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王、その後

 アルスは雪に体の半分が埋まっていた。凍てつく寒さも感じない。冷気を浴びて雪をかぶっても、感覚器官が正常に働かないから何も感じない。

 このままでは死ぬ。

 血が抜けていく現実に、もはや王だった男は何もすることができなかった。指先一つ動かせない彼は、地獄というものに引きずり込まれる今の状況に顔色を一切変えない。

 そうして、静かに朽ち果てようとした。

 だがそこで。

「死ぬには惜しい人材って思うよ」

「だからこうして来たんだろうが。お前はさ……うーん、えーっと、とりあえずうるさいから雪でも食ってろよ。ほら、かき氷食い放題だぜ?」

「私は普段は怒らないけど、マジギレしたら本気で怯えられる人間なんだけど。試そうか?」

 二人組の声が聞こえた。いきなりそこに出現した、そういう言い方が正しい登場だった。薄れている視界に、その謎の二人の人物が映る。

 一人は少女だった。暖かそうな白いコートを羽織った、十五歳ほどの可愛らしい女の子。その綺麗な黒髪には銀色のメッシュが部分的に入っており、ニコニコと笑っているのが特徴だった。

 一人は男だ。カチューシャで金色の髪を後ろへかきあげている、どこか不良くさい二十代後半くらいのジャケットを着た男性。

「で、そいつは生きてるの?」

「うーん。まあ何とか生きてるね。さすがゼウスを使う悪人。どれだけ弱っても、やっぱり強いんだね」

「みたいだな。ああ良かったわ、これで死なれてたら無駄足じゃんかよ」

 謎の会話を聞きながら、それでもアルスは口を動かした。

 震える唇は、かすれるような声を生み出す。

「……なに、者だ」

 何者。

 その質問に対して、男の方がこう言った。

白神しろがみ一族」

 さらに続けて、語る。

「アルスさん、『エンジェル』を率いていた最強の化物だな。ゼウスを宿すあんたは、死なれたら困る人材だ。協力してくれ。傷の手当てもするし、身の安全も保証する。……俺たちは、あの腹黒一族に世界をぶっ壊されるのだけは勘弁なんだよ」

 アルスさえも利用して。

 本当に全てを握ろうとする黒と対立する、たった一つの白い一族。

「昔から付き合いは悪かったが、やっぱり黒神は根っこから潰す。奴らは怪物だの呪いだのを凌駕する狂人だ。だから力を貸してくれ。あんたがいれば、あいつらサイコパス共も駆逐できるかもしれない」

 白い景色が広がる自然の中で。

 王に手を差し伸べる。

「さあ来てくれ。とにかく今は、あんたっていう強大な戦力が必要だ」

 

 

 

最新話をいきなり読んでくださった方は初めまして。

一話から長く連載してきた悪人話をずっと読んでくださった読者様、お久しぶりです。久々の後書きを書けて嬉しいです(笑)



今回の章は……あれ? 何章目だっけ? と今なったので、確認してみましたが、なんと十三章目でした!! ここまで長く続けられたのも、読者様にお付き合いしてもらったおかげです。本当にありがとうございます。

 えーと、これで一応『エンジェル』編は終了となります。4章目の『愛しすぎた悪』の後半で、祓魔師の由堂くんが登場してくれたので、かれこれ9章分は『エンジェル』編でしたね(笑) 長い(笑) 

 そんなわけで。

 今回、ようやく善人主人公と悪人主人公の二人が交差してくれたので、二人について詳しく書きたいと思います。




 夜来初三。

 いわゆるダークヒーローですね。しかしヒーローとは呼べないほどに悪に染まっている、善心を微塵も抱けない悲しいダークヒーローでしょうか。彼はいつだって悪で終わります。今までの人生の影響から、彼は決して光を持てない闇の主人公で完結していました。

 しかし、今回で夜来初三は光に照らされることはできました。光は持てない。けれども、雪白千蘭という光に照らされる覚悟を決めて、その気持ちに正直になれたことで、大きく彼を『ヒーローや主人公っぽくできた』のではないかなと思います。

 戦闘になると嗜虐的な言動が多くなる彼ですが、やはり彼は面白い主人公です。あれだけ雪白千蘭を想う心があるのに、敵に対してその心を微塵も向けません。あまりにも、冷酷で優しい主人公かと勝手に思っています(笑)

 夜来初三を作り上げることで大事にしたのは、『根本的に悪人』だということです。悪人主人公を書くにあたって、『中途半端な悪人ヒーローより、冷酷すぎる悪人ヒーローを書いてみせよう』という私のダークな部分が漏れ出て作り上げました。

 また、夜来初三という悪が、ある意味『鉈内よりも正しい』と思うこともしばしばです。結局、善と悪があっても、『どちらが正しい』かはわからない。善も悪も『正しさ』はあるから、夜来初三も視点によっては最高のヒーローかと思います。

 邪悪な主人公ですが、私は彼のツンデレが好きです(笑) もうヒロインにしちゃおうか(笑)





 鉈内翔縁。

 善人主人公ですね。第二主人公という立場でもあります。もちろん、今作は悪人がメインのお話のため、彼は二番目の主人公で終わります。

 今回のように、最後の締めは夜来初三という主人公が担当しました。しかし、鉈内は鉈内で『優しすぎる方法』で戦ってくれました。彼は最強じゃない。夜来初三のように最強じゃない、ほとんどただの人間だからこそ、『人間だからこそ善を大事にする』キャラクターでもあります。

 つまり私の理想像です。

 彼のようなキャラクターこそが、誰が見ても『善人ではあるな』と思われると考えました。もちろん、中には夜来くん派の方もいらっしゃると思いますが、おそらくは『鉈内は悪人だ』とは誰も思わないでしょう。善人気取ってムカつく、などの意見はあるかもしれませんが、『悪人』とは思われない主人公だったかと思います。

 どこまでも善で構成した主人公。

 それこそが、鉈内翔縁という善人ヒーローです! 世ノ華との場面や、夜来初三を正気に戻したシーンなどが、一番彼を『善』だと思わせてくれる決定的証拠かと思います!!




というわけで、本物の善・本物の悪、ここに完結です!! 

これまで付き合っていただき、まことにありがとうございます。読者様の後押しがあってこそ、ここまで長く連載できました。特に感想をくださった方。悪い点などの指摘、良い点をびっしり書いてくれてありがとうございます。悪い点は素直に受け止めて、次に繋げられる貴重な鍵です。良い点は作者にとって一番の幸福、『楽しんでもらえている』というプレゼントになるので、本当にモチベーションが上がります。何度と助けてもらいました(笑)




 以上、長ったらしい後書きでした。

 次章も読んでくださることを祈りつつ、もうちょっと悪人話を連載していきたいと思います。

 


 次回は悪人が消えて善人だけが残った悪人話!!

 ヒロインズとかやばい気がする(笑)

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