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天使の再来

「俺は知りてェ。知りたいンだよ、夜来初三」

 天山市の中心部、高層ビルが立ち並んだ地方都市の一角に彼はいた。白を基調としたビジュアル系なズボンにジャケット、首元にかけている十字架のネックレスが目立つ少年だ。場所はビルの屋上。眼下に広がる過去に訪れた忌々しい街を眺めて、その『真っ白な少年』は邪悪に口元を歪めていた。

 まるで獲物を捕食する肉食動物のようだ。

 糸にかかったエサを追い詰める、大きな毒蜘蛛のように禍々しい。

「俺の創造が上なのか。テメェの破壊が上なのか。俺はそれだけが知りたい。あの時のテメェは、きっと俺じゃ手が届かない雲の上にいた。だから知りたい。今の俺が、どれだけテメェっていう悪魔に対抗できる天使なのかを。……どっちの方がクソったれな化物なのかを」

 桜神雅。

 かつてこの天山市の中で、闇の非公式工作組織同士の激しい殺し合いがあった。『デーモン』と『エンジェル』という暗黒に生きる化物たちが、怪物と己の悪に従って血を撒き散らしたことがあるのだ。その際、彼は夜来初三に最後の最後で惨敗したが、とある一族に回収されて生をつなぎ止めることができた。

 雅の背後から、一つの声がかかる。

「準備はよろしいですか、雅さん?」

「あァ。面白いプレゼントも使わせてもらうぞ」

「当たり前です。私たち黒神一族が貸した貴重なものですから、扱いには十分に気をつけてください」

「うるせェよ。ンなこと言われなくても分かってる」

「ならよろしい。存分に暴れてきてください、そのデータを私たちは採取させていただきますから」

 桜神雅は、以前の桜神雅からかけ離れていた。髪は銀髪から白髪に変わっていて、白目は黒く、瞳は狂気的な白い色をしている。肌も禍々しい白に染まりきっていて、まるで『悪』に飲み込まれた夜来初三のような姿をしていた。

 雅の口が、ブチリと裂ける。

 この世のものとは思えない笑顔を顔に刻み込んだ天使は、もはや悪魔と変わりない邪悪な姿でビルから街を見下ろしていた。

 首元に手を添えて。

 コキリ、と関節を鳴らした雅は宣言する。



「俺は帰ってきたぞ、夜来初三。俺はテメェっつー悪をぶッ殺すために、テメェを超える絶対悪になって地獄の底から帰ってきた」



 蹂躙が始まる。

 桜神雅はビルの屋上から飛び降りる。フワリ、と一瞬の無重力を感じながら、落ちていく寸前にあらためて街を見下ろして笑った。

 夜来初三という悪魔を超えるほどの。

 とにかく、もう、人としての心を失っている怪物の笑みを浮かべていた。

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