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同僚同士の激突

 三人は外へ出た。

 マンションから離れて、都心部へ訪れていたのだ。とあるオープンカフェで、紅茶だけをそれぞれ注文して沈黙している。

 だが。

「……ごめんなさい」

「な、なにが?」

 突然に頭を下げてきた唯神に対して、鉈内は首をひねった。しかし、彼女が何に対して謝罪をしたのかはよく考えれば誰でも理解できる。

 世ノ華は七色寺に引きこもり、雪白は精神が完璧に狂い壊れて……いろいろな大きな問題を、ほとんど彼や七色だけに押しつけていた。疲れがたまっても当然である。

 鉈内は力のない微笑みを浮かべて、

「はは、君が気にすることじゃないよ。……僕だから、やってるんだ」

「あなた、だから?」

 どこか遠くを見つめるように、彼は言葉を紡いでいた。

 確信を持った声で、ただ淡々と続ける。

「あの『エンジェル』との世界戦争を通してわかった。僕とやっくんは本当に正反対なんだよ。だからこそ、僕はやっくんとは真逆の、あいつが嫌うような人助け大好きな善人として生きる。そう決めたんだ。あの地獄の中で、僕は僕が思う『善』っていうものを……理解できた気がする」

「……」

「きっとあいつも、自分のことを分かったはずだ。だから僕は、あいつの死に様は、とても綺麗なものだと思う」

「……そっか」

 唯神はポツリと呟いた。

 呆然としたような、認めたくないものを認めるために感情を消去したような声で。

「あの人、本当に、死んじゃったんだ」

「……うん」

「……ごめんなさい。ちょっと、一人にさせて」

「ああ。何かあったら、連絡して」

 席を立ち上がった唯神は、フラフラとした足取りで去っていく。そんな彼女の背中には、まるで死神でもとりついているような、彼女が過去に宿していた怪物が根を張っているような、そんな感覚を覚えるほどに暗かった。

 再び家族をなくした痛み。

 どうすることもできない。鉈内に、白に、唯神天奈に植えつけられた痛みを共有することはできない。

 白も唯神とはほとんど初対面とはいえ、青ざめている彼女の表情から心配そうに遠ざかっていく背中を見つめていた。

 だが。

 その時だった。

「―――っ」

 白の目が見開く。

 唯神を見ているのではない。彼女ではなく、彼女とは逆にこちらへ向かって歩いてくる、一人の男に対してだった。

 咄嗟に、逃げろと口を開こうとしたが、遅かった。

 ドン、と。

 うつむいていて前を向いていなかった唯神と、『そいつ』は肩がぶつかり合う。

 よろめいた唯神も、ようやく視線を上げて『そいつ』を見た。

 異様に白い髪。

 異様に白い肌。

 そして、狂気的な黒い白目に純白の瞳がある、まるで暴走した夜来初三のような風貌。

 前回見た時とはかなり容姿の『色』が異なったが、見間違えではなかったようだ。

「よォ」

 その白い男は口を引き裂く。

 そうして、夜来初三という最強最悪の悪魔と渡り合えるほどの実力を持つ、最強最悪の天使は笑った。

 怪物の笑みを、刻み込んだ。



「もォ退院したのかよ。俺がつけた傷はンな浅かったかァ、唯神天奈ちゃン?」



 瞬間。

 ゴバッッッッ!! と、爆発的な突風が桜神雅の周囲に走り抜けた。それはもはや災害。関係のない一般人など簡単に巻き込んでしまい、いろいろな人々が吹き飛ばされる。乗用車すらも浮き上がり飛び、辺りのビルや建造物の窓などは粉々に飛び散っていった。

 唯神の体もふわりと浮き、直後には凄まじい速度でアスファルトの上を転がろうとした。

 しかし。

 敵、元同僚だと即座に理解していた白が、唯神の落下地点に滑り込んできた。彼女はきれいに白の腕の中に収まり、無傷でなんとかやり過ごす。

 白は唯神を下ろし、先ほどの風の一撃を食らった鉈内のほうへ行けと指示を出す。自分は瞬時に空気を操作し、当たってくる雅の風を無理やり軌道変換させて直撃を防いだのだが、彼は『悪人祓い』とはいえ人間に過ぎない。おそらくは吹き飛ばされただろう。

 唯神は頷いて、すぐに鉈内のもとへ走っていく。

 そうして一人、桜神雅と対峙する。

「雅。あんた、生きてたんだね」

「まァな。つーかテメェ、なんでそっちの味方してるわけ? 俺様にいたぶって欲しくて発情してるだけだよなァ?」

「ハッ。モノづくりしかできない天使くんがなにを吠えてんの。つーかあんたさ、そんな白かったっけ? 私っぽくてなんか被ってるよ。まあすぐに真っ赤に染めてやるけど」

「ああ、これねぇ……『悪化クロスか』っつーんだけどさ。まあ、『夜来初三と同じ』になったわけだな」

「悪、化……?」

「あ? んだよ知らねェのか。面白いんだぜー、『クロス』っつー化物は。あくまで俺のは『借り物』だが。まあ、夜来の野郎は自分の中に『悪』がいるってのを理解できてねえで使ってたみたいだな。自分テメェの武器の持ち方も知らねえでよくもまあ振り回せたもんだ、あのクソ野郎。やっぱり俺が殺すに値する悪党ではある」

 雅は邪悪な表情をさらに黒くする。

 途端、いきなり彼の全身から、夜来初三が扱っていた『白い力』がジワジワと溢れ出てきた。謎多き強力な力だが、果たして白一人でこれに太刀打ちできるのか。

 そんなこと、白本人が一番理解できている。

 このままでは、殺されると。

「それと、俺の『悪』は夜来の悪よりも好戦的だァ。死にたくねェなら、ピョンピョンけつ振って逃げろよォうさぎさん」

「白いのは自覚してるけど、そりゃあんたもだろうが」

 吐き捨てて、白はあたりの空気の支配権を握る。

 なぜ桜神雅が夜来初三と同じ、異様な白い容姿へ変わっているのか。誰が彼を助けたのか。そもそもなぜ、彼もまた夜来と同じように『白い力』を使えるのか。

 わけがわからない。

 しかし、それでも、今はただ拳を握って戦うしかない。

 それだけが、選択肢なのだから。

 

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