決着の行方
これには。
さすがにアルスも、大きく目を丸くした。
「俺が、テメェを潰さなきゃ意味ねぇだろ……!! あんだけ雪白を傷つけて、俺達を巻き込んで、めちゃくちゃやったテメェを、何で俺じゃない誰かが倒してんだ!? ふざ、けんなよォ……!!ふざけてんじゃねぇぞ、畜生がァァああああああああああああッ!!」
頭を掻き毟る夜来初三。
これでは何の意味もない。そして、こんな勝利など欲しくない。夜来初三じゃない化物が勝手に暴れて、その勝利というおこぼれを貰うような勝ち方など、夜来初三は微塵も欲しいとは思わない。
ふざけるな。
その言葉だけが、今の夜来初三の心を表している。
「……馬鹿な男だ」
アルスは呟く。
ギロリと睨んでくる夜来初三を、嘲笑うようにして見る。
「それも貴様の力の一つだということだろう。貴様は強者だ。それだけのことだろう」
「俺じゃねぇんだよ!! あれは、絶対に俺じゃない!! 俺はテメェにぶっ殺されて死んだ雑魚のままなんだよ!! だからイライラする……!! 結局は負けて苦汁を舐めたってのに、俺はどっかのクソ野郎に勝ちを持って行かれたんだぞ!? これ以上に惨めなことがあるか!?」
「……なるほどな」
夜来初三の言い分を理解したアルス。
故に、面白い提案をしてやった。
「ならば決着をつけるぞ。俺も貴様もまだ死んではいないのだからな」
夜来初三の動きが止まる。
重傷を負ったアルスと、なぜか傷はほとんど回復している自分では、さすがに力の差がありすぎるだろう。平等な勝負じゃない。こちらのスタートラインの方がゴールに近い、あまりにも不平等な戦いになる。
「なめ、てんのか? 今のテメェとやっても、勝敗なんざ決まって―――」
「甘く見るな」
ゴバァァァァァァァァァァッ!! という閃光が夜来の真横を通過した。ビリビリとした熱と衝撃が残り、その電撃が全てを焼き殺すことは安易に想像がつく。
アルスは王だ。
立ち上がるレベルに回復できれば、その時点で強大な力は健在する。
「サタンを使え。決着、つけるぞ」
「……俺に同情でもしてんのか?」
「馬鹿が。殺し合いなんだぞ。どちらかが死ぬまで勝敗は決まらん」
とにかく素手の状態ではまずい。急いでサタンを体に戻した夜来初三は、右顔に現れる紋様に顔をしかめる。この力を使って、アルスを倒さねばならなかった。それこそが、この戦いの意味でもある。
しかし。
アルスは本気だった。
まだ負ける気はない。その意思が王の目から伝わってくる。
その時。
思わず、舐めているのは自分の方だと気がついた。アルスは本気で夜来を殺す。その覚悟と意思がどれだけ強大かも分からず、過ぎたことにウダウダと文句をつけていた自分の方が舐めている。
まだ。
決着は、本当についていないのだ。
「……理解したぞ、ドクソ野郎」
魔力を纏う。
黒い粒子を全身から溢れさせる夜来初三は、これが最後の戦いになることを察した。向こうが全力を出すなら、こちらも全力を出さねばならない。アルスの力は絶大だ。もしかしたら、今の自分でも負ける可能性は十分にある。
故に。
「殺してやる。来い」
「いい度胸だ。散れ」
二つの影が交差した。
同じタイミングで飛び出し、ただ相手を殺害することに特化した一撃が交わる。
こうして。
本当の決着はつく。幕は静かに下りるのだ。




