来迎の時
目の前には、絶対的な狂気を振りまく黒神一族当主と対峙する、小柄な背中があった。まだ若いその女は、華奢な体に合った上品な瞳を持っていた。
右顔には縦に大きな切り傷が残っている。
その傷跡の目立つ目の射抜くのは黒神名無。
セミロングの黒髪が風でふわりと浮く。彼女は黒神名無から目を離さぬまま、口を開いた。
「あら。お強い方かしら」
彼女は赤と黒を基調にした気味の悪いドレスを纏っており、背中から邪悪以外に表現のしようのないオーラを放つ。薄く笑みを浮かべると、右顔の傷をそっとさする。
「お前が,式神か………?」
「今となっては夜叉夢という具合に改名された身ですわ。私のことは夜叉夢とお呼び下さいませ」
「………単刀直入に尋ねる」
「どうぞ」
「お前は俺を助けてくれるのか」
「可能なかぎりは」
夜来はその返事だけで十分だった。
無駄なことは考えるな。今はとにかく成すべきことを成せ。
「俺を助けてくれる理由は後で聞こう。とりあえず……逃げられるか」
夜叉夢はクスクスと笑って、
「ええ。まあ」
途端に、夜来の使う魔力とはまた違う桁違いの力が、つまり全力のサタンとも渡り合えるほどの力が拡散する。それは七色たちをねじ伏せていた謎の力を破壊し、くわえて謎の魔法陣が地に描き出されていく。
次の瞬間、彼らは天山市から姿を消していた。
逃げられた。
遊びに来た程度の感覚だった黒神名無は、少々気分を害された。嫌われる、怖がられる、避けられている状況に単純な不快感を覚えている。だからこそ、彼は異常とも言えるだろう。自身の狂気を自覚できていないのだから。
「あの式神、少し気になるね」
謎の式神。怪物ではあるらしいが、自分の力を打ち破るだけのあの力量からして、かなりの怪物であることは推測できる。しかし、最後のは明らかに魔術。転移魔術の使用を行った以上、単純な怪物と断言できるとは思えない。魔術をあつかう上級怪物、……しかし魔術とは本来人間の生み出したもの。矛盾しているじゃないか。いやしかし、オーディンのような場合もあり得るわけで……。
黒神名無は顎に手を当てて考察する。
そんな折、階段をのぼってくる足音が聞こえた。どこか威厳さえ感じさせる不思議な足音は、徐々に舞いのぼってくる。
「相変わらず子供だな、黒神名無。遊び相手がいなくなってご機嫌ななめというわけか」
「……これはこれは。久しいねえ。哀れな平和主義者よ」
「くく、否定はできんな」
隻眼の男がやってきた。
狂気の王の前に、本物の王が現れる。玉座から引きずり下ろされ、天より突き落とされた神々の王は美しく笑った。右目を失い眼帯を装着しながら、それでもなお、やはり強者として狂者の前にやってきた。
「俺様は少し腹の虫が悪い。王たる俺を前に、三下が跪かないとはどういうことだ」
王・アルスが降臨する。
狂気の怪物を退治するため、神々の王はやってきた。
「何か用かな」
「貴様を殺しにきた。白神一族や夜来に任せるまでもない」
「君はそっち側か。私に協力する気持ちはないのかな。以前、君の夢を、悪を叶えるために、私たちはパトロンになったというのに。恩義を感じてはくれないのか」
「仇で返してやるさ」
強者と狂者は向かい合う。
直後、神話に描かれるような戦いが始まる。
謎の新キャラ
懐かしの王様の登場でした!
アルスお帰り!




