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終わりが近い  

「がっ……ぁ……!?」

 真っ赤に汚れた口を開いて、息を吐き出す鉈内翔縁。勝てるわけがない。それは分かりきっていた。しかし鉈内は立ち向かった。その理由は『善』だからである。どれだけ勝ち目のない相手でも、守りたいものがあれば死ぬまで刀を握る。

 つまり善だから。

 本物の善だからこそ、鉈内はここまでやりきった。

 しかし、

「……お前は、どうなんだよ……」

 倒れている自分の隣。

 そこには夜来初三の死体があった。手を伸ばせば届く距離に、その少年の体は転がっていた。

 鉈内は鉈内の本物を貫いた。

 対して、

「お前は、どうだった……?」

 かすれた声で呟く。

 このまま治療もしなければ、鉈内も間違いなく出血多量で死ぬ。

 それでも、今は笑っていた。

「何があって……お前と僕は……こんなことに、なったんだろうな……」

 薄れていく視界の中で、夜来初三の血で汚れていて見えない顔を眺めながら呟く。うっすらと生気のない目を細めて、かすかに笑いながら語りかけた。

「夕那さんに育てられて、たくさん……長い時間をお前と過ごした。……なのに、何でお前と僕は違うんだろうな……。何で、こんなに真逆の人間になったんだろうなぁ……」

 声もどんどん小さくなっていく。

 だが、鉈内は構わない。

「僕とお前は、案外……似たもの同士なんだぜ……? 親は最悪で、それでも良い人に拾われて、色んな人と出会った……。なあ……同じ、だろ……? 僕も、お前も、同じだった。だから、もしかしたら……」

 鉈内翔縁。

 夜来初三。

 善人と悪人の彼ら二人は。



「……もしかしたら、一番の友達になれたのかな……」



 妙な話だ。

 善を信じる人間と、悪を信じる人間が分かり合えるわけがない。だからこそ、鉈内翔縁と夜来初三が犬猿の仲であることも頷ける。お互いに価値観が絶対的に違うのだから、善と悪が仲良くなれなくて当然なはずだ。

 しかし。

 ここまで同じ苦しみを味わったのならば。

 もしかしたら、夜来初三と鉈内翔縁は分かり合えたのかもしれない。

 友達として、お互いを支えることが出来たのかもしれない。

 光とか。

 闇とか。

 白とか。

 黒とか。

 善とか。

 悪とか。

 そういったものを全て踏み越えて、友達になれたのかもしれない。 

 しかし。

「ちゃんと生きていたか」

 アルスの足音が近づいてきた。

 それは鉈内の頭の前で止まり、冷酷な声が降りかかってくる。

「なあ弱者。最後の慈悲だぞ。俺はゼウスを宿しているから分かるだろうが。別にゼウスは極悪非道で残酷な神ではない。強者だが悪党ではない。つまり俺は悪人だが、ゼウスに憑かれている時点で、そこまで邪悪性に満ち溢れているわけではない」

 面倒くさそうな声だった。

 間違いなく、次は本当に殺される。

「これ以上は時間が無駄だから、最後の質問だ。まだ、俺と戦うのか?」

 返事は来なかった。

 しかし、起き上がれない体を使って必死に立ち上がろうとする鉈内がいた。まだ戦う。その意思はわざわざ言葉で表さなくても、彼の強い瞳と行動から簡単に理解できる。

 よって。

 アルスは無情な表情を作り上げ、一つだけ息を吐くと人差し指を向けた。

 狙いは心臓。

 これで鉈内翔縁も終わる。

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