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味方か敵か

「いっやーこれ本格的ですねぇ。美味しすぎて不安なんですけど、僕のほっぺたそのへんに落っこちてないですか?」

「落ちてたら落ちてたでびっくり仰天じゃアホ」

 実家に帰ってきたかのようにリラックスしている上岡真うえおかまこと。彼はお望みのレモンティーを飲み干して、椅子からすっと立ち上がる。

 さらに対面に座っている七色に爽やかな笑顔を向けてから、



「じゃあ、お邪魔しました」



「待てええええええええええええええええええええええええええええええいッッ!!!!」

 まったくもってこの男の行動理由が何なのかさっぱりな七色は、大声を上げてテーブルをひっくり返した。ガッシャーン!! と、まるで一昔前の切れやすい父親のようにちゃぶ台返しをした七色夕那はぜえはあと肩で息をして呼吸を整える。

「お主は結局なぜ儂の寺に上がり込んでレモンティーなんぞ味わっとるんじゃあああああ!!」

「え、いやだからレモンティー飲みたかったからですけど」

「レモンティーで!?」

「そこにレモンティーがあったから!!」

「主人公かお前は!! っていうかレモンティーが飲みたいだけで一度殺し合った仲の儂の家へ上がり込んだの!? 馬鹿にしてんの!?」

「いやそりゃストレートティーだったらこっちだって御免でしたよ!!!!」

「何で逆ギレしてんの!? っていうか結局ティーじゃろうがああああああああ!! 何なんじゃ貴様は!! ホント何なんじゃ!! ホント何でお主ここ来たの!? 喧嘩売ってんの!?」

 激高する七色に対して微動だにしない上岡。

 彼はニコニコ笑顔をから一変して真剣な顔で、

「あ、シャワー浴びていいですか?」

「喧嘩売ってんのかおどれはアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

「いや本当ぼく臭ってないか心配なんですよ。―――具体的にはイカ臭くないか」

「コイツ朝からなにしてきやがった!?」

「まーちゃん激しかったしなぁ」

「まーちゃん朝から何してくれてんの!?」

「そういえば豹栄さんもこの前『上岡さんって性病とか持ってんのかな?』って部下に真剣に相談してたんですよ。本当、上司の体調の気配りする良い人ですよね」

「本格的にお主ダメじゃね!? 何かもう部下にさえ信用されてなくね!?」

「信用されてなくて何が悪い!!」

「認めちゃったよ!? 今信用ないって認めちゃったよ!?」

 毎日こんなのを相手にしている豹栄真介の苦労がよく分かる展開だったが、それ以上に上岡真がどうしようもない奴だということも知れたワンシーン。

 しかし仕切り直すように七色は咳払いを一つして、座り直した上岡に視線をロックさせる。

「それでお主に聞きたいことがあるのじゃが」

「なんですか? Mサイドでするのには慣れてませんよ?」

「お主の性癖なんぞ知るか!!」

「僕はSですもん!!」

「知らんって言ってるのに何で邪魔するのコイツ!!」 

 額を押さえながら座り直した七色夕那に、今度は上岡真のほうから口火を切った。

 彼は片手で軽く挙手をしながら、

「ところで、鉈内さんはご無事でしたか?」

「まぁのう。今は速水と儂で交代しながら治療することにしている」

 現在この部屋には七色夕那と上岡真しかいなかった。理由は、世ノ華雪花は自分の力不足の結果が鉈内を重症化させたと思うあまりに彼の傍から離れず、速水が今は治療に回っているからだ。

 故に二人きり。

 七色夕那と上岡真の二人きりだ。

 敵同士であるはずの二人だけ、と言えばいつ争いが起きても不思議ではないよう気もするが、上岡からは何の殺気も感じられなかった。

 おそらく戦う気は本当にないと見える。

 七色も別に戦闘を好むタイプの人間でもないので、余計な血を流す必要がないならば大賛成だった。

「して、お主はなぜ翔縁を助けたんじゃ?」

「おや。助けて欲しくなかったと?」

「そうではない。ここまで運んでくれたことには感謝しておる。―――瞬間移動系の『対怪物用戦闘術』でも使って運んだのか?」

「まぁはい。一応僕もその手の力は持ってますから」

 ニコニコと笑顔を見せてくる上岡を一瞥した七色夕那。

 彼女は小さく息を吐き、

「それで―――なぜ夜来をお主たちは狙う? そしてあの祓魔師は一体なんじゃ?」

「あー全部は答えられませんね。まぁでも言えるところまで言うと……まず僕達はあなたがたと敵対する意思は微塵もありません。ただ夜来さんが欲しいだけです。そしてあの祓魔師・由堂清が所属している『エンジェル』という組織は、あなたがたの敵と認識して構わないでしょう」

「つまりお主達は儂たちの敵ではなく、本当の敵はその『エンジェル』だということか? まぁそもそも敵と言うてもしっくりこんが」

「その見解で概ね間違いないですよ」

「じゃがのう。お主達が夜来を狙っている時点で儂は自分の息子のためにお主の首を跳ねることは間違ってはいまい? そうじゃろう? 無理やり夜来を誘拐しようとしているようなお主達とは―――儂は敵対しているのではいか?」

 少しばかりの敵意が七色の金色の瞳に点火する。

 一方、上岡は戦闘の意思が根っからないようで、

「あっはは。まぁそう睨まないでください。僕たちが無理やり夜来さんを連行しようとしているから、あなたは僕たちと敵対する気なんですよね?」

「そうじゃ。それが親である儂の役目じゃからな」

「んー、じゃあ聞きますけど―――夜来さんが自分から僕たちのもとへ加わったとしたら? 一切の誘導呪文だとか催眠術だとか人質だとかなしで、本当に自分の意思で僕たちの仲間に加わったとしたら?」

「そ、そんなことあるわけないじゃろう。じゃがまぁもしもそうなれば……別に敵対する理由はない、かのう」

 その返答を耳に入れた上岡真は、よかったーと吐き出すように告げた。

 まるでプレッシャーから脱出できたように息を吐いた彼を怪訝そうに見つめる七色だったが、上岡は今度こそ立ち上がって踵を返す。

「それじゃお世話になりました。確認・・も取れたんで僕は失礼しまーす」

「な、ちょ、待たんかお主!」

「いやいや、もう結構重要なこと喋りましたよー? ほら、『エンジェル』だとか僕たちのことだとか」

「し、しかし―――」

「ではでは、お邪魔しました」

 反論させる時間を与えずに立ち去っていった上岡真。

 まるで彼に遊ばれていたような七色は、最後の最後まで彼の思い通りに動いていたコマだったのかもしれない。



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