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無駄じゃない、確かに

「随分とボロボロですね。らしくないですよ」

「はは、いやいや。やっぱり限界ってありますよねー」

 返事は軽かった。

 しかし、その全身は傷だらけだった。まず第一に右腕が切断されている。こんがりと肩に焼き後を残しているため、おそらくは燃えて灰になったのだろう。いたるところの皮膚が剥がれていて、とても直視などできない痛々しい姿だった。

 雪原に転がるのは上岡真。

 彼を見下ろすのは、『デーモン』の部隊を引き連れている大柴亮だった。

「まあ。さすがに時間の関係で負けました。相手は死にませんが、僕は死にます。傷だって負いますし、回復するにも限界がある。しかし、向こうは傷も死も受け付けない不死身のニワトリですからね」

「その化物を、あれだけ足止めしたあなたも異常です」

「はは。最後はどこかの悪ガキが全部片付けたみたいですね。何だかなぁ、いいとこ持って行かれてショックですよ」

「あのガキはそういう奴です。それより、さっさと手当てしますから動かないでください」

「あ、大柴さん。その前に一つ」

 上岡はスーツのポケットからタバコを取り出した。大柴が息を飲む。その銘柄は自分の上司が愛用していた、ニコチンが強めのタバコだった。

「いつだったか、豹栄さんにタバコを勧められましてね。結局、吸わずにこうして放置してました」

「……火、貸します」

 大柴も希に吸う方の人間だ。懐から安物のライターを取り出し、上岡が持っている一本のタバコの先に火をつける。独特の臭いが充満する。用を済ました大柴は、周りにいる部下たちに上岡を担ぐための担架を持ってくるよう指示を出した。

 そして。

 一人雪原に転がる上岡は、煙を吐き出すタバコの先を青空へ向けた。

 長年敵対していた『エンジェル』という悪が生み出した、『天界の城』は既に消滅している。全て終わった。城によって隠されていた太陽は輝き、まだ雪を降らしているが美しい天候だった。

「見ての通りです」

 上岡は言った。

 きちんと、伝えてやった。

「あなたの死は無駄じゃない。先に死んで待っててくださいよ」

 軽い葬式を終える。

 こんなものでいい。もともと律儀に式を開いて別れの挨拶をするような仲でもない。

 しかし、そこで大柴がこう言った。

「上岡さん。それ、間違ってますよ」

「はい?」

「豹栄さんは上にいません。どう考えても『下』でしょう」

 正論が飛び出る。

 故に思わず、目を見開いた上岡はしばし沈黙してから吹き出した。

「……ぷ、はは!! そ、そうですね。ああ確かにそうだ。あの人があんな綺麗な空の上にいるわけないか。上が天国で下が地獄、だったら当然下ですよね」

「ええ。別に悲しむようなことでもないです。俺らが死んだら、また地獄で会えますから。その時は『デーモン』で飲み会でもしましょう」

「はは、同感です」

 タバコを雪に突き刺した。

 ジュ、と火が消えてやるべきことはなくなる。

  



 非公式工作組織『デーモン』。

 その活動内容は対抗組織『エンジェル』の殲滅に特化した非情な内容である。

 そして。

 たった今。

 ようやく、彼ら悪党共は長い戦いを終えて、静かに闇へ帰っていった。


 

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