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彼が思う善悪の定義

 こんな時でも、力がないからこうなるのだ。どれだけ世ノ華を助けたくても、弱者の自分では何もできないからこういう情けない展開になる。

「む、無理だ。どうやっても、僕一人じゃ、無理だ」

「無理、ですかねぇ。僕は鉈内さんに期待してるんですが」

「現実的に考えろ!! 歩くだけで星一つ壊せるような怪物に、僕がどう抗えっていうんだよ!! でも助けたいんだ。だから、何でもするからアンタに頼んで―――」

「鉈内さん」

 遮るように、上岡は言った。

 いや、語り始めた。

「僕たちはあなたに好意を持っています。いえ、好意というよりは尊敬ですね」

「……僕、たち?」

「僕たち。つまり人を傷つけることに笑顔を咲かせるような悪党のことですよ。『デーモン』は中でもトップクラスの悪党だ。悪党だけが集まって、悪党を倒すために悪党で組織された会社です。そして、『デーモン』のみんなは、人間としてあるべき心をなくしてしまっていた」

 ズルズルと、金棒を引きずりながら歩いてくる世ノ華。歩いているだけで地響きが鳴り、地盤が大きく跳ね上がるが、そんな状況の中でも上岡は大事な話を止めることはない。

 これは、鉈内のような人間にこそ聞いて欲しい。

 聞いてもらわねば、ならないのだから。

「いろいろな方が、僕のもとで働いていました。本当にいろいろな悪党がいたんです。なかでも印象に残っているのは……。―――大切な妹のために地獄に堕ち、修羅となって殺戮を繰り返す、冷酷無比などうしようもない悪党。特に理由はないけれども、気づけば闇の世界に足を踏み込み、その工作員として強力な頭脳を使い生きてきた悪党。悪に染まることでしか生きてこれず、善を完全に見失い、狂気に飲まれた悪魔のような悪党。この三人とは特に行動を共にしていました。みんな個性が強すぎて、チームワークなんてものは皆無でしたが、それでも共通するのはただ一つ。悪党、ということです」

「……」

「善が分からない。善意というものが、完全になくなっている。命乞いをする敵に情けをかけることも出来ない。血反吐まみれになって、必死に助けてくれと連呼する女や子供でも、あの三人と僕ならば笑いながら殺せてしまう。いや、笑うなんてことも面倒くさいと思って、何の感情も抱かずに殺してしまう。慈悲、躊躇、良心、そういった『善』を完全になくしてしまっている。人として大事な、そういったものを持っていない」

 でも、と付け加えた。

 上岡はかすかに笑いながら、鉈内に知ってほしいことを伝える。

「あなたは違う。あなたは救える。あなたは悪じゃなく善だ。そこを忘れないでください。ここであなたも世ノ華さんを見捨てては、僕達とまったく同じ悪になってしまいます。あなたは救える。そこに力があるないは関係ないんです、救おうと行動できるのだから、実際に救えるかどうかは関係ない。僕達は救おうと行動できないが、鉈内さんは救おうと行動できるんです」

「……っ」

「救ってあげてください。世ノ華さんも悪だ。悪人である以上、彼女も善が分からない。ならば鉈内さん、あなたが彼女を救えなくてどうするんですか」

 しばしの静寂が流れる。

 だが、彼の言葉に心を動かされたのは鉈内だけじゃなかったようだ。

「わ、私たちも……協力します」

 まだ恐怖にかられて膝が震えているが、それでも立ち上がったのは二人の少女だった。黒崎燐とシャリィ・レイン。彼女たちは鉈内の目を真っ直ぐに見つめて、強い瞳を突き刺した。

「鉈内、らしくないぞ。私を助けてくれた時みたいに、ヘラヘラ笑って戦ってくれよ」

「そうですよっ! 逃げられるわけでもないんです。だったら、救おうと行動することにこだわりましょう。抗って死んだほうが、きっと格好いいはずですから!!」

 二人の言葉に、ようやく心が晴れていった鉈内。

 震えている膝も落ち着きを取り戻し、だんだんと胸の内が熱くなってくる。

 恐怖を勇気で塗り替えろ。

 勝てる勝てないの問題じゃない。結果にこだわることは重要じゃない。今はただ、助けようと行動するかどうかが大事なのだ。結果を気にするのは、助けようと行動してからにしろ。

 まず動け。

 まず戦え。

 まず刀を握れ。

 そうして、後のことは考えろ。

「……美少女に殺されるなら、まぁいいかもしれないね」

 笑って呟いた鉈内の姿に、上岡はこの場を任せられる信頼を感じた。

 故に、最後に一つだけ教えて去る。

「鉈内さん。救える救えないの問題を気にするのは、『悪』がすることです。救えないと判断したなら、その人には手を差し伸べないことはクズがすることです。でもね、『善』は違う。結果を予測してから行動するんじゃない。結果なんて後から考えるほど、『すぐに救おうと動く者』こそが善人だと思いますよ」

 直後に、ゴバッッ!! と雪原を吹き飛ばして上岡が消えた。天空に浮かぶ城に向かい、空を支配する炎の鳥に立ち向かったのだろうか。そこは分からない鉈内だが、とにかく結論は導き出せた。

「……これが、本物なのかな」

 近寄ってくる鬼神を前にして、鉈内は清々しい顔をしていた。

「いいや、うん。本物に決まってる。これが僕の本物だ」

 知りたいことが知れた。

 善の正体を、きちんと暴き出した。

 だから、

「もう迷わない」

 たとえここで散ろうとも。

 命を落とすことになろうとも、それでも、確かに手に入れたものはここにある。



 鉈内が思う『本物の善』とは。

 後先考えずに突っ走り、それでも救いたい人を救う、危なっかしい馬鹿を指すものなのだ。



 上岡の言葉から、ようやく全体像が見えた。

 悪は結果を見る。

 善は過程を見る。

 悪は困っている人を見ても、助けられないと判断すれば素通りする。また、救いたい人を確実に救うために、邪魔になるものは容赦なく排除する。目的のためならば、あらゆる手段を用いる冷血な人間だ。これは結果だけを見ている。何かのために何をどうすればいいか、それだけを心の柱にして行動する結果、時には無慈悲で残虐な方法を選ぶのだ。

 しかし。

 ならば逆説的に考えればいい。悪は善と反対ならば、善は悪と反対のはずだ。悪は結果を見る。ならば、善は過程を考えろ。時速百キロで走っているトラックに子供がひかれそうになっていたら、『助けられるのか?』と結果を思案することなく、反射的に『助けようと行動する』ことこそが善だ。

 結果は後で考えろ。

 ただ。

 ただただ、困っている人がいれば救おうと行動する者が正義。

 ありきたりな言葉だ。休日にやるヒーロー番組で使われるようなヒーローの定義だ。

 しかし。

「頭で考えるより体が動くんだよ。正義のヒーローに憧れる僕は、とにかく勝手に体が動いちゃうんだよ。泣いている人がいれば助けたい。困っている人がいれば救いたい。とにかく、それが善悪かなんて考える暇もなく、勝手に体が動いてるんだよ」

 それでいい。

 それでこそ、善たる源のはずだ。



「だから救いに行く。救えるかどうかなんざ関係ねえ」



 馬鹿で、一直線に走って、転んでも立ち上がる。

 それが、それだけが、きっと鉈内翔縁が思う『本物の善』なのだ。

「じゃあ、気を取り直して早速始めようか」

 傍では黒崎達も支えてくれる。決して一人じゃない。だから怯える必要はないと理解した鉈内は、絶対的な恐怖を振りまいている悪人の少女に向き直った。

 宣言する。

「ヒーローショーの開幕だ。こっからは僕の独壇場だぜ」 

 

 

 

  

 

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