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黒神名無

 





 抵抗など出来なかった。

 一瞬で鮮血が階段を染め上げる。

 段差によって赤い滝が下へ流れ落ちていく。

 気づかぬうちに、その笑顔は眼前へ出現していた。同時に、夜来の腕は手首を掴まれて肩から引っこ抜かれたのだ。蛇口をひねったように、左肩の断面からは血が飛び散っている

 悲鳴を上げかけた、直後だった。

 夜来の胸に黒神名無の腕が突き刺さる。息が漏れて、雪白を逃がす余裕もなくて、ただただ夜来は圧倒的な力の前に蹂躙されていた。

 そして、夜来の心臓が引き抜かれる。重心を失い、ふらりと倒れる彼の体は、階段を転がり落ちることはなかった。黒神名無が夜来の首を左手で締め上げて、その体を持ち上げたのだ。

「ほう」

 黒神名無の感動の声が咲く。

 夜来のぽっかりと空いた胸の中で、再び心臓が生まれていく光景に彼は仮面の裏で目を輝かせていた。

「素晴らしい。悪としての肉体に加えて、『豹栄真介の呪い』による不死性の、二重再生能力。これほど一瞬で元通りになるとは」

 息を吹き返した夜来は、サタンの魔力を纏う。絶対破壊を展開し、首をつかんでいる気に入らない腕を粉々にしようとした。

 しかし、無反応。

 名無に対して、魔力がまったく効果を表さない。

「私にサタンでは抗えない。さあ、もう少し遊ばせておくれ」

「っぁ!?」

 再び内蔵が取り出される。今度は肺だった。名無は楽しそうに鼻歌を歌いながら、徐々にその内臓いじりを過激化させる。腹を引き裂かれては大腸を、小腸を、膵臓を、肝臓を、その他諸々の器官を全て外に掻き出す。痛みで意識が何度も飛んだ。それでも、己の不死性によって命を取り戻し、地獄に引き戻される。

 壊しても壊しても壊れないおもちゃだったのだ。

 黒神名無にとって、夜来初三とは。

「最高の快楽だ。初三くん。私は君に恋をしたよ」

 全身を返り血で染め上げた黒神名無。夜来遊びには満足したのか、ぽいと投げ捨てて階段から転げ落とす。

 ふわりと宙に浮き、重力に従って落ちていく。

 その瞬間、夜来は動いた。

 ドッッッ!! と、勢いよくその背中からは悪魔の翼とウロボロスの翼が飛び出てくる。右翼は漆黒、左翼は土色。黒神名無の体を串刺しに迫っていった。

 そして、夜来は見た。

 名無の右手が宙で開かれ、ぎゅっと握り拳を作る。

 刹那。



 夜来を背後にした天山市の街並みが、一瞬で粉々に吹き飛んだ。



 粉塵と赤い霧だけが竜巻のように吹き上がり、一瞬にして焼け野原が広がる。夜来の攻撃の手は止まり、静止した状態が続いていた。

 勝てない。

 無駄だ。戦っても無駄だ。そう、悟った。直後、黒神名無が人差し指を立てて、銃を形作ったその右手を夜来の体に向けた。

「バン」

 ふざけた効果音を口にした直後。

 ドバァァッッッ!! と、夜来の下腹部のすべてが吹き飛び、ぼたぼたと臓器をこぼしながら宙へ舞い上がる。即座に再生した夜来だったが、目を向ければ名無が軽く足を引いていた。

 サッカーでもするかのように、なにもないのに、ボールを蹴るように足を振る。距離や空間を無視した意味の分からない一撃が夜来に突き刺さる。綺麗に胸を貫いたのは、見えない銃撃のような圧だった。再び死んで、ついに階段を転がり落ちていく。

 夜来初三は強い。

 けれど、あまりにも相手が悪すぎた。かすむ視界に映ったのは、一歩足りとも動いていない雪白の姿。いいや、違う。地味に動こうとはしているが、固まって動けないようにしているのだ。

 まさか、何か見えない力が黒神名無を一体に発生していて、雪白や七色、世ノ華の自由を奪っているのか。夜来は即座に自分の魔力を周囲一体にぶちまける。すると、確かに何か手応えを感じた。しかし、それは容易く破壊のできない異次元の強度を持っているため、夜来はここで全力を引き出す。顔の紋様が全身へ広がり、サタンの力を全力で引き出す。同時に、ありったけの魔力を周囲に拡散する。

 名無は夜来の放出した魔力の濁流に飲み込まれるが、七色たちは飲み込まれることはない。しかし、だめだ壊せない。七色たちにまとわりついている妙な『圧』を除去しようにも、なぜか破壊の影響を受けてくれないのだ。

 皆殺しにされる。

 このままでは、そういう結末になる。

 だが、そこで夜来はふと希望を見いだした。頭上の階段からは足音が降りてくる。夜来の魔力にまったく影響を受けていない黒神名無のものだ。

 かけてみるしかない。

 七色も分かってくれるはずだ。今がどうしようもないピンチだと。夜来はポケットから一枚の御札を取り出して、言った。正確には唱えた。



「参れ、夜叉夢」

またとんでもない強キャラが……

新章開幕と同時に、親玉との戦闘でした。いきなり血生臭いですね(汗)

というわけで、黒神・白神一族編の開幕です。

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