ぃな」

「そう思うのならビッグマックというやつを我輩に食わせろ。最近のコマーシャルで目を惹かれたのだ」

「ファーストフード如きいくらでも食わせてやるっつの」

 可愛らしい笑顔を浮かべながら夜来に撫でられるサタン。さしずめ、その笑顔はふにゃああああああという効果音がぴったりな子猫同然のものだった。とても悪魔の大将様とは思えない。非常に和むどころか抱きしめてやりたくなる可愛さで溢れていた。

 と、そのとき。


「ホントやっくんってば無能だよねー」


 速水玲の肩を借りている格好をした鉈内翔縁が部屋に入出してきた。登場一番に毒を吐いた彼は、いつもの笑顔を浮かべていない。どこか冷たい目を向けてきていた。

 夜来と鉈内はしばし沈黙して、視線をぶつけ合う。

 が、その空気を鉈内から切り捨てた。

「君さぁ、よーくその小さい脳みそ使って考えたほうがいいんじゃない? 祓魔師の狙いは君だよ? 雪白ちゃんはダシにされてる。ってことは、真っ向から突っ込むんじゃ返り討ちに遭って葬式で僕と対面することになるんだよー?」

「ご高説でも唱える気か」

「そんで? まさかとは思うけど作戦の一つや二つあんだよね? 雪白ちゃんが人質じゃなかったら僕だって何も言わなかったよ。どうせ君なら何でもかんでもぶっ壊してハイ終了さようならーって気軽さで敵ぼっこぼっこにしてくるだろうしさ。でもねぇ―――相手には人質取られてんだよ? 君、雪白ちゃんに監禁されて気づいたでしょ? 君は『大切な存在』を敵に回したり人質に取られれば何もできない。美少女に監禁されて鼻の下のばすくらいしかね。―――君は敵なら容赦しない。情けなんてかけない。でも、雪白ちゃんに監禁されて分かったでしょ? 『夜来初三が「非情」になるのは敵のみ』だってこと。君は身内にはとことん甘いシュガー野郎なんだよ。それもクッソ甘いミルクティーに使うようなね」

「……策も何もねぇ手ぶらのまんま俺が行く気だってんなら、愉快な愉快なフルボッコされたチャラ男さんはどんな言葉を返してくれんのかな?」

「まぁもちろん―――――勝手に行って勝手に死ね」

「見放すたぁいい趣味してんなテメェ。冷血キャラに引越しでもしたのかよドクソ野郎」

 鼻で笑った夜来は、サタンを連れて鉈内の横を通ろうとする。だがそれを―――鉈内が夜来の襟首を掴んで、壁に思い切り叩きつけることで阻止した。

 ガン!! という衝撃が背中を走っていく。だが夜来はその程度の痛みに一々反応をせず、こちらを睨みつけてくる鉈内を見下ろした。

 彼は普段とは一変して恐ろしいほどに据わった目をしている。


「てめェ舐めんのも大概にしろよ!! なんでそう『理解不能』なことばっか吠えて自分に酔ってンだよゴミクズが!!」

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