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狂と強の勝敗

 炎の一撃。

 アルスの指先が意識を朦朧とさせている夜来初三をロックオンし、爆音を上げて炎の激流を放出した。ただし重要なのは規模だ。視界に広がる景色全てを地獄の業火が飲み込み、色という色を赤に染め変えてしまう一撃だった。

 金属製の扉はドロドロに溶けて、屋根の八割を消失させてしまい、空気中の水分を一気に蒸発させる熱の海だった。これでは呼吸も行えない。炎の津波に食われた夜来初三の姿は、いつになっても見えることはない。

「何だ。まさか丸焦げになってギャグっぽく登場してくれるのか?」

 アルスの愉快そうな声だけが響く。

 部屋の全てを燃やしている炎は、その勢いを止めることはない。地獄を再現したかのような風景は、ここが死後の世界なのか生者が生きる惑星なのかを疑問に持たせる。壁や床を燃やす火が、まるで生きているように時たま火力を増す。

 そんな中。

 炎に支配された灼熱地獄の中で。



 ゴバッッ!! と、新たな爆発が巻き起こった。

 真っ白な粒子が四方八方へ拡散し、辺りの炎を一瞬でなぎ払ってしまったのだ。



 気づけば火は消えていた。

 あれだけの大火災を無力化した張本人は、ちょうどアルスの視線の先にいた。

「……ようやくおでましか」

 眼球が黒く染まり、逆に瞳は白へ変色している。バリバリと片手で剥がされていく顔の皮膚から、異質な狂気そのものである皮膚が現れる。その着用している黒いコートがあってか、いつも以上に邪悪な白が強調されている気がした。

 白い怪物。

 それの力を使った夜来初三が、化物へ成り果てて立っている。

「確かに強い。その白い力は強大だ。少なくとも、大悪魔サタンと同等か、それ以上の力を秘めている。ウチのNo.2が撃破されるのも無理はないのだろう」

 だが、と王は付け足して。

「前回の一戦で分かるだろう。王の俺には届かんぞ、この弱者が」

 弱者。

 王にとっては雑魚でしかない。それは誰もが分かりきっている。アルスの戦いは既に戦いじゃない。戦闘でも、激突でも、衝突でも、戦争でもない。ただの蹂躙だ。アルスが勝つことは決まっていて、アルスが負けることはないのが理論。

 故に。

「飽きた」

 ポツリと言った。

 王は興味の失せた顔になり、ただ率直な感想を告げた。



「飽きた。もう終われ」



 それだけだった。

 どこから放たれたのか分からない速度の光線が、一閃となって夜来初三の胸へ直撃した。本当に光の速度だったのだろう。確実に夜来初三の胸を貫通した光は、後方に存在する『天界の城』の城内を滅茶苦茶に吹き飛ばした。核爆弾を凝縮したような一撃、とでも言えばいいのだろうか。

 激しい轟音が空間を震わせる。

 鼓膜が破れないことに疑問を持つほどの破壊音が炸裂したのだ。

「……が……ぁ…………………………………」

 膝から崩れ落ちた夜来初三。

 そのまま意識を失い、今度こそ無様に倒れるはずだった。

 だが、床に体を打ち付ける直前で、

「おい弱者。気分はどうだ」

 いつの間にか接近していたのか、アルスが夜来初三の首を鷲掴みした。そのまま足が床から離れるまで持ち上げる。おかげで呼吸困難に陥った夜来だったが、既にダメージの影響で抵抗は不可能なため、ピクピクと小刻みに痙攣しているだけだった。

 再び瞬殺。

 これでもう、幕はおりた。

「まあ貴様のことはどうでもいいか。さて弱者。ここまで俺と遊べたお礼に、計画の進行を解説付きで聞かせてやろう。ああ気にするな。『お代』は後できっちりと貰うから、まあ聞いておけ三下」

 アルスは薄く笑う。

 そして、計画の鍵となる夜来初三を運んでいき、特殊な機械の中に放り込んで、世界を変える偉業を成し遂げる……わけではなかった。彼は動かない。ただ夜来初三を締め上げたまま、何か特別な道具も持たずに行動する。

「まずは夜来初三と大悪魔サタンの『破壊』を利用し、全世界の人間に宿る邪心を破壊する。そのためにはまず、貴様らに『人間の精神を破壊する』ことを可能にしてもらいたかった。つまり繊細な破壊だな。まあそのために、今までもいろいろとウチの兵を送り込んだわけだ」

 そこまでは分かる。

 重要なのは、その後からだった。

「そして俺は、もともと『これ』を使って貴様を揺すり、俺たちに協力してもらおうと思った」

 アルスがポケットから取り出したのは、綺麗なエメラルドの色をした液体が詰まっている注射器。つまり、雪白千蘭の体を荒らしまわっていた毒物を倒すための『鍵』となる治療薬だったのだ。しかし既に彼女を救った夜来からしたら、別に喉から手が出るほどの価値はない。

 もちろん。

 それはアルスも分かっているので、

「だが、これに価値はなくなった。『鍵』となる価値はもうない」

 注射器を床に投げ捨て、思い切り踏み潰す。

 ガシャン、とガラスが砕けるような音が鳴り響いた。

「貴様は俺の送った部下から雪白千蘭を汚染している毒物を入手し、それを使って強引なやり方だが彼女を救ったな。いやいや微笑ましいことだ。かっこよすぎて涙が出てくるぞ、ヒロインを救うヒーローさん? ……おっと、話が少し脱線してきた」

 嗜虐的な自分を押し止め、アルスは気を取り直して語る。

「だがな、夜来初三。貴様はまさか、自分の手で雪白千蘭を救えたことを勘違いしていないか?」

「っ」

「あれも『俺の誘導した結果』だとは、思わなかったのか?」

 嫌な汗が流れた。

 出血多量によって視界が歪む夜来初三だったが、自覚するほどの冷や汗が額から溢れた。

「そうだ。あれも俺の思い通り。貴様に俺の部下が捕まったのは、俺がそうさせたからだ。貴様に捕まって、部下から貴様が毒を入手できるよう、俺がわざと部下をスパイとして送った。全部全部、貴様は俺の作ったレールを走ってきたんだよ。なぜそうしたか、それは単純なことだ」

 クク、と声を押し殺して笑うアルス。

 彼は真実を告げた。



「なあ。人の血管内に溜まった毒だけを的確に破壊できたということは、計画に必須な『繊細な破壊』の条件をクリアできていると思わないか?」



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