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対談

「そうか」

 雪白千蘭は短く呟いた。夜来初三から全ての事情を打ち明かされた結果、彼女は微笑んでそう言った。自分の身が既に人間の枠を越えていることも、自分の人生には深く黒神一族が関わっていることも、黒神一族を潰すために命をすり減らす戦いに行くことも。これまでのこと、これからのこと、全てを夜来は話したのだ。

「お前がどこへ行こうとつきまとう。何をしようと手伝う。そこが地獄だろうとついていこう」

 彼女の表情は穏やかだった。

「……それは勘弁だ。今回ばかりは、お前を危険な目にあわせねえ」

 彼の表情は悲しげだった。『エンジェル』の王、アルスとの一戦を思い返しているのだろう。雪白が得体の知れない毒の餌食になったトラウマが想起されている。

 彼は落ち葉を踏みつけた。

 グシャリ、とそれは粉々に砕け散る。

「お前の命なんざ、これくらい簡単に消える。敵は怪物を超える怪物、『悪』の創造によってこの世を変えるつもりのいかれちまったオカルト集団。『エンジェル』を越えるほどのな」

「私を今回は守る余裕はないと」

「……ああ。俺はお前が傷つくのが怖い」

「好きだから?」

「ああ。分かってんじゃねえか」

 観念したように、夜来は頭を掻きながらぶっきらぼうに言葉を返す。葉音の舞い上がる森の中、白い女神は静かに笑った。

「好きな女を置いて、唯神のところへ行くつもりか。すっごく妬けるな」

「っ」

 目を見開く夜来は、雪白の赤い瞳に釘付けになる。

「なんで、俺が奴を目的にしていると分かった」

「好きな男のことは、何となく分かるんだよ。……大勢の人間の死を材料に生まれる怪物。お前やお前の弟は過去に実験台にされたらしいが、もう一人、大量殺人と関わりのある女がいる」

「唯神天奈。プリンセススター号襲撃テロ事件の被害者であり加害者。家族を含めた大勢の人を殺され、また犯人共を大量虐殺したあの女だな」

 二人の間に、重い静寂が訪れる。空気の質が変わった。言葉を交わさずに、視線だけで意志の疎通を完了する。

 落ち葉がざわつく。

 風が強いのだ。

「……夜来、それに間違いはないのか」

「証拠はねえ。だから本人に今から問いただす」

 夜来は雪白の横を過ぎ、七色寺へ向けて歩き出した。

「唯神天奈は、黒神一族と通じている。俺はその詳しい話を聞きに戻ってきた」

「……」

 隣に並んだ雪白は、しばらくしてから口を開く。

「唯神は、敵なのか」

「知らん。ただ黒神一族については無関係なはずはない。何せ、プリンセススター号襲撃テロ事件を引き起こさせたのは黒神一族だってネタが上がってやがる。『悪』の創造費、ようは生け贄が欲しいがために虐殺を引き起こしたらしい」

「誰からの情報なんだ、それ」

「白神東山」

 夜来は雪白を庇うように、彼女の前に腕を広げて静止させる。七色寺へ向かう為、雪白が燃やして作った直線の焼け野原を通ってきたのだが、どうやら向こうさんの待ち伏せがあったらしい。

「つまり、奴だ」

 夜来が顎を向けた相手へと視線を移す。長い長髪を一本に結っている、武士のような厳格さを持った和服の男がそこにはいた。いいや、彼だけではない。夜来は耳を済ましてみると、かなりの人数が辺りの自然に身を潜ませていることが分かった。ここは山と山に囲まれた隔離地帯。正確な人数は把握できなかった。

 夜来は口の端を釣り上げて、言った。

「一応俺にとってもあんたは父親になるんですかねえ。なんせあのチャラ男の弟分だし。なあ、チャラ男パパ」

 鉈内翔縁の実父、白神東山は夜来を鋭い眼光をもって捉えている。光たる善人の息子とは正反対の、闇たる悪人の青年を見つめている。その悪人の身体の底に潜む『悪』を見つめている。

「夜来くん。二つ申し上げにここに来た」

「何なりとどーぞ」

「桜神雅という面倒な戦力を削ってくれて感謝する。礼だ」

「もう一個っつーのは?」

「黒神一族の情報提供の際の約束だ。君に協力した以上、息子は持ち帰らせてもらう」

「どうぞご勝手に。俺は約束通り邪魔はしねえ」

 東山は踵を返す。

 そして、最後にもう一つ言いたいことがあると言い出した。促してみると、それは夜来にとってもメリットのある話だった。

「正式に、うちと協力をする気はないのかね。君なら信頼できるが」

「……」

「味方は多い方がいい。どうして一人で抱え込む」

「あんたらと敵対する気はねえ。けどな、俺にも背中を預ける相手くらい決めさせろっての」

「白神一族では不満が? 何がいやだというんだ」

「悪人じゃねえからさ、あいつが」

 夜来は白神一族当主の厳格な目に向けて指を突き立てた。

 邪悪に笑って言ってやる。

「チャラ男はあんたのとこで働くだろうよ。あいつはヒーローだからな。そんで、俺はあいつと共闘する気はねえ。あいつの隣じゃ背中がむず痒くて全力が出せねえのよ」

「……善人と悪人は並んで立てないと」

「俺たちは仲良く戦えやしねえ。俺は悪らしく最低最悪な方法で戦う。奴は奴らしく最高最善の方法で戦う。……そんだけだ」

 夜来は雪白の身体を抱き上げた。お姫様抱っこに赤面する彼女を無視し、夜来は悪魔の翼を広げて飛び去っていく。向かうは七色寺。目的は唯神天奈である。




久々です! 生きてます!

プリンセススター号襲撃テロ事件……懐かしい(笑) 鉈うちパパもちょっち登場

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