誰もが予想を立て、怪物は上を行く
「なら死ね。もう付き合いきれん」
指の先が発光する。よく見てみれば分かるが、それは小さくバチバチという音を鳴らしていた。つまり電撃。全知全能の神・ゼウスが持つ力の内、最強と言われる雷を放つ気だ。
思わず、鉈内は歯を食いしばった。
(負けた、か……)
全身の力が抜けた。
ただ単純に、ダメージが浸透して崩れ落ちてしまったのだ。
(……ねえ、やっくん)
横に顔を向ける。
本当の家族だった弟分の顔を見る。
(結局、君は本物じゃないじゃん。そうやって、あれだけ完璧に人を救おうとしてた悪のくせに、僕よりさっさと死んでるじゃんかよ)
鉈内翔縁に悔いはある。
親だった七色夕那に関してや、世ノ華たちに対してやり残したことはたくさんある。しかし己の善は全うできた。守りたいものを守るために戦って、逃げ出すことはせずに戦い抜いた。その結果、負ける。過程にこだわる善人としては、十分に笑える最後だった。
しかし。
(お前は、それでいいのか……? 本物を貫いて、死ねたのか……?)
夜来初三は違った。
彼こそが、鉈内翔縁よりも悔いを残して死んでいった。夜来初三は自分が思う本物としての悪を全うできず、自分が信じた道を走り抜くことが出来なかった。悔しいはずだ。ここまで歩んできた道を木っ端微塵に破壊され、心臓をもぎ取られて散った彼は哀れだった。
ならば。
夜来初三よりも、気楽に死ねる自分は恵まれている。
故に、
「なぜ、笑っている」
アルスの声が響く。
対して、綺麗な笑顔を浮かべた鉈内翔縁はこう言い切った。
「笑顔が何よりも僕らしいからだよ」
「……そうか」
短く返答したアルスは、その光が凝縮した指先を狙いの心臓へ向けた。
これで、幕は下りる。
「やっくん」
死を覚悟した鉈内は、最後に、目を閉じて隣にいる少年に伝えた。
「雪白ちゃんを悲しませる君は、死んだ後も僕は許せないからね」
やはり気に入らない。夜来初三を鉈内翔縁は好きになれない。
それでいいのかもしれない。
正しいのかもしれない。
「失せろ。弱者が」
直後に、世界すらも壊せる雷撃が放たれた。
それに射抜かれた万物は、全て抹消される運命にある。
こうして終わった。
全知全能の神・ゼウスの力を持つアルスに傷などつくはずもない。鉈内翔縁どころか夜来初三の死体も飲み込み、直線上にある全ての存在を焼き殺す雷撃は放たれた。全て死んだ。後は大悪魔サタンを使い、世界の汚れを壊していけばいい。
「……」
そう。
終わった。
「……なん、だと?」
誰もがそうやって予想を立てる。
しかし、それでも本当の怪物とは常識を覆す力を持つ。
アルスの右手が消えていた。
雷撃を放とうとしていた指も含めて、手首から先がなくなっていた。
ドボドボと血が流れ落ちる。目を開けた鉈内も呆然としていた。アルスの右手はギロチンで切断されたように綺麗な切断面を残して肉や血をこぼれ落としていく。
咄嗟に周りを見渡すアルス。
しかし、誰もいない。
痛みなんて無視して、とにかく自分の手を奪った犯人を見つけようとする。だが本当に何もいない。目の前で転がっている鉈内翔縁と、その隣でくたばっている夜来初三の死体、後は離れた場所で気絶しているサタンしかいない。それを確認したアルスは、再び周りに視線を走らせる。
「っ」
だがそこで、もう一度同じ場所を見つめる。夜来初三の死体を、注意深く観察する。
結果、息が止まった。
「―――っ!?」
倒れている夜来初三の右手に、アルスの綺麗な右手が握り締められていたのだ。
状況を理解した時には遅い。
本能的に恐怖を感じたアルスが、反射的に夜来初三の死体から距離を取る。
その直後。
夜来初三の髪が白くなる。
全身から莫大な白い粒子が飛び出てきて、勢いよく四方八方へと飛び散る。
「なんっ……!?」
さらに髪が伸びる。床を這うほどの長髪になり、その真っ白な髪が不思議な威圧感を放つ。肌も徐々に薄くなっていき、気づけば全身が純白の色に成り果てた。爪も伸びていく。獣のように長くなった髪や爪が、あまりにも人間離れしていて神秘的だった。
禍々しい姿ではない。
まるで白い神様のような、美しさを誇れる容姿へと変化した。
そして。
驚くべきことは、もう一つある。
「なぜ、だ……」
アルスの困惑した声が、うつ伏せで倒れたまま白く染まり上がっていく死体に向けられる。
そして、ついに疑問を口に出す。
「どうなってる!! なぜ貴様の心臓が元に戻っているんだ!?」




