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家族の絆


 無表情の仮面を維持したままそう告げた唯神天奈。

 対して雪白は彼女の言葉に首を傾げて、

「……虚言か? 嘘による脅しか?」

「本当に君はバカ。もう呆れるくらいバカ。―――なんなら、その炎で私を殺しにかかってみればいい」

「貴様、舐めているのか?」

「しつこい。さっさと殺してみなよ―――正真正銘のバカ」

 最後の一言が決定的なスイッチとなったようで、雪白の操っていた炎が勢いよく放たれていった。特に表情を変えることなく、ポイ捨てをするような感覚で雪白は唯神を殺害しようとする。

 迫って来ていた炎の一撃は絶対に唯神天奈や秋羽伊那に防げるレベルではない。ただの人間である彼女達に打つ手はない。これは明白な事実だ。

 唯神は恐怖のあまりにしがみついてきた秋羽伊那の頭を軽く撫でて、


 ただ一つの絶対的な力を召喚する。




「―――助けて」




 その一言だけで。

 たった一つの『助けて』という言葉のみで。

 

 雪白の放った灼熱の炎は唯神天奈と秋羽伊那に直撃する寸前に―――壊れた。


 バァン!! と霧散するように散ってしまった炎の一撃。舞い落ちてくるのは残骸である火の粉のみ。当然ながら、その攻撃を破壊したのは唯神天奈でも秋羽伊那でもましてや雪白千蘭でもない。

 では一体だれなのかと言えば簡単な話だった。




 家族が助けてと言ったならば。

 夜来初三かぞくが助けるに決まっているだろう。




 唯神達の目の前には一人の少年の後ろ姿があった。それを見て唯神天奈は小さく笑って、呆然としている雪白千蘭に言い放つ。

「ゴメン。悪いけどあなたは私達に傷一つつけられない」

「な、んで……」

 自分の腕の中から一瞬で消えた少年。気づけばその少年は憎き敵を守るために行動していた。取り乱す雪白千蘭に溜め息を吐いた唯神天奈はこう言い放つ。

「ねぇ知ってる? 前に二人で下校した時に初三は私に一つの『約束』をしたんだよ」

 彼女は『約束』を守ってくれた家族に微笑み。 


 

「『俺の助けが必要なときは言え。それが家族ってモンだろ』ってね」


 雪白千蘭は何も言い返せなかった。なぜなら彼女も―――あの少年が約束を守ってくれることを誰よりもその身に知っていたからだ。約束の大切さを実感していたからだ。

「―――っ! ち、ちが、あ、こ、これは……」

 本能的に反射的に唯神達『家族』を守ったのだろう。

 夜来は今気づいたようにハッとして我に返った。

「怖いお兄ちゃんだ!! やったやった!!」

 腰に抱きついてきた秋羽伊那に夜来は気づく。

 彼女は心底嬉しそうに笑って夜来との触れ合いに懐かしさを感じていた。

「クソガキ、三号……」

「久しぶりに三号って言われた三号って言われた!! はやくお家帰ろ!! ね!」

 呆然としながら、秋羽伊那の明るい笑顔に目を奪われる夜来初三。

 ぎゅっと、唯神天奈はそんな彼を優しく正面から抱きしめてやった。

「心配した」

「あ、あ……」

「心配した」

「わ、悪、い」

「ん。許さない。だから早く一緒に帰って食事の準備をよろしく」

 未だに本来の調子を夜来は取り戻せていなかった。それは彼の死んだような目を見れば誰だってわかる。一目瞭然だった。

 しかし彼は。

 それでも『家族』の暖かさに心を取り戻せていた。

 だがしかし。


「初三に触るなアアあああああアアアあアアアアああああアアアアアアアアアアアああアアアアアあアアアああああアアアアアあアアアあアアアアあああああああアアアあああアアあアアアアアアああああアアアあああああアアアあアアあああアアあアあアアアアアアアああああああアアアアアアアアア!!!!」


 それを許さない一人の少女が絶叫を上げた。

 ゆっくりとベッドから立ち上がった彼女は、その長いストレートの白髪を振り乱して半狂乱気味に雄叫びを上げた。

「初三に……!! 初三にゴミが触れるな見るな近づくなアアああアアああアアアアアアア!! 汚れる!! 初三の神聖な体が汚れる!! アアアあううあウあうあああアアあアアアああアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!! 死ね!! 死ねぇエエええエエエエエエええええエエええエエエエ!!!!」

 ようやく彼女から離れてしまってことの重大さを理解した夜来は咄嗟に声をかけようとした。

 が、それよりも早く雪白が泣きながら、号泣しながら、懇願するように夜来へ手を伸ばしてきた。

「い、行かないでぇ!! 傍から離れないで初三ぃ!! い、嫌だ!! 怖い!! 気持ち悪い!! お前がいなくちゃ嫌だ!! ―――助けてぇ!!」

 必死な叫びに駆け寄ろうとする夜来。しかしそれを唯神天奈が阻止してしまう。

 彼の腕掴んでいる唯神は淡々と言い放つ。

「行かせない」

 

  





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