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人形

「『絶対砲撃―――火炎』」

 七色夕那は御札をばら撒いてから、再び『対怪物用戦闘術』の攻撃呪文を唱える。すると舞い散っていた御札の群れが円筒状の形へ収束していき―――爆発的な速度の豪炎を発射させる。

 まるで言葉通りの砲撃。いや、砲撃だなんて生易しいレベルではない。

 それは容赦なく由堂清の上半身に激突し、爆音が炸裂する。圧倒的な衝撃によって吹き飛ばされた彼は宙に舞い上がった。

 瞬間。

 呼吸さえも与えないタイミングで速水玲がありえない速度で移動してきた。空中にいることで身動きが取れなかった由堂は彼女の移動速度に目を見開く。

 一方。

 彼女は握っていた日本刀の先をビリヤードで玉を突くように構えて、


「痛みに苦しめ。―――ガキが」


 瞬間。

 瞳から放たれる殺気の量が膨れ上がった。 

 ゴシュッッ!!!! と胸の中心部に突き刺された刀は由堂の体を貫くと同時に、真下に存在する地面へ速水玲ごと突っ込んでいった。

 突きと連携して行われた地面への衝突。

 その激痛に由堂は苦しみ泣き叫ぶ―――ことがなかった。

 まるで痛みなど感じていない表情。ニヤニヤと『悪人祓い』二人の戦闘能力を図っているようなムカつく笑顔を浮かべていた。

「なるほど。―――君、確か分身魔術で生まれた人形だったな。だから死なずに痛覚すら感じないというわけかい」

「おや。さっすが速水玲。魔術に関しての知識もお勉強されているようで」

 速水はひとまず『人形』の体を蹴り飛ばした。

 転がっていった『人形』は体勢を立て直して笑顔を見せてくる。

「というか、あなたの戦い方は特に異常だよねぇ」

「なに?」

「七色夕那は『対怪物用戦闘術』を極めたいわゆる王道オーソドックスタイプ。対してあなたは―――自分の体に身体強化呪文・・・・・・をかけて戦う変則トリッキータイプ」

「俺の戦闘スタイルをこうも簡単に暴くとはねぇ。かなりの祓魔師ということはわかった」

「いやいや普通わかるから。本体とやりあってた茶髪の若造はマジで人間が出せる領域の動きをしてたが、あんたはもう人間じゃねぇだろ。ほれ」

 そう言って、由堂清の形をした『人形』は先ほど速水が破壊した床の有様を視線で示す。確かにあの破壊のレベルは人間が行えるものではない。非現実的な力が必要なほどだった。

「無駄話はよい」

 と、そこで七色夕那が一歩前に歩み出て、

 くだらんと言いたげな調子で告げた。

「『絶対撃退―――魔弾』」

 再びばら蒔かれた御札の大群。それは赤黒く発光した瞬間―――洒落や冗談では済ませられないレベルの勢いで飛ぶ弾丸へと変貌した。無数に突撃していく赤い閃光の群れは速度を落とすことなく『人形』のボディを―――粉々に破壊した。

 ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!! 七色寺の境内ではそんな轟音が閃光と共に雨のように降り注いでいく。

 結果。

 境内には怪獣が残したような破壊の爪痕が出来上がった。

 その有様を見て速水は小さく笑う。

「おいおい。君の寺を君自身が壊してどうするんだい」

「どうせ後で直すから問題ないわい」

 短いやり取りを行った二人は、先ほどの破壊によって生み出された煙の先へ注意を向ける。おそらくあの『人形』はそう簡単にくたばらないはずだ。よって油断が命取りになる。

 が、しかし。


 煙が晴れたその場には誰一人として生き物の姿がなかった。

 

 人っ子一人。

 虫一匹さえも見当たらなかった。

 その状況を飲み込んだ七色は一言。

「逃げおったか」

「いや、逃げたっていうよりは『本体のもとへ帰った』ってところだろう。本体のほうが人形を回収したに過ぎない」

「分身魔術とは便利で良いのう。儂も家事や洗濯に使いたいわい」

 吐き捨てるように日々の不満を呟いた七色に速水は笑う。切り替えが早い二人はきっと過去に何度も死地をくぐり抜けてきた経験があるからだろう。戦場と日常に慣れていると言えるかもしれない。

 と、そこで七色達の耳に聞きなれた声が響いてきた。


「七色さん!! ―――鉈内が! 鉈内が!!」


 振り向いてみれば、そこには七色寺の門の前で一人の少年を背負っている金髪の少女の姿があった。もちろん正体は世ノ華雪花だということに間違いは無い。ただし―――

「翔縁……!!」

 自分の息子のあまりにも血まみれの姿にぎょっとした七色夕那。速水も同様の反応を見せて近寄って来た。しかし二人は一度歩みを止めることになる。

 なぜなら―――あの男がさも当然のように七色寺へ繋がる階段を登り終えて姿を現したから。

「お久しぶりですねぇ七色さん」

「―――!? な、なぜお主が!!」

 立ち止まった七色に速水が声をかける。

「もしかして……あいつが前に君が言ってた……」

「夜来を襲撃した輩の仲間じゃ。……まさか!! お主が翔縁を―――」

 勘違いを受けていることに気づいた上岡真。

 彼は片手をひらひらと横に振って、

「ああ誤解しないでくださいね。鉈内さんボコボコにしちゃったのは一人の祓魔師です。僕はどっちかって言えば良い人キャラのはずですよ今回は」

「で、ではやはり先ほどの……」

 つぶやきながらも、上岡に対する警戒心は解かずに鉈内のそばへ近寄った七色。ぜえはあと荒い息を必死に吐いて酸素を取り入れている姿は実に痛々しかった。ごぽっと希に口から血が溢れ出てくる。おそらく内蔵にダメージはいっているだろう。

 ぎりっ!! と奥歯を噛み締めた七色は世ノ華を七色寺の本殿のほうへ向かわせる。

 最後にニコニコと笑っている上岡を横目でみると、

「ああ、僕はレモンティーでお願いします」

「……図々しい男が」

 

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