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推理

 夜来初三の捜索を行っている唯神天奈と秋羽伊那。

 しかし彼女は、手当たり次第に走り回るわけでも大声を上げているわけでもない。なんと唯神天奈は人が消えたファミリーレストラン内の席の一つに座って、勝手にドリンクバーを利用して一息吐いていたのだ。呑気にミルクティーを飲んでいる唯神の服をか弱い力で引っ張っているのは秋羽伊那だ。しかし小学生の力では高校生である唯神の体はビクともしないのが事実。

 よって秋羽は力ではなく涙で訴えてみせた。

「なにやってるの天奈お姉ちゃん!! 早く怖いお兄ちゃんさがさなきゃダメじゃん!!」

 しかし唯神は表情一つ変えずに、

「落ち着いて。いいからそこに座って」

「でも―――」

「座って」

 ぴしゃりと言い放つ。

 当然、対面の席に渋々着席した秋羽伊那の顔には不満の色が浮き出ている。

 それは予想通りの反応だったのか、唯神は溜め息を吐いてからファミレスで休んでいる理由を説明してやった。

「よく考えてみて。敵の目的は初三の殺害。なら、今の状況は言ってしまえば初三を先に見つけたほうが勝ちに等しい。私達が初三を見つけて保護する。あの男が初三を見つけて殺す。それだけ」

「そうだよ!! だから早く私達が怖いお兄ちゃんとこに行かなくちゃ―――」

「じゃあ聞くけど。それを敵が見抜いていて、『私達の後を尾行して初三の元へたどり着く』計画を敵が立ててる可能性はないの?」

「そ、それは……確か、に」

 盲点だったようで、秋羽は最後に小さく頷く。

 納得してもらえたことに唯神も小さく笑って、

「それに敵だってあの男一人、ということは絶対ではない。もしかしたら―――初三のもとまで向かおうとしている私達を陰から尾行してる者もいるかも」

 びくり、と秋羽の肩が跳ね上がった。

 確かにその可能性は低くはない。決して、夜来を狙っている連中が『祓魔師一人』だなんて証拠は存在しないのだ。もしかしたら、他にも大勢呪いを宿した悪人や銃火器を所持した奴らが息を潜めていることだってなくはない。

 なくはない。

 という時点で、リスクは既に浮上している状態だ。

 故に唯神天奈はバカ正直に夜来を探し、敵に尾行されていた場合に呆気なく殺されるような展開を防いでいる。ようやく状況を飲み込めたのか、秋羽はシュンとうなだれてしまう。

「ごめんなさい……」

「別に怒ってない。まぁもちろん、その私達を尾行している奴がいるのかどうかは―――これから調べるから安心して」

 言って、唯神はゆっくりと目を閉じる。

 しかし直後。

 その目に『魂を覗く』効果を宿した力を発動させてまぶたを上げた。その力は、唯神天奈と秋羽伊那にかつて憑依していた死神の形見のようなものでもある。そして、能力の所有者である唯神は『魂を見ることで周囲に魂(人間)があるかどうか』を確認し、誰も自分たちを尾行していないと確信を得た。

「まぁ、尾行の可能性は皆無」

「ほ、ほんと?」

「ん。とにかく尾行はされてない。ただ、ここから一キロくらい離れた場所には人がうじゃうじゃいた。ここが中心点だとすると、多分人が消えた範囲は直径二キロ、だね」

「べ、便利だね、それ」

「まぁ魂オンリーしか見えないけど」

 ミルクティーの入ったカップを揺らしながら言った唯神。

 彼女は窓ガラスに映った自分の顔を一瞥して、

「でも、まだ動くのは得策じゃないよ。初三が少なくとも一キロ以上は離れた場所にいることはわかったけど、人が多すぎてここからじゃわからない。だから動かなくちゃならないけど、闇雲に探すとかえって面倒になるパターンもある」

「じゃあ、探す範囲を特定するの?」

「ん。だから尚更体力温存の為にもここにいる間はこうして水分補給して休んでたほうがいい。どうせここからまだ動かないんだから」

 ミルクティーを飲む唯神の姿に秋羽は首を小さく傾げて、

「でもそれってお金払ってないし……」

「どうせ百円程度。出て行くときにカウンターにでも払っておけば問題ない」

 唯神は推理を立てていく。夜来初三の居場所を少しでも限定する為には、学校で習う知識ではない純粋な頭の回転の速さが必要だった。

 まず第一に、あの祓魔師と名乗っていた男の件に夜来初三の行方不明事件は関係がないと断言できるだろう。なぜなら、あの男も夜来を探している時点で居場所を突き止められていない証拠だからだ。少なくとも、第三者の手によって彼は監禁されているのか、何らかの理由で自ら失踪したということが分かるだろう。

 だが、自ら失踪という後者の可能性はないはずだ。

 なぜなら、

(初三は家族わたしたちを置いて勝手に出て行ったりしない……だから誰かが初三を監禁している可能性が一番高い)

 がりっ! と、唯神は親指の爪を噛んだ。

 しかし結局はその『誰か』が問題なのだ。その『誰か』さえ分からなければ収穫はゼロに変わりはない。

 が、しかし。

 逆に言えば『誰か』が分かれば大きな収穫は手に入るということでもある。故にその『誰か』という問題を唯神は必死に解き始めていた。

(考えてみれば……初三を監禁・拘束する理由として何がある? 憎しみなら……確かにクラスの男子からは雪白と仲がいいということで初三は嫌悪されていた。でも―――あの夜来初三を監禁できるほどの力は男子生徒達にない。……ん? ちょっと待って。そうだ。そもそも―――『あの夜来初三を拘束できるほどの「力」なんて誰が持っている』というの? 大悪魔サタンの力を扱う初三に勝てる人なんて……監禁できるほどの力を持っている人なんて第一に存在するの?)

 そこで何かに気づいたような顔になる唯神天奈。

 彼女の反応に首をかしげた秋羽伊那は声をかけた。

「どうしたの? 天奈お姉ちゃん」

「そうか。そうだった。思ってみればそうだった。あの初三を監禁・拘束できる人なんて存在しない。でも―――初三が攻撃できない、牙を向けることができない、『攻撃対象にできない人』なら初三はあの絶対的なサタンの力を振るうことができない……なら」

 立ち上がった唯神天奈は対面に座る秋羽伊那の手を取って走りだした。きちんとカウンターにドリンクバー代を払った部分からして、一応犯罪に等しい行為に抵抗はあったと見える。

 秋羽は自分の手を引いていく少女の背中に思わず声をぶつけていた。

「お姉ちゃん、一体どうしたの!?」

「絶世の美少女に飼われてる情けない家族を迎えに行くだけ!!」



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