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同盟成立

 冷や汗でびったりと背中に張り付く服に顔をしかめ、夜来は後部座席で意識を失っている雪白や世ノ華、七色の状態を確認する。大きな怪我や異常は見られないため、安堵の息を漏らす。

 場所は天山市から離れた森の中で、大きな湖があるだけの所だった。しかし、夜叉夢の転移魔術によってここに飛ばされたのではない。天山市の端に転移し、ある男たちと接触した後に、黒塗りのワンボックスに乗ってここまで移動したのだ。

 夜叉夢が三人を見ているということで、夜来はワンボックスから外に出る。すると、背中に声がかかった。

「今頃は上岡さんが足止めをしている。あの人を相手にすれば、黒神名無と言えども易々と追ってはこれないだろう」

「まさかお前らに助けられるとはな。感謝する」

 缶コーヒーを二つ持って現れたのは、大柴亮だ。彼は片方を夜来に放り投げ、離れた場所でタバコを吸いながら蓋を開けた。

「礼を言うとは丸くなったな。豹栄さんと喧嘩していた頃とは大違いだ」

「大人になったと言え。沈めるぞコラ」

「脅迫の仕方もどこか変わったな。ジャックナイフだった頃のお前はどこにいったのやら」

「……性格が変化した理由は主に二つ、かね」

 蓋を開けた夜来は続けて、

「一つは単純な精神成長。二つ目は、終三の大人しい人格が俺の人格に影響を与えているんだろう」

「心臓を共有したことで、弟とつながっている状態だからか」

「……『悪』による殺戮衝動もある。大人しく見えるのは外だけだ。内側じゃあ、今でさえも手当たり次第に返り血を浴びたくて仕方ない俺がいる。特に白神一族の血をな」

「お前が鉈内翔縁を嫌っていた理由は、もしかしたらそこなのかもな」

「だったら、俺はどこまでも俺を知らねえことになる。あいつらの作品の一つとしてチャラ男を嫌っていたならな」

「……言葉を間違えた。すまない」

「気にしてねえよ。事実なんだ。受け止めているっつーの」

 夜来は鼻で笑って、視線をワンボックスの助手席にやる。そこにはパリにでもいそうな格好をした一人の悪人祓いが頬杖をついている。運転席には狐に憑かれた悪人もいた。助手席の窓は降りているので、夜来はコーヒーを片手に声をかける。

「で? 『エンジェル』のお前らが小悪党とつるんで俺を助けるとは、どういう了見だ」

「……」

「無視すんなハット帽。てめえだパリ人もどき」

「……私のファッションは関係ないだろう」

 ザクロ。

 夜来が知る限り、悪人祓いの中でも頭一つ飛び抜けた実力を備える男だ。彼は夜来や鉈内と同様に、七色という人間に救われた過去を持つ。言わば夜来や鉈内の兄のような位置にいるわけだ。

 ザクロの冷徹な色の瞳がこちらを射抜いた。

 夜来は眉根を寄せる。

「アルスは上岡と同盟を結んだ。黒神一族の殲滅までは、『エンジェル』と『デーモン』は協力関係にある。『デーモン』所属の貴様を攻撃するつもりは毛頭ない」

「なぜ手を組んだ。ぶるっちゃってお前らだけじゃ膝が笑うからか?」

「そうだ。黒神一族は『エンジェル』と『デーモン』の両者が手を組まない限り対等には渡り合えない」

「なら質問を変える。なぜ『エンジェル』の残党たるお前らは黒神一族に刃向かった」

 鼻を鳴らしたザクロは即答する。

「七色さんを守るためだ」

「てめえの動機が七色だってことは知ってるっつーの。隣の狐はてめえにご執心だから納得もいく。謎なのはアルスだ」

「……ふむ。まあ、奴の場合はあれだ」

 ザクロは薄く笑った。

 夜来を一瞥してかく述べる。

「貴様らにあてられて、本物を追い求めているんだろうさ。王として背負う悪―――平和にする悪、その真髄を」

「……奴が勝手に変わっただけだ。俺もチャラ男も関係ねえな」

「アルスはお前たちの守った世界を価値あるものとして認識するようになった。関係ないわけないだろう」

 夜来は隻眼の王様を変えたのだろうか。

 もしも天空の城での夜来の発言が、アルスの価値観を最後の最後に変えたというのなら、それは勝手にアルスが夜来の言葉を深く重く受け止めただけだ。夜来は何も助けていないし救ってもいない。成すべきことを成しただけ、一貫して本物の悪であったに過ぎないのだ。

 夜来はため息をこぼす。

「どうであれ構わねえよ。とにかく、奴もお前らも協力するっつーなら助かる。喜んで友情を結ぼうじゃねえか。そっちの狐もよ」

 伊吹連。

 九尾に憑かれた悪人は、かつて自分を半殺しにした過去を持つ悪魔の王を前に、表情は固くなっていた。

「利害の一致。ただそれだけだ。俺は貴様と友好的にするつもりはない」

「おーこわこわ。妖怪は血の気の濃い奴ばっかりだ」

「悪魔も大概だ」

「そう根に持つなよ。雨降って地固まるだ」

「固まらない時もある。それが今だ」

 夜来と伊吹のやり取りを眺めていたザクロは、退屈そうにコーヒーを飲んでいる大柴に向けて尋ねた。

「正式に同盟を結ぶ、ということでいいな。『デーモン』のストラテジスト」

「上岡さんが同意した以上文句はないさ。『エンジェル』の悪人祓い」

 悪魔と天使の殺し合いは終わる。新たに始まる戦を前に、双方は手を取り戦力増強を行ったのだ。この同盟から黒神一族の脅威のほどを知ることができる。

 敵は悪魔でも天使でもない。

 邪悪な血を引く、いかれた一族なのだ。

「ところで、悪人祓い」

「何だ」

 大柴はザクロをまじまじと眺めて、

「お前さん、ツッコミ役だと期待していいんだよな」

「……?」


 




 



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