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王道展開

 雪白千蘭は唯神天奈に向けて手をかざす。

 ボォン!! と風船が破裂したような轟音が噴火する。

 すると莫大な豪炎が弾丸のような速度で放出されて、夜来初三に触れたままの唯神の右手に突っ込んでいった。

 おそらく、あの爆炎が直撃すれば間違いなく腕は―――溶けて落ちる。

 しかし。

 その攻撃をまたもや夜来初三が『絶対破壊』という大悪魔サタンの魔力による効果を持って粉々に破壊した。蒸散するように一瞬で消えていった炎の一撃。それを見て、雪白千蘭は静かに言い放つ。

「初三? 何をしている? お前がすべきことは今すぐ私の元へ帰ってくることだろう?」

「だ、ダメだっつーの。わ、わけ分かンなくて、こっちゃあ混乱状態だが―――それでも、家族コイツらを殺すのは見逃せねえっつってんだよ!! 頼むから!! もう全部全部よく分かんねぇが、唯神達を見逃してくれ……!!」

「もしもそいつらを見逃したら、初三は私の胸の中へちゃんと帰ってくるのか?」

「あ、ああ」

「もう二度と―――言葉通り二度と私の腕の中から離れないんだよな? 永遠に私のモノと自覚して一生私の傍から動かないと誓えるな? 共に死んでも埋葬されるまで私の傍らに寄り添い続けると言えるな? ひつぎに私と入りあの世へ旅立つ日を受け入れるのだろうな?」

「あ、ああ!!」

 いい返事だ、と口の端を釣り上げて笑う雪白。

 対して、夜来初三は自身の返答に深い危機感を抱いていなかった。もはや雪白の絶対的な支配が彼の脳髄にまで侵食していると見える。

 だが。

 そこで、彼女が一歩前に歩み出た。

「ねぇ、綺麗なお姉ちゃん」

「何だ小娘」

 今の今まで黙り込んでいた秋羽伊那は挑むように雪白へ言い放つ。

 キッと睨みつけながら言い放つ。

「私は子供だし、怖いお兄ちゃんが何でこんなに怖がってるのかもわかんないけど、綺麗なお姉ちゃんが怖いお兄ちゃんをこんなに怖がらせてるの? だったら何でそんなことしたの?」

「ほざけガキが。お前に私の考えを懇切丁寧に説明して理解できる頭があるのか? 大体、私は初三を怖がらせてなどいない。私はただ初三と幸せに暮らしていただけだ。だから今すぐ早急に退出しろ不法侵入者共。今なら―――初三の顔に免じて見逃してやる」

「……」

 秋羽は雪白に勝てる力など握っていない。炎を出したり魔力を宿していたり金棒を振り回すような『怪物』の力は既に手放している。

 だからこそなのか。

「お兄ちゃん!! 嫌だ!! 早く帰ろう!!」

 秋羽伊那はその『幼い故の考え方で雪白から夜来を守ろう』としたのだろう。

 きっと彼女は、その行動が何よりも雪白を暴走させる引き金か知らなかったはずだ。

 なぜなら秋羽は傍に立つ夜来の胸へ、雪白千蘭にとって何よりも価値のある存在である夜来初三の胸へ―――飛び込んだのだから。さらには彼は渡さないと言わんばかりに、ぎゅっと強く抱きしめた。

 しばし呆然とする雪白千蘭。

 彼女は震える唇を動かして何かを言おうとするが、ただパクパクと口を開閉するだけで終わる。

 夜来初三のそこは自分だけの場所なのに。

 夜来初三のそこは自分だけの世界なのに。

 夜来初三のそこは自分だけが触れるのに。

 それが雪白の心情であり、彼女を正真正銘の化物へと変えるスイッチとなった。

 瞬間。

「き、さま……」

 目を見開いた雪白千蘭。

 彼女の顔に見て分かる量の怒りと殺意が膨れ上がった。

 それは瞬時に―――爆発する。


「貴ッッッ様ァァあああアアアアアアアアアアアあああアアアアああああああああああアアアああああアあアああああアああアアアアアアアアアアああああああアあああアアアアアアアああああああアアアアアあああああアアああアアアアア!!!!!!!!!!」


 絶叫よりも雄叫びに近く。

 雄叫びよりも発狂に近い。

 そんな獣のような大声が部屋で反響すると同時に、発生源である雪白千蘭の真っ白な体が飛び出した。もちろん狙いは、夜来初三に抱きついた大罪人である秋羽伊那ゴミヤロウだ。絶対に殺す。その確固たる意思を宿した殺意そのものの赤い瞳をぎらつかせて雪白は飛んだ。

 彼女の右腕が、ガキ一匹など簡単に溶かしてドロドロスープに変えられる炎に包まれた。目が眩むほどに燃え上がる右腕を振り上げる雪白。後は適切な距離へ入った瞬間に、秋羽伊那の頭を溶かして脳みそをぶちまけてやればいい。

 その驚異に、咄嗟に対応出来なかった唯神は歯噛みした。

 だが。

 まるでせめてもの抵抗をするように、秋羽を抱きしめて雪白に背中を向ける。つまり自分を盾代わりにしたのだ。

 しかし、結局はその場しのぎだ。

 故に雪白は止まることなく突き進んでいった。

 夜来初三も『雪白千蘭を傷つけられない』という心から迷いが生まれ、まったくもって動くことが不可能だった。まるでその格好は雪白千蘭の狙い通りのようにも解釈できる。

 だが。

 そこで事態は急変する。

 バッガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!! と、雪白の纏っている炎の右腕が振り下ろされた爆音が炸裂した。だが、それは秋羽伊那でも唯神天奈でも、ましてや夜来初三ですらも直撃していない。

 では、一体誰なのかといえばありえない人物だ。



「いってー。これ本気だったの? マジで『本体』じゃ当たったら死んでたよ」



 そこにいた者に、唯神天奈と秋羽伊那は絶句する。

 なぜなら雪白の攻撃を食らってもピンピンしているのが―――世ノ華達が相手しているはずの祓魔師。由堂清だったから。

「貴様、どこから湧いて出た?」

「あー?」

 雪白は自分の攻撃を受けても尚、笑っている面識の無い相手に苛立った声で尋ねた。だが由堂は雪白には目もくれずに、まだ精神的に不安定である夜来初三へ振り返って、


「おお!! 何だよそっかそうですかぁ!! 結構早く目を覚ましそうで楽に終わりそうだなあ!!」


 さすがに、現在の夜来でも首を傾げそうなる言葉だった。

 彼はゆっくりと口を開き、

「テメェ、一体誰だ……? つーか何言ってんだ……?」 

「え? いやいやお前じゃないよ。俺が喋ってるのは『アイツ』だから」

 と、そこで。

 唯神天奈が唖然とした表情のまま無理に口を動かす。

「あ、ありえない! 君は世ノ華達と相手してたはず……!! 第一、私はここに来るまでに周辺の『魂』を調べたけど誰一人私達の後をつけていなかった……!! なのに、なんで……!?」

「あー。悪いけど、それじゃあ『人形』の俺は見つけられないよ。まぁ尾行してたのは事実だけど」

 瞬時に唯神は『魂を覗く』死神の忘れていった力を使って、由堂清の体を確認する。だが―――その体には『魂が入っていなかった』のだ。つまりそれは、目の前にいる男は生きていないという証拠。

 そこから簡単な予想を立てた唯神は、

「何か特別な力で『分身』のような存在で作られている、ということ……?」

「おお! ほとんど正解! お前頭いいなー、スゲースゲー」

 まるで友達と話すような調子で言った由堂は、またもや夜来に視線を移し替えて、

「ふーん。結構早く終わりそうだな。夜来初三の精神が結構不安定だし、意外に『アイツ』もすぐに出てくるだろう」

「だから何言ってんだよクソが……!!」

「ああ、お前はまだ『アイツ』と一回も接触したことがねえんだな。それじゃ混乱するのも当然か。んー、じゃあちょっと手早く済ませたいし―――コイツか? やっぱ鍵になるのは」

 由堂は無情な瞳を向けている雪白を確認する。

 彼女は即座に口を開き、

「誰だ貴様は。本当に邪魔だ。殺すぞ?」

「うわ何かちょー怖いじゃん。これ『連れて行く』のはちょっと勇気いるな。でもまぁ一番夜来にとって価値がありそうな女だし……仕方ねえか」

「何を言―――」

 そこで雪白の意識は断ち切られてしまった。

 ガン!! と彼女の頭を軽く叩いた音が鳴り響いた。適度な加減がされていたのだろう。雪白は筋力が消えたように倒れそうになる。

 それを祓魔師が肩に軽々と背負って、

「えーっと。こういう時なんていうんだっけ? あーっとねぇ―――夜来初三、この女を返して欲しくば今日の夜十時? あーでもその時間は仮眠とりたいしドラマ見たいし……よし、二十四時にほら、あそこあんじゃん? あの……そうそう、今じゃ廃墟になってる東にあるデカイ廃ビル。あそこ来いよ。あ、いや、あそこに来るがいい? 何か調子狂うな。まぁとにかくそういうわけだから、絶対来いよー? 来なかったらこの女屋上から落として殺すからよろしくー」

「テメェ!! 待てっつって―――」

 咄嗟に大声を上げて呼び止めようとしたが―――まるで霧散するように由堂清の『人形』は雪白共々姿を消した。まるで王道ゲームのようにあっさりとボスにヒロインが連れて行かれた展開。現実味がゼロの状況に、この場にいる者達は全員が全員立ち尽くしていた。

 

   

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