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半年

「夜来はもう人間じゃねえ。ありゃただの怪物を喰らう怪物だ」

 白神円山は、七色寺の茶の間で淡々と言った。彼は丸テーブルを囲む夜来初三の身内たちを見まわし、片肘をつきながら話を続ける。

「夜来はまず、アルスとの一戦で死んだ。それはお前さんが見たな、鉈内くん」

「ええ。確かに、あいつは死んだ」

 応急処置をすまされた彼は、身体のあちこちを包帯で縛り付けていた。砕けた腕の骨も七色の手当てである程度は治っているのだが、やはりまだ相当痛むようで、ときたま痛みに顔をしかめている。

「けど、確かに生き返ってアルスを倒したのも事実っすよ」

「その時、夜来の中にいた夜来終三が心臓を共有したんだ。だから夜来の容貌も弟のもの、つまり真っ白な髪に赤い瞳、アルビノの特徴的な容姿へ変化したはずだ。違うか」

「ちょ、ちょっと待って。そうだけど、何でそもそも、やっくんの弟がやっくんの中にいたわけ? そもそも、その夜来終三についてが、未だに謎のままなんですけど」

 鉈内の言葉には、他の者達も同意している。唯神も、世ノ華も、七色も、心の中では鉈内に相槌を打っていた。その全員の疑問に対して、円山は驚愕の事実をあっさりとした口調で告げた。

「ああ、夜来終三っつーのは、ようするに亡霊となった悪人だ」

「……豹栄真介が死んで霊的存在、怪物としてやっくんに憑いたみたいにっすか」

「その通り。つまり―――両親の虐待がエスカレート殺された。んで、死後は兄貴の体に入って、兄貴が死にそうなときは助けていたっつー話」

「……」

 弟が殺された事実を、夜来初三は知っているのだろう。夜来終三が自分の中にいると口にしていたし、もう既に受け入れた現実なのかもしれない。しかし、夜来がその衝撃を受け止めたからといって、彼と近しい者達にとっては知ってすぐに受け止められるものではない。

 沈黙が場を支配する。しかし、円山は構わずに話をつづけた。

「本題はこっからだ。夜来初三は夜来終三の心臓を借りた。まあ、これがそもそもおかしな話だ。なんで死んで心臓ねえのに兄貴に心臓を貸せたのかっつー話だ」

「……」

「鉈内。お前が見た光景、夜来初三の心臓が再生したのは、形だけだ。形だけ、終三は臓器を作った。実際にゃあ、その再生した風の心臓は動いてなかったんだよ。義眼みたいなもんだ」

 鉈内はハッと息を飲んだ。

「……まさか」

「そうだ。あの時から、既に夜来の身体は『人間の枠』を超えた。終三が兄貴を助けるために、内側から夜来の身体を『怪物人間』に変えたんだ。形だけは人間の身体のまま、あの時から、夜来は上岡と同じ『怪物人間』に近づいていたっつーわけだな」

「待って。どうして終三くんがやっくんを『怪物人間』にできたわけ?」

「……夜来は生まれつき、怪物を宿す才能を持っていた。だから終三とサタンのどちらも、自然とあいつは宿せていた。けどな、じゃあ、夜来と同じ血を持つ弟の方はどうだって話だ」

 その時、茶の間の外から声が響いた。

「弟の夜来終三の方も、生まれつき兄の初三と同様に怪物を宿す体質、『怪物人間』としての才能を持っていた。だから夜来終三の『怪物人間』の才能と、初三の『怪物人間』の才能が、混じってしまった。結果、巨大なものとなり、私の初三お兄ちゃんは上岡に匹敵するくらいの化物になった。……ってわけでいいの?」

「おや。こりゃ可愛らしい嬢ちゃんだ」

 茶の間に入ってきたのは、桜神雅との戦闘で鉈内ほどではないが手当をされていた白だ。彼女は立ったまま円山を見下ろし、今の推測について答えを述べろと暗示する。

「その通りだ」

「んで、千の怪物・上岡真に匹敵するって点は何よ。お兄ちゃんは、あいつほどの数を腹で飼ってはいないのに」

「―――喰いとる、ってとこだな」

「は?」

 きょとんとした白。言葉の意味が分からず、理解が追い付いていない。それは白以外の者も同じだった。円山は苦笑して、より丁寧に言い直す。

「夜来はあらゆる怪物を喰いとる。吸収しちまうんだ。あいつは『怪物人間』のその先、怪物を無理やり支配することもできる力を持つ。あいつの身体は上岡よりも、一つだけスペックが上がってるわけだ。あいつに怪物の力をもって挑んでも、夜来の目の届く範囲ならあらゆる怪物が夜来に奪い取られる。吸収される」

「……けど、奪い取って吸収しすぎれば、怪物を宿す体質があると言っても、いずれは限界がくるじゃん」

「だな。だから、まあ、あれだ。あと半年っつーわけだ」

「半年?」

 首を傾げた白に対して、円山は言い放った。

 それは白だけに向けられた言葉ではなく、この場の全員に関わる重大な事実。

「―――夜来はこれから半年の間に死ぬんだよ。黒神一族をぶっ潰してな」

 

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