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王が知る謎  

 フワリ、と重力を無視した立ち上がり方で死体は起き上がる。

 そして見た。アルスも鉈内も確かに認識した。死体の胸にぽっかりと空いた傷口の先には、きちんと拍動を続ける心臓の姿があった。しかし、それも一瞬。あっという間に傷はふさがっていき、気づけば白い少年がそこにいた。

 髪が長すぎて顔は見えない。

 ただし、その白い前髪の間から鮮血のような赤い眼が見えたのは分かる。

「……馬鹿な。なぜ心臓がある」

 右手がないアルスだったが、その顔には余裕が残っていた。

 なぜなら彼は、『ゼウスの呪い』にかかっている故に回復力は凄まじいからだ。ましてや神々の頂点に立つ怪物の力を持つ。数秒で右手は元に戻り、調子を確かめるように拳を揺らしたり手を開いたりする。

「まさか、ここまで呪いに頼ることになるとはな」

 新しい手の感覚に馴染んだアルスは、観察するような目を夜来初三に向けた。以前の夜来初三の面影は消えている。その雰囲気は倒れている鉈内にも伝わってくる。 

 そして。

 王は語りだした。

「大悪魔サタンが離れている貴様が何か特殊な力を使うならば、あの不可思議な白い怪物の力しかない。だが、あの程度の力では俺に通じることはない。俺の右手をもぐほどの力はない。つまり貴様は夜来初三でも白い怪物でもないはずだ。だから俺の質問に答えろ」

 警戒の色を顔に浮かべて、アルスは短く尋ねた。

 ただ、それだけを知るために。



「貴様、誰なんだ?」



 その瞬間。

 夜来初三は右手を突き出した。

 すると、ゴバッッッ!! という爆音と共に白い粒子が全身から溢れ出てくる。だが終わらない。まるで霧が吸い込まれていくように、突き出した右手に粒子が集まっていくのだ。すると形が出来上がっていく。白い粒子で構成された真っ白な日本刀が出来上がり、それを夜来は軽く振るう。

 すると。

 バゴォォォォォォォォォォォォォォ!! という轟音が炸裂した。巨大な浮遊機能を持つ『天界の城』の半分が、ほとんど吹き飛ばされて地上へ崩れ落ちていく音だった。その異常な破壊現象に目を奪われたアルスは、即座に戦闘体勢を整えた。

 しかし遅い。

 夜来は右手に握る刀を使わず、空いている左手をアルスに突き出した。

 直後。

 


 白い閃光が全てを飲み込んだ。

 その結果、あの絶対的な王が百メートルは転がって血を吐き出す。



 すぐに立ち上がって、アルスは鉄臭い口元を抑える。

 口が赤く汚れていた。全知全能の神・ゼウスを宿す王が血を吐いていたのだ。

(馬鹿、な……!? 俺が血を流すなど、ありえ―――)

 そこで殺気を感じ取る。

 本能的に飛ぶようにして横へ回避したアルスの首元を、真っ白な刀が勢いよく通過していく。危機一髪だった。アルスでさえ反応できない速度で夜来初三が背後へ回り、持っていた刀を水平に振り抜いてきたのである。

(どういう、ことだ。この俺がついていけないスピードだと……?)

 冷や汗をかいたアルスは、真っ白な髪を床に這わせている夜来初三を凝視する。

 いや、奴はそもそも誰だ。あんな力は見たこともない。

(……まあいい)

 アルスの顔から表情が消える。

 つまりそれが意味することは、単純で残酷な運命の決定。



「『本気』で潰すぞ。俺に世界を破壊させないでくれよ」



 アルスの低い声が聞こえた。

 神々の王・ゼウスの力を振り絞り、大宇宙を破壊できる雷を使う。右手にその絶対的な電撃を纏って、後はただ単に投げ飛ばせばいい。

「すまん。加減が出来ないから、つい地球の半分は消し飛ばすかもしれない」

 ぶっ飛んだ謝罪をしたアルスだが、実際、その『ゼウスの呪い』は膨大すぎるのだ。

 故に、正確に夜来初三の肉体をロックオンして雷撃を解き放つ。

 その結果。

 飛んだ雷撃の直線上にある雲が真っ二つに裂けた。

 三百キロ先の北極海まで一刀両断した一撃は、もはや世界を滅亡させることも可能だろう。

 しかし、狙いが外れていた。

 雷撃をある程度本気で使うと、どうやら照準はきかなくなるらしい。夜来初三の右肩十センチメートルを通過して、視界には見えないほど遠くにある海を切り分けたのだ。

「チッ。加減をしてこれか。相変わらず扱いにくいな」

 ここまでの現象を引き起こして、まだ加減。ゼウスの力が、本当に世界を壊すことも可能だということの証拠にもなる発言だった。

 対して。

 夜来初三は動じない。

 ピクリとも動かず、ただ突っ立っている。

「次で仕留める」

 再び手に雷を集めるアルスは、先ほどよりも威力を上げて放とうとした。太平洋を真っ二つにする程度のレベルに威力を上げて、さも当然のように今度こそユーラシア大陸ごと夜来初三を消し飛ばそうとする。

 だが。

 ゼウスの雷撃を放つ直前で。



 突如、夜来初三がアルスの前に現れた。

 さらにゼウスの雷を纏った王の右手を、肩の部分から刀で切り落としてやった。



 ズル、と腕がずれる。そして生々しい音を立てて落ちる。

 その斬撃は確実に片腕を奪った。思わずアルスも目を見開く。移動速度も斬撃の威力も桁違いだ。腕の一本や二本ならば回復力でカバーできるから無問題だが、あまりにも、自分と渡り合える力を持つ今の夜来初三には驚きを隠せない。

「強者だ」

 再び腕を再生させたアルスは、自分と互角の力を持つ夜来初三を認める。

 愉快そうに評価した。

「そのパワー、そのスピード、その冷酷性、お前は強者だ。何があってそんな化物になったかは知らんが、俺はお前を強者だと認識する。だから夜来初三。俺は貴様を全力で消し飛ばすことにする。下手をすれば地球は宇宙から消える。だが、そこまでの力を使わなくては今のお前は倒せない。強者だと認めたからこそ、俺は本気で貴様を殺す」

  


 

 


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