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再びの悪

 世ノ華雪花の瞳の色が薄くなっていく。

 雪原が広がる地上から距離をとり、安定した速度で空を走る大型ヘリコプター。その内部に彼女はいた。つい先ほどまでは、今にも外へ飛び出そうな勢いで暴れていたのだ。拘束してくる輩は鉈内やリーゼも含めて蹴り飛ばし、怒声を上げて兄の背中へ向かおうとしていた。

 だが。

 今の彼女は呆然と突っ立っていた。

「……」

 死んだ。

 豹栄真介が死んだ。

 どれだけ自分に憎まれようとも、彼は折れることはなかった。それどころか、自分みたいな最低の妹のために、彼はその生涯を使い切った。血の繋がりもない、ただの義妹だというのに。豹栄真介は世ノ華雪花のために全てを捧げて散ったのだ。

 自分は何をしていた。

 いつもいつも、豹栄にすがりついて泣いていただけだった。彼の負担さえも考えず、都合のいいように豹栄に守られていただけだった。今更ながら、豹栄が家を出て行ったことも頷ける気がする。彼の力は『表』ではなく『裏』でしか使えない。ならば、世ノ華と一緒にいては世ノ華を守れないため、妹のために家を出て『凶狼組織』を束ねて戦っていたのではないか。

 豹栄が自分の前から消えた理由も。

 その後、彼が裏の世界で生きていた理由も。

 これならば、全て辻褄が合ってしまう。

「……は、はは」

 膨大な絶望感が世ノ華を飲み込む。

 大好きだった兄の死を、受け入れられることが出来ない。どうしようもない虚無感が体の内側から溢れてきて、細胞にまでジワジワと染み込んでいく。

 故に、



 世ノ華雪花は再び滅亡する。

 その結果、『悪』が強固なものへ進化することで『羅刹鬼の呪い』がかかりなおす。 

  









 

 鉈内翔縁は唇を噛み締めていた。

 世ノ華雪花を離れた場所から見つめる彼は、自分が取るべき正しい行為を必死に探していたのだ。

(今ここで話しかけても、ダメだよね……)

 現状では、関わらないことが一番なのだろう。そもそも、放心している彼女に何て声をかければいいか分からない。同情や励ましの言葉をここで使うほど、鉈内は馬鹿なわけじゃなかった。

(今は、とりあえずそっとしておいてあげればいいよね)

 チラリ、と視線を世ノ華に上げた鉈内。

 そこで、眉を潜めた。

「……?」

 気を使って世ノ華は一人にしていたのだが、彼女は小刻みに震えていた。

 最初は心の傷が深いのだろうなと自己解釈したのだが、どうにもおかしい。ブツブツと誰かを呪うように口を動かしながら、彼女は俯いて震えていたのだ。

「世ノ華……? ねぇ、大丈夫?」

 咄嗟に駆け寄る。

 だが、そこで背筋が凍りつく。

「っ!?」

 


 世ノ華雪花の全身に、『羅刹鬼の目』を表す紋様が広がりきっていたのだ。

 顔から足までに、その禍々しい鬼の目の紋様は網目のようになって侵食していたのだ。



『悪人祓い』だからこそ、大まかなことを理解した鉈内。そこで咄嗟に、彼は機内にいる全ての者に危険を知らせようとして振り返った。

 しかし。

 もう、遅かった。

 ゴバッッ!! という轟音が炸裂する。ヘリコプターが空中で四方八方へ弾け飛び、完全に破壊されてバラバラになりながら墜落する証拠の音だった。  

 空へ投げ出された鉈内は、息を止めて地上を見下ろす。

 落下距離が長い。

 このままでは、下が雪だからといっても命が潰れる可能性がある。

(ちょ、やばすぎ―――っ!?)

 顔を青ざめた。

 とにかく御札を取り出して、どうにかしようと動いた。

 その瞬間、

「っ!?」

 勢いよく落下していた鉈内の体が、フワリと軽くなる。同時に落下速度が弱まっていき、気づけば無傷のまま雪原へ着地していた。

 都合が良すぎる展開に、思わず首をひねった鉈内。

 そこで、彼の背中に声が叩き込まれる。

「鉈内さん! 大丈夫ですかっ!?」

 振り返ってみれば、そこには知っている顔があった。同じ『悪人祓い』の黒崎燐と、彼女の隣を歩くシャリィ・レインの二人だった。

 黒崎の力で助かったのだろうな、とすぐに理解できた鉈内だったが、今の状況下でお礼を言う暇はない。ましてや、久しぶりの再会に笑顔を浮かべることもできなかった。彼女たちがどうしてここにいるのかも、尋ねる余裕など一切ない。

 彼はただ。

 現状を把握出来ていない黒崎とシャリィに、大声を上げて命令していた。

「逃げろッ!!」

 瞬間。

 ガゴッッッ!! と、雪原の上へ転がっているヘリコプターの残骸から怪物が出てきた。それだけだ。ただ歩いてきただけで、なぜかそれだけで轟音が炸裂して地響きが鳴るのだ。

 理由は単純―――歩いているから。

 歩くことで大地が震えて、その際の体重移動のみで雪原には亀裂が走っていく。

 鬼だ。

 再び世ノ華の『悪』が強まったことで、彼女の中に潜む羅刹鬼が一気に回復してしまったのだ。

「あ、が……!?」

 空気がビリビリと震えている。

 表現ではなく、本当にズシンと体が怯え固まる。

(歩いてるだけで、地面ぶっ壊れてるんですけど……!? ちょっと、マジでいろいろとおかしくないかなぁ……!! ってか、リーゼさんとかは一体どこに逃げたんだ? さっきのヘリの爆発、皆きちんと無事なんだろうな……)

 生唾を飲み込んだ鉈内は、即座に黒崎とシャリィのもとへ向かった。

 やはり恐怖によって腰を抜かしている二人を支えながら、彼は鬼へ染まりきった少女を見る。

「二人共、とにかく僕の後ろにいて」

 鉈内翔縁は御札を取り出し、それを漆黒の刀へ変える。

 つまり夜刀を握りしめて、アルスと戦った時よりも膨大な恐怖と向き合って、

「世ノ華ちゃんは相変わらずだね。やることが女子力皆無すぎてドン引きだよ」

 返事はない。

 見えるのは呪いに侵食されたことで生えている角と、ズルズルと先を引きずりながら持っている巨大な金棒、そして完全な状態へ戻ったことで全身に広がっている『羅刹鬼の目』という禍々しい紋様のみ。

 最悪だ。

 いくら何でも、ここで彼女が暴走することは最悪以外の何物でもない。それでなくとも『エンジェル』という厄介な組織との戦争中だというのに、その状況下で味方の暴走が起こったのだから、非常にまずい方向へ現実は進んでいるようだ。

 もしもここで、あの男がいるのならば。

 鉈内翔縁とは違って、邪悪を突き進むことで身内を守れるあいつがいれば。

 世ノ華雪花を救った、あの悪人さえいれば何とかなったかもしれない。兄様の声ならば、もしかしたら今の世ノ華にも届いたかもしれない。

 だが、いない。

 ここには、鉈内翔縁しかいない。

「しょうがないよね」

 ならば。

 もはや答えは決まっている。

「僕が君を助けるよ。そんで絶対にデレさせてやる」

 逃げるという思考も、見捨てるという選択も、大前提として鉈内の胸には生えてなかった。それは彼が善であるが故なのか、それとも、世ノ華雪花という大切な仲間を想う気持ちが強かったからなのか。

 それは分からない。

 いや、別に分からなくていいから理解する気もない。

 今はただ。



 助けるしかない。

 絶対に、完全に、完璧に、世ノ華雪花を元に戻すしかない。 

  中編完結!! こちらも長かった!! いやいやすごく長かった!! 目を引いた展開といえば決まっていますが、中編でこれは自分でもきついですね。



 中編、真の主人公。

 今回の主人公は、豹栄真介です。上編では夜来初三と鉈内翔縁の主人公二人が、主に軸となって回っていました。夜来は己の在り方を理解できて、鉈内は己の弱さを受け止めて前へ進みましたね。

 しかし、今回は豹栄が一番目立っていたと思います。

 



 豹栄真介について。

 第二章・滅亡させる悪で登場したキャラですね。夜来初三と面識があり、彼と同じような冷酷無比な男でした。登場当初は嗜虐的な台詞などが多く、夜来初三が大人になったらこうなるなと思うようなやつです(笑)

 しかし、実際は妹思いの兄ということでした。実は、この時から豹栄は後々『殺す』ことにしていました。なぜならば―――悪人は幸せになれない、という悪い人は報われないという言葉を『強く正したかった』ために、豹栄は生贄にするキャラにしてました。

 

 悪い奴は報われない。

 その大人が子に善悪を説くときに使うような言葉を、私は豹栄という『悪人』を使って読者様にお伝えしたかったんです。シスコンだのなんのと私が主に馬鹿にしてましたが、彼は本当にお気に入りのキャラでした。

 そして、最後の台詞。ショットガンで頭を吹き飛ばされる寸前に、豹栄は、『またな』と口にしています。これは来世こそは世ノ華の兄として生きる、だからまた会おうなという意味かと私は思っています。

 豹栄は本当に思い入れがあったので、正直私もショックです(笑)

 ちょっと滅亡させる悪で豹栄の登場シーンを読んできます(笑) ちなみに、彼の登場話は滅亡させる悪の「『凶狼組織』」です。皆様、たまには彼を見てあげてください(笑)






 そして世ノ華の羅刹鬼の完全復活、アルスが何やら手駒の召喚をしていますが、いよいよ物語もヒートアップしてきましたかね。豹栄真介死す、まとめれば中編はそんな感じです。




 どうか、シスコンのことを忘れないでください!

 そんなこんなで、いよいよ下編に突入です!!

 

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