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おかしい

「―――それ、本当なの? 本当にサタンさんが雪白ちゃんのこと……」

 全ての話を鉈内翔縁と世ノ華雪花に打ち明けた秋羽伊那。七色寺の境内の中で集まっている三人は、サタンの豹変に対する原因をつかもうとしていた。

 すると、沈黙していた世ノ華が鉈内に向けて口を開いた。

「でも、それ、おかしいわよね」

「うん。それはおかしい。ありえない話なんだよ」

 確固たる確証がある瞳でそう言い切った二人に、秋羽は懇願するが如く形相で尋ねていた。

「な、なんでおかしいの? 綺麗なお姉ちゃん、ただ怖いお兄ちゃんと一緒にいただけなのに、何であそこまでサタンちゃん……」

「そこよ。おかしいのは」

「え?」

 顔を上げた秋羽に、鉈内が自分の胸をトントンと叩きながら『おかしい』理由を告げた。

「怪物と悪人を一つにしているのは『悪』なんだよ。正確に言えば、『共通する感情・人生・生き方・思考・罪・存在』っていうものが『悪』。雪白ちゃんなら男を憎む『感情』で、世ノ華なら『滅亡させた』『滅亡させられた』っていう『人生』。伊那ちゃんの場合は生死を分けなくちゃっていう『思考』。それらが『悪』だ。っていうことはだよ―――『本物の悪』っていう『悪』を背負っているやっくんとサタンさんの共通する『悪』っていうのは、『思考』に近いはずだよ。だからやっくんは、よく相手を『間違った悪』だな、とか『ちっぽけな悪』だな、とか『本物の悪』の視点から相手の『悪』っていうか『存在』を評価してるでしょ? まぁ、あれって多分、癖なんだろうけどね」

「そう。ということはサタンと兄様は『思考』が似ていることになる。『悪』っていう存在の価値観が同じってわけね。なら聞くけど―――兄様と『同じ思考』をする存在のサタンが、自分の好きな人と一緒にいる女に嫉妬しただけで、そいつを殺そうとすると思う? 兄様なら、そんなことをすると思う?」

 その質問に対して。

 秋羽伊那は首を横に振ることしか出来なかった。

 確かにあの夜来初三と同じ考え方をする大悪魔サタンが、嫉妬しただけで雪白千蘭をあそこまで叩き潰すとは到底思えない。そんな行動は『本物の悪』らしくないはずだ。『間違った悪』のはずだ。

 すると鉈内は若干青ざめた顔で口を開き、

「まぁ、僕は何回かサタンさんに殺されそうになったけど、あれだってちゃんと加減してるし。サタンさんは確かに嫉妬深いけど―――ただの嫉妬で本当に殺人を犯すような人じゃないよ」

「っていうことは……雪白の奴を『叩き潰すほどの理由』があったってことになるわね。サタンがそこまで怒るほどの理由を雪白は作っちゃったんじゃない、かしら」

 その質問にはさすがに秋羽伊那も答えられなかった。

 サタンを豹変させるレベルの原因を雪白千蘭が作り上げた。

 一体、どうやって? 

 そこが分からなければ何の進展もしないはずだ。

 と、そこで鳴り響いた可愛らしい怒声。

「翔縁!! なーにをサボっとるんじゃこのチャラ男が!! 掃除もチャラチャラしなければできんのか!? だったら今すぐその茶髪丸刈りにせんかい馬鹿者が!!」

「うっわーやべーバレちった―――ごふっ!?」

 まったく反省している様子がない鉈内の脇腹に、強烈な飛び膝蹴りを叩き込んだ七色夕那。呻き倒れ伏している彼に溜め息を吐いた七色は、世ノ華の姿に気がつくと、

「おお、待っていたぞ世ノ華。いつからここに来ていたのじゃ?」

「ええまあ。ちょっと前くらいですね」

 七色と共に七色寺の本殿へ立ち去っていく世ノ華。

 最後にバツが悪そうな顔しながら、話に最後まで付き合えなかったことを謝罪するように秋羽へ小さく手を振った。

 未だに脇腹を押さえ込んで呻いている鉈内に声をかける。

「雪花お姉ちゃん、一体どこ行っちゃうの?」

「あ、ああ、今日は―――ごふっげふっ!! 世ノ華の定期的な健康診断がある、ごほっ! あるんだよ」

「健康診断? お姉ちゃんって体悪いの?」

 呼吸を整えて立ち上がった鉈内は口元に手をてながら、

「い、いや、ほら、世ノ華の体にはまだ『羅刹鬼の呪い』がかかったままだから、体に異常がないか夕那さんが定期的に確認してるんだよ」

「そうなんだ。……って翔縁お兄ちゃん大丈夫? なんかもの凄い吐きそうな感じなんだけど」

「う、うん。ちょっと、トイレ行って胃の中全部ぶちまけ、れば大丈夫だから。伊那ちゃんも今日は一旦帰ったほうが、いいよ」

「それはもう大丈夫じゃないと思う」

 渋々帰宅することにした秋羽伊那だが、また彼らに頼ることになるとはこの時は知らない。

 そう。

 夜来初三が今日から家に帰らなくなり、行方不明になるまでは。


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