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分身魔術

「これは……」

「ああ、お主も気づいたか」

 七色夕那と速水玲の二人は七色寺の境内で立ち話をしている最中だった。しかしそんな友人との他愛も無いやり取りを邪魔した存在。

 いや、異変。

 それが。

「この感じ。―――魔術による『指定物の強制転移』じゃな」

 七色寺からは距離がある街の中心部で起きた魔術の存在を察知した『悪人祓い』は、睨むように異変が現在進行形で発生している場所に視線を向ける。

 しかし距離がある為具体的なことがどう起こっているかは分からない。

 隣にいた速水はピクリと眉を潜めて、

「待て。ということは祓魔師エクソシストがこの街に入ってきたということかい? だとしたら狙いはなんなんだ?」

「儂ら『悪人祓い』は言ってしまえば『怪物全般』を相手にするバランスタイプじゃ。一方『祓魔師エクソシスト』というのは『悪魔専門』のひとつの分野に特化したパワータイプの連中じゃ。ということはもちろん、悪魔を払うのが祓魔師の仕事なのじゃから―――」

「この街にいる悪魔を払いにきたと? 例えば―――悪魔の神に憑依されてる不良少年だとか」

「その線が濃いのう」

 嫌な予感がする。

 二人共同じ気持ちを抱いたのだが、それを理論的に語ることは出来なかった。もしも祓魔師の狙いがあの少年の場合、実際に倒せるかどうかよりも―――なぜあの少年を狙うか、だ。

 この世界には様々な場所で『悪魔』に憑かれている悪人がいるはずだ。それこそ世界中に。だというのに、その広範囲の中からあの少年を狙いに来る理由がわからない。

 それに彼は自分に憑いている悪魔との関係は良好だ。故に彼自身にも周囲にも何の被害は出ていない。

「どうする? 一応夜来のアホと連絡を取るかね?」

「いや、今は街で大暴れしている祓魔師のもとへ向かうのが先じゃろう。夜来を狙っている理由がわかれば、そのあとにどういう対処をすればいいかも解明できるしのう」

「まぁ俺もそう思うけど。やっぱ一応連絡は入れといた方が―――」

 そこで気づく。

 七色と速水は、そこでようやく後方に立つ恐ろしいソレに気づく。

 バッと振り返った二人の体に迫ってくるものは―――


 ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!! と、地面を砕いて破壊の嵐を生み出しながら突っ込んでくる閃光の塊だ。


 光り輝く球体と化している閃光の規模と破壊力は凄まじい。七色寺の境内である、しっかりと手入れされていて落ち葉一つ転がっていない地面を喰うように削り取っていた。

 それが今まさに七色達の体を消し炭にしようとしたとき。

「子供騙しじゃな」

「まったくだ」

 対して、『悪人祓い』二人はくだらんと言いたげな表情を浮かべていた。瞬間、七色が放り投げた黒い御札が膨張するように膨らむ。それはブラックホールのように迫ってきていた閃光の塊を―――飲み込んでしまった。

 吸収するが如く閃光の攻撃を吸い込んだ御札は、舞い落ちる葉のようにひらひらと落下していく。

 と、同時に。

「あー。やっぱ、かの有名な七色夕那と速水玲の二人にはかすり傷一つ付かないかっつー悲しき事実に終わったかぁ」

 ぼやくように告げたのは茶色のコートのような服を纏った、長い髪を後ろで一本に縛り眼鏡をかけた男。つまり祓魔師の由堂清ゆうどうしんだった。

 彼の姿は何ら変わりないものに見えたが、よく見れば時折ノイズのようなものがジジっと走っている。まるで映像が飛び出ているような体だった。

 その様を見て七色は一瞬で見抜いた。

「お主―――『分身魔術』を使っているな?」

「おや。もうバレちゃった? うわーさっすが」

「当たり前じゃ。ということは―――『本体』はあそこというわけか」

 チラリと、街の方で発生した異変地点に視線を向けた七色。

 由堂は肩を大きく竦めて、

「まぁ、あっちじゃ『本体』である俺に無謀にも立ち向かってる茶髪の若造がいるんだけど、たった今血ぃ吐いて転がってるよ。ありゃ爆笑ものだよねぇ吹いちゃうわ。あ、なんなら写メ送ってやろうか? いいアングルで撮ってやるからアドレス教えてくれよ」

 根っこは相当真っ黒な喋り方をする分身体である由堂清もどき。

 嗜虐的な笑顔を崩さない彼を一瞥した七色は、苦い顔で呟く。

「……翔縁があっちにおるということか」

「みたいだな。……どうする? 俺一人でもなんとかしてやれるが? なんなら親バカらしく助けに行くかい?」

 七色はそのありがたい申し出に鼻を鳴らし、

「たわけ。翔縁のバカも夜来のアホも―――そこのロン毛祓魔師一匹にやられるような未熟者に育てた覚えはないわい。ほうっておけば自分の身ぐらい自分で守るじゃろう」

「とかなんとか言いつつ、助けに行きたくてうずうずしてるんだろ?」

「う、うずうずしてなんてしてないもん!!」

 しかし現在もっとも危ない状況なのは夜来初三のほうだろう。目の前でダルそうに肩を回している由堂清。彼、祓魔師の目的とは当然悪魔を払うことだ。ならば当然ターゲットにされているのは―――

「夜来初三及びその邪魔をする関係者の殺害が俺の目的デース」

 由堂は片手をふりふりと上で振る。どこかやる気のなさそうな態度だ。

「ってわけで、早速だけどお二人にはちゃっちゃと? とっとと? さっさと? まぁとにかく早急に目的の邪魔されないように殺そうという考えに基づいてこうして奇襲かけたんだけど、どうかな? なんなら今すぐ自殺してくれるとありがたいんすけど」

「―――ほざけガキが」 

 瞬間。

 吐き捨てるように言い放った速水玲の体が消えた。まるで霧散するように消失した彼女に眉を潜めた由堂だったが―――そこで察知する。瞬間、猛烈な殺気に体中の細胞が悲鳴を上げた。


 後ろだ。


「ッ!?」

 ギュン!! と、反応が遅れるのも無理はない速度の移動で由堂の背後に回っていた速水玲。彼女が放った突き刺すような後ろ蹴りは、獲物の体をくの字背中バージョンに変形させて吹き飛ばした。

 ゴギギギギギ!!!! という背骨を折り曲げたような音色が響く。

 しかし転がっていった由堂は痛みを感じている様子がない。むしろ狂ったようにニヤニヤと笑っていて恐ろしい程だ。彼は速水玲という女を上から下まで一瞥し、

「なるほどねぇ。さっきの動き―――『本体』と戦ってる茶髪の若造と似てるよな? どういうわけなの?」

「鉈内の体術と俺の体術が似るのも無理はない。だって―――あの『武術を用いた戦い方』は俺が教えたんだから」

 再び駆け出した速水怜は胸ポケットから御札を取り出し―――まるで鉈内翔縁のようにそれを日本刀に変換させる。

 さらに。

 鉈内よりも洗練された動きで刀を振るうと同時に、鉈内よりも素早い蹴りや体術を混ぜ込んでくる。まばたきを一度する間には刀を三回振るい蹴りを叩き込む。

 まさしく武神と評価できるレベルだった。

 危険を感じ、バッと飛ぶように勢いよく後退した由堂。それを見た速水は、後頭部で纏めておいた自身の長い茶髪を下ろして―――目の色を変える。

「アイツは詠唱や呪文を使った戦い方が苦手だ。だからアイツは武術の訓練をして純粋な戦闘能力を鍛え始めた。だが、考えてみなよ。所詮アイツは『独学』で訓練していたにすぎない。ならばあそこまで武術を鍛え上げるにはもっともっと長い年月がかかるはずなんだよ。だというのに、あの年であのレベルまで技術を向上させられた。さて、なぜでしょう?」

「……」

 速水は下ろした長い髪を揺らして近づいてくる。

 その手に握られた刀を振り上げて、


「正解は―――俺が『師範』となって『稽古』してやってたからだ」


 再び猛攻が迫ってくる前に由堂はさらに距離を取った。

 しかし着地した瞬間、

「『絶対拘束―――神縄』」

 ギュルルルルル!! と、絡みつくように由堂の体を拘束したのは光り輝く縄の群れだ。彼は特に慌てる素振りもなく拘束の強さを確認してみるが、やはり腕一つ満足に動かすことすら不可能。 

 カツン! 

 そこで幼い外見を持つ『悪人祓い』が足音を鳴らした。

「間抜けが。儂を忘れるとは阿呆にもほどがあるじゃろう」

「おーおー、そうかそうか思い出した。確かお二人は昔、タッグを組んで『悪人祓い』の仕事をこなしていたんでしたっけ? 挑戦した者が死人となって帰ってくるレベルの『怪物』を払ったり退治したりして、悪魔専門の祓魔師エクソシストや妖怪専門の法師だとかの間にまで名が広まってたっけなぁ。―――詠唱や呪文や『対怪物用戦闘術』の扱いに長けていた七色夕那。体術を組み合わせた独特性溢れる戦い方をする武人速水玲。そういえばそんなことも言われてたよねー。なんかかっこいー異名とかあった気もするけど、なんだっけ?」

「随分とまぁ昔の儂らを知っている歴史ファンもおるのじゃな。ま、ロン毛祓魔師なんぞに知れらていても嬉しくないが」

 ふてくされるように返答を返した七色。

 対して、絶対的な拘束に身を包まれたままの由堂は鼻で笑って、


 自身に絡みついたままの拘束をブチブチと紙を破くように切り捨てた。


 見ればその手には悪魔祓い専用の短剣が握られていた。しかし七色の『対怪物用戦闘術』による拘束はレベルが高かったのか、短剣はビシビシとヒビが入っていきバラバラに砕け散る。

 その事実からして。 

 由堂清もかなりのレベルの―――祓魔師なのだろう。

「ひっどいなぁおい。俺はこれ散髪代もったいないから切らないだけだっつーの」

 

  

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