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祓魔師

新キャラ登場エクソシストさん

 少女の愛に支配された少年。

 彼はもう彼女に抗うことさえ許されなくなっていた。

 しかしこの悪人話によって―――少年は一つの答えに直面する。

 が、しかし。

 答えを見つけたその瞬間―――少年は『闇』に飲み込まれてしまう。

 なぜなら少年は『悪』だから。

 これは、少女の愛に答えを持った少年が『新たな悪』に食われるお話。悪の中に眠っていた悪が覚醒し、闇の中に息を潜めていた闇が雄叫びを上げる黒い悲劇。

 少年が決して善人にはなれない理由が明かされる悪人話だ。



「『エンジェル』? 祓魔師エクソシスト……? それって、アンタみたいな『悪人祓い』みたいな奴ってわけ? そんであの気に食わない男は兄様を狙ってるってわけ?」

「でしょーねぇ。少なくとも僕と―――同業者・・・に近い奴だってことは確かだね。それも怪物の中でも『悪魔』専門のプロ」

 鉈内はいつの間にか周囲から人が消えている路上や交差点を見渡し、次に祓魔師エクソシストと名乗った茶色のロングコートを着用している髪の長い男に視線を向けなおす。

「多分、さっきの攻撃も周囲から人が消えたのも―――魔術かもしんないね」

「魔術? なによその胡散臭いそれは」

「祓魔師が使う術だよ。僕たち『悪人祓い』が使う『対怪物用戦闘術』と同じ。祓魔師専門の特殊な術。まぁようは魔法とかと大差ないよね」

 一歩前に出て鉈内と並んだ世ノ華は『羅刹鬼の呪い』を発動させる。瞬間、額に存在する『羅刹鬼の目』からは強大なオーラが放出されていると錯覚するほどの威圧感を放つようになる。

 さらには全長三メートルを越す金棒を右手に生み出し、額からは長い一対の角が生える。

 間違いない。

 鬼と化した少女の姿だ。

「で? 結局その祓魔師は軽くシメテいいわけね?」

 鬼に染まった世ノ華は、その手に握りしめていた金棒を不良がバッドを持ち運ぶように肩に乗せる。鉈内は輝く日本刀―――夜刀を軽くひと振りして調子を確かめてから言った。

「カツアゲも含めてバリバリオッケーだよ元ヤン女。それに今なら愛しの兄様も被害に遭う人間もいないんだし、もしかして血の気騒いでて血圧上がってる?」

「死ねチャラ男。何なんだよテメーは乙女のメンタルぼっこぼっこに攻撃してきやがって。殺すぞ」

「あ、今の『殺すぞ』はなんかやっくんぽいね」

「え、本当本当!? 本当に本当!? 私ってばそんなかっこよかったかしら!?」

「ちょ、デジャブデジャブ!! まじデジャブだからやめて!!」

 またまた窒息死寸前の地獄を体験することは鉈内は断固拒否する。と、そこで世ノ華は背後で固まっている唯神と秋羽に振り返り、

「あなた達は兄様のとこに行きなさい。ここは私一人で片付ける。そう、私一人で」

「遠まわしに戦力外通告だすのやめてくれるー? マジで今すぐ泣き喚くよ僕」

 秋羽は突然の事態が発生したことに動揺が抜けきっていない状態だが、それでも仲間を置いていくことに抵抗があるようだった。

 一方。

 唯神天奈は小さく息を吐いてから秋羽の手を取って、

「行くよ」

「で、でも、翔縁お兄ちゃんが!! それに雪花お姉ちゃんも―――」

「私達にあの二人と共闘できる力はない。いても邪魔。それに―――あの男の狙いが初三なら、私達家族がいち早く初三を見つけ出さなきゃダメ」

「っ……わ、わかったよ!」

 決心したのか、秋羽伊那は唯神に手を握られたまま足を動かす速度を上昇させる。

 唯神は満足そうに小さく笑って、後ろで起きている戦場からいち早く脱出していった。

 その小さくなっていく後ろ姿に小さく頷いた世ノ華。

 彼女は祓魔師に金棒の先端を向けて、ギロりと睨みつける。

「んで? テメェが兄様っていう美しく清らかで世界遺産なんか屁でもねぇ素晴らしい存在を狙う理由ってなァ何なんだよコラ。つーか純粋に気に食わねぇんだよボケ。なにちゃっかり兄様のことフルネームで呼んでンだよ、あぁ?」

「うっわー伊那ちゃん達消えたら即効不良モードだよ。ちょー怖い」

 男は鉈内と世ノ華の二人を見比べるように確認してから、ゆっくりと口を開いた。

「まぁ、そうだな。俺たち『エンジェル』の目的・目標にとって、夜来初三っていうのは殺さなきゃいけない存在だから……かな」

「はっ! 説明になってねぇバッカバカしいこと口走ってんじゃねェよカスが。つーかテメェ、私の前で兄様侮辱した=撲殺決定さようならーって常識知んねぇのか? あ?」

「ありゃりゃー。情報通り怖い女の子みたいだな。ま、それも当然か。だって―――」

 祓魔師は髪を片手でガシガシと掻きながら、


「豹栄くんに『滅亡させられた』んだもんね。君の人生ぜーんぶ」


 瞬間。

『豹栄』という人名一つで堪忍袋が爆発した世ノ華は『羅刹鬼の呪い』を全力で引き出して跳躍する。いや、跳躍とは言っても地面スレスレを飛ぶように突っ込んでるのだから低空飛行と言えるかもしれない。

 男の懐へ一秒とかからずに到達した世ノ華は、

「アイツの名前はタブーだろォがよォ……!!」

 空気を潰すようにゴオッッ!! と振るわれた鬼の金棒。それは容赦なく祓魔師の体へ直撃する―――寸前に、魔法陣がその衝突を跳ね返した。

 慌てて数歩後退した世ノ華。

 その様を見て男は爽やかに笑い、

「はは!! そんながっつかないでよ、ライオンみたいで怖いな。俺は『悪魔』専門で、『妖怪』は専門外なんだから分が悪い」

 世ノ華はうっすらと目を細め、

(私に憑いてるのが『鬼』だってことも知ってんのか……) 

「おいチャラ男! テメェ似たような仕事やってんだからなんとかしろコラァ!!」

「はぁ!? 無茶言うなって。ってか僕は見習い出し」

 言いながらも、祓魔師の裏へ回り込んでいた鉈内は夜刀を引いて構えていた。ギギギギギギギギギギギギギギギ!! と、まるで弓矢のように蓄えられた力を放出する寸前の刀を一気に解放する。

 しかし。

 ガッキイイイイイイイイイイイン!! と、やはりまた厄介な魔法陣が出現し、その横振りの一撃をガードしてしまった。が、鉈内はそれで終わらない。背後から正面に回り込み、頭から足までの様々な場所を狙って夜刀を振るい、横にステップして攻撃位置を変えたりとしながらも持てる力を全力で駆使する。

 しかしどこにも穴は見当たらなかった。

 祓魔師は小さく苦笑し、

「弱いなーお前」

「―――っがっッ!?」

 ゴガン!! と、突如こめかみに叩き込まれた回し蹴りによって吹き飛んでいった鉈内。すぐに体勢を立て直す彼だったが、すぐさま追い打ちがかかってきた。

 ボクシングのような動きで素早く重いジャブからのストレートパンチ。ボディブローからフックまでを繰り出してきた攻撃。鉈内は体中を襲ってくる衝撃に血の塊をドロリと吐き出し、蹴り飛ばされて転がっていった。

 圧倒的な実力差。

 鉈内は今まさにそれを実感していた。

「鉈内!!」

 彼のもとへ駆け寄った世ノ華は改めて祓魔師を警戒の色が宿った目でみる。

 彼はストレッチするように首を回してから、

「俺は祓魔師エクソシスト由堂清ゆうどうしんお兄さんだ。ちゃーんとさん付しろよぉ若造が」


 

 

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