もう一匹の最強
「ほうほう。さすがアルスさん、王様なだけあってご奉仕プレイをセレクトするとは。しかも男もいける口ときた。食わず嫌いのないところに共感を抱きましたよ」
再び激突が始まる。誰もがそう思う緊張感の中、場違いな下ネタが飛んできた。アルスと名無、ギリシャ神話の王と黒神一族頭首の、最強と言わざるを得ない二匹の怪物の中に介入できる怪物など、下ネタ好きという点も加味すれば大体の見当はつく。
そいつはぽっと現れた。
アルスと名無の間に、すっと幽霊のように出現した。
「男二人じゃ花がない。けれど愛の花は咲くかもしれない。雄花と雄花の愛の力、僕はありえるものだと信じていますよ」
相変わらず、ホストのような金色のスーツに身を包んでいる。金髪の混じったオールバックも自己主張が激しい。そして、何よりも目立つのは、その子供のように屈託のない笑顔だった。
「さあ! 僕も混ざって3Pにしましょう! 受けは名無さんお一人ということでオッケーですね?」
言って、パチンと指を鳴らす。すると、一拍おいてから、バンと黒神名無の右半身が内側からはじけた。ポップコーンのように血肉が飛び散り、さすがに名無もよろめいてしまう。アルスの圧倒的物理攻撃とは違う、理解しがたい謎の一撃。これは効いたらしい。びちゃびちゃと出血しながら、名無は意外そうに呟いた。
「上岡真。千の怪物、だったかな」
「……はあ」
上岡はため息を漏らす。呆れるように腰に手を当てて、
「分かってないなあ。これはあなた一人のご奉仕プレイなんですよー? 僕のことはご主人様って言わなくちゃね」
「妙だね。君はそこの王様のせいで怪物へ至った恨みがあるはずだ。なぜ『デーモン』が『エンジェル』と共闘するのかな」
上岡はアルスに目をやる。王は訝しそうに見返してきた。
「あなた方の兵器として作られた僕が、アルスさん、あなたに力を貸すのは気分がいいものじゃない」
「だろうな。俺は上岡真という人間を殺し、お前という名前なき怪物を作った。お前が上岡の意志を引き継いでいる以上、お前と俺は仲間にはなれん。そこには絶対的な憎悪の壁がある」
「ですが、状況が状況です」
上岡は黒神一族頭首を見る。
いつの間にか体が元に戻っていた。既に余裕綽々な雰囲気を纏っている。
「黒神一族により、夜来さんもまた僕と変わらない痛みを知った。彼は人の死をあまた背負い、上岡真は怪物をあまた背負った。共に自分というものが消えていく運命にある。けれど、夜来さんはまだ助かるかもしれない。悪に飲まれ切っていない以上、まだ救える見込みはある」
「夜来を助けるのが貴様の目的か」
「可愛い部下のため、という思いもありますが……」
上岡は笑っていた。
ただし、それは顔だけの笑顔だった。
「あまたの人間を材料に悪を創る所業。いやいやー、上岡真がもっとも忌み嫌う悲劇も同然。上岡真からすれば、これは鏡の自分をみる行為だ。いい感情など持てるはずもない」
「嫌悪、か」
「ご名答。個人的な理由で僕はここにいる」
「そして、俺と渋々肩を並べている、と」
「ですねー。とりあえず、名無さんを調教してMに改造しましょう。それまではあなたを戦力として認識します」
「……いいだろう。『デーモン』と『エンジェル』の因縁はしばし放る。黒神一族滅亡までは協力することを誓おう」
並んだ神々の王と千の怪物は、黒神一族頭首と向かい合う。これで戦力差に大きな変化が生じた。ギリシャ神話最強と怪物人間、これに相対する名無も余裕はないはずだ。事実、後ろに組んでいた両手は解かれている。警戒の証拠だ。
上岡真は相変わらずの笑顔で、
「さあさあ。ちょっと激しいボーイズラブを奏でましょうか」




