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終幕 

「っ」

「忘れてはいないな。いちいち言わせるなよ。我輩が嫉妬する約束だったからな」

 優しく笑う大悪魔サタン。

 その笑顔に何度と支えられてきた夜来初三は、ようやく情けない自分を振り払えた。

 サタンの手を握る。

 しっかりと、今まで共に歩んできた邪悪なパートナーの温もりを確かめた。

「サタン」

「何だ。急に名前で呼んで」

「お前はいいのか。ここまで俺にする理由はあるのか」

 そんなもの。

 とうの昔に決まっていることだった。

「小僧と生きて死ぬ、そう言ったはずだ」

「ああ。それでいいなら、それでいいさ」

 夜来初三も分かっていて聞いたのだ。

 この悪魔と自分は、きっと、死んでも手を取り合って地獄で生きる。どれだけ深い闇に落ちようと、どれだけ苦しい業火に焼かれようと、どれだけ暗黒の波に飲み込まれようと。

 たとえ死んでも。 

 再び、この悪魔とは巡り合う気がする。

 だから。

 サタンが消えるように夜来初三の体へ戻る。そのタイミングと同時に、呪いを引き出して悪魔の翼を生やした。勢いよく黒翼を広げて、夜来初三は向かってくる不死鳥の怪物に宣言した。

 平和を夢見た悪人の産物だ。

 そんな小さな悪から生まれた怪物など、一流の悪人から言わせれば雑魚でしかない。

「さーってと」

 裂けた。

 ブチリ、と口の両端が耳まで裂けた。

 人間とは思えない笑顔を作った夜来初三は、続けてこう宣言する。

「聞けひよこ。俺様直々の授業の時間だァ」

 本物を知って。

 本物を貫いて。

 本物を理解したからこそ、今の夜来初三だからこそ言える。



「本物の悪ってモンを教えてやンよ」

  


 教えてやる。

 全ての悪党どもに教えてやる。 

 翼を大きく動かして飛んだ夜来初三は、その決意を胸に悪の怪物へ迫っていく。躊躇などない。ついに本物を手に入れたからこそ、夜来初三は恐怖など感じずに相手を恐怖に突き落とす。

 最強で。

 最凶で。

 最狂で

 最悪かつ狂気の化身だった悪党は、ついに本当の本物として立ち向かう。



 ここまでの道のりは険しかった。

 夜来初三という悪人が歩んできた闇は、あまりにも黒く膨大で血生臭かった。



 もともと彼が悪人として生きる決意をしたところが始まりだった。たった一人の弟を守るために自分を悪と肯定して戦った。男を憎む絶世の美少女を救い、とある約束を交わした。滅亡して滅亡させる少女と出会い、その兄と激突して殺し合った。生死を分ける悪に染まった、二人の少女とも絆を作った。愛しすぎるあまり狂い果てた少女の愛を理解した。自分という悪の中に潜む悪と激突し、闇に深く染まっていった。感謝するあまり悪に染まった悪人を、大切な母親を守るために容赦なく蹂躙してやった。悪を貫くために最強の天使を宿す悪人と戦った。絶対的な悪を信じる化物に染まり強敵と何度もぶつかった。

 そして。

 銀世界が広がる雪原の上で、自分とは真逆の道を歩く善人と殴り合った。 

 こうして数々の悪を見てきた。

 誰も彼もが己の悪に従い、闇に潜って這い回る悪人たちだった。自分だけじゃない。たくさんの悪人がいて、彼らは彼らなりの悪を抱いて進んできた。

 だから。

 夜来初三も夜来初三が信じる道を突き進む。

 その中で。

 絶対に守らなくてはならない約束があるのだ。

(ああ、約束だ)

 始まりの時。

 一番最初にした、大切な指きりげんまんがある。

 小指を小さく立てる。

 ―――ずっと一緒にいる。

 確か、そんな内容だったか。

 それを見て、思い出して、小さく笑って彼は言った。



「約束なんて、軽々しくするもんじゃねえな」



 しかし、してしまったものは仕方ない。

 きちんと『ずっと一緒にいる』ために、炎に包まれた不死鳥と激突する。同時に魔力を全方位にぶちかます。漆黒の粒子が全てを飲み込み、破壊の性能を極限まで生かして驚異をなぎ払う。

(死なねぇぞ)

 体が壊れていく。

 体の内側から、ガラスが砕けるような甲高い悲鳴が細胞から上がる。

(これが天罰なんだろうよ。俺が今まで繰り返した、悪行と罪に対する報いなんだろうよ。ああ分かってる。そろそろ死ねって言いたいんだろう神様。そりゃ同感だよ、俺もそろそろ地獄に落ちる頃かなとは思ってるんだよ)

 だけど。

 それでも、自覚していても、どうしても認められない。

 なぜなら、



 神様なんてクソ野郎に、頭を下げて従うつもりなんかない。



 ゴバァァァァァァァァァァァァァァッッッッ!!!!!! と、世界中に響き渡る轟音が炸裂した。炎の不死鳥と激突した悪の王が巻き起こした破壊の嵐だった。闇一色に天空が染まる。膨大な量の魔力が吹き出し、まるでトルネードのように周囲一体を喰らいつくしていた。

 こうして、結末は決まる。












『天界の城』はチリ一つ残すことなく消失。城内に組み込まれていたアルスの術式は形を失い、完全に破壊されたことでフェニックスも人間界から霧散する。そこに天空に浮かぶ城があったのか疑うほど完璧に破壊された『天界の城』は、もはや欠片も残っていない。

 そう。

 本当に、何も残らない大破壊だった。

 たとえば。

 一人の人間の体など、髪の毛一本すら消える消失現象。

 生存確率はゼロ。高度千メートル付近で起こった現象故に、被害者は誰一人としていない。

 つまり。

 誰も分からない。

 とある悪人が死を持って全てを守ったことを。壊すことしか出来なかった彼が、ようやく形だけでも守ることが出来たことを。

 誰も。

 知ることはない。

 ひっそりと地獄へ落ちた悪人。

 クズの死体など、汚いゴミクズと同様なため、世に残されることも許されなかった。




 そして終幕する。

『エンジェル』の王・アルスが引き起こした戦争は、こういう形で幕を閉じるのである。

 

 

  


 

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