唯一の可能性
「うわー。アクション映画のワンシーンを超えてますねぇ」
天空の全てを紅蓮の炎で包んだ一撃。不死鳥の怪物フェニックスとは、その業火を身に纏いながら雄叫びを上げていた。上岡は軽い調子で笑う。いつもの表情を浮かべたまま、冷静に現在状況を分析する。
まず気になったのは、部下からの報告があった円筒状の機械。
その謎の機械は世界中のあらゆる場所に設置されていて、どうやら地中深くの熱エネルギーを吸引し、無理やり『火』の代わりとなるエネルギーを掘り出すものだったらしい。つまりはフェニックスの構成材料の発掘兵器というわけだ。
材料が揃えば、あとはアルスが手を加えて組み立てたのだろう。
奴の力は不可思議なものだが、おおまかな事態は把握できる。
(……不死鳥、ね。火の鳥とも言われる伝説上の怪物。不死というよりは生を何度でもやり直すような化物でしたっけ。まあ、何をどう考えたって、結局はやることなんて決まってるんですけどね)
とにかく。
あの莫大な炎の一撃を、地上に放たれたらたまらない。
故に、
「本気でいきます。あっさりと死んでくれたら嬉しいです」
ニッコリと微笑んで。
右手を無造作に、ただ虫を払うように振った。
それだけで。
空間が消滅した。
フェニックスを中心とした一定範囲の場所が、グニャリと歪んで吹き飛んだ。
ギィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッッッ!! という金属同士をこすりあわせたような轟音が炸裂し、その直後、盛大な爆発音を響かせて空間そのものが粉々に破壊された。
攻撃の前兆などない。
ただそこにあった存在が消えて、ただ世界の一部が抹消された現象だった。
上岡真。
千の怪物から生まれた災厄の怪物は、これだけの力を遊ぶように使用できる。
もはや瞬殺。
あのアルスが警戒するだけの価値は確かにあった。上岡真という理論なんてものは通用しない存在は、王が認めるだけの驚異として君臨していた。
しかし。
残念ながら。
「……っ」
ボバッッッ!! と、勢いよく何もなかった場所から爆発が炸裂した。ここは高度千メートルは超える空の世界だ。とてもじゃないが、火がつくような代物は一切ないのである。
もちろん。
それが炎の不死鳥、フェニックスが再び『生まれた』際の爆発ならば納得できるが。
「随分と派手な登場ですね」
炎が飛び散り、火の粉が粉雪のように舞い落ちる爆発現場から、翼を大きく広げて思い切り吠える不死鳥が飛び出てきた。一直線に上岡のもとへ突っ込んでいく。さらに口を大きく開いて、その大陸の半分を消滅させることも可能な豪炎を放った。
全てが燃える。
上岡どころではない。視界に映る空の半分以上が紅蓮の業火に染められる。
しかし。
「はは、だから言ったでしょう」
怪物の声が怪物に届く。
不死身の怪物に、千の怪物は言い放つ。
「本気でやる、と言ったでしょう? その意味がわからないんですか?」
ドッッッッ!! という轟音が響く。
フェニックスの巨大な体が、五千メートルも先に吹き飛んだ驚愕の現象が起きたのだ。
つまり炎の怪物は五キロ先にある森林へ激突し、その火で作られた体を激しく転がしていく。あまりにも目を見開く戦闘だった。片方はユーラシア大陸の半分を焼失させる力を持ち、片方は五キロ先まで獲物を叩き飛ばす力を宿す。
人間が介入できる次元じゃない。
そして何より。
フェニックスという最悪の怪物を倒せるのは、上岡真という最悪の怪物だけだという証拠でもあった。
「第二ラウンドです。次こそ潰します」
彼だけが唯一の可能性。
不死鳥を倒せるかもしれない、ただ一匹の化物だった。




