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その命が尽きるまで

 息が止まった。

 そして目を見開いた世ノ華雪花は、己の過ちにようやく気づいた。今までは自分を滅亡させた豹栄を全ての悪者にしていたが、今になって自分の罪に目を向けられた。自分がどれだけ最低な妹だったかを、自覚することができた。

 豹栄真介は、確かに世ノ華を滅亡させた。

 だが、おかげで両親の虐待は収まり、家庭内で苦しむことはなくなったことは事実だろう。『助けてもらった』ことは、変えようのない結果だろう。豹栄真介のおかげで理不尽から解放されたことは確かなはずだ。

 なのに。

 だというのに。

(私は、あいつを『憎んだだけ』だった……親から助けてもらったことは事実なのに、そこには目を向けないで滅亡させられたことに対してだけ憎しみを抱いてた……。それは、どう考えても……私が悪いんじゃないの……?)

 感謝なんてしてなかった。

 一緒に生活していた頃も、何度と豹栄には抱きしめてもらったというのに、何回もかばってもらったというのに、そんなことさえも都合よく忘れて世ノ華は豹栄を恨んでいた。

 何だそれは。

 感謝の一つさえせず、ただ悪い部分だけを記憶して兄を憎んでいる。そんな自分勝手な思考回路で生きてきて、悲劇のヒロインを気取って、『私は兄に滅亡させられた可哀想な子です』と自分自身に酔って……。

(は、はは……最低じゃない、私。都合のいいとこだけ取って都合の悪いものは捨てる。あいつが助けてくれたことは無視して、滅亡させられた所だけを取って、そうして可哀想な女になって……ただの構ってちゃんじゃないの……)

「あ、あぁ、あぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」

 自分の罪がどれだけ重かったか、それを自覚した世ノ華は兄のもとへ駆け出していた。しかし上岡が許さない。いい加減にヘリに乗って撤退しなければ、気分を変えたアルスの手で全員皆殺しにされるかもしれないのだ。

 世ノ華を肩に担ぎながら、上岡は大柴に目配せして逃亡に移る。

 しかし、

「離してよ!! ねぇ!! 離せって言ってんだろうが!! テメェいい加減にしろよボケがァ!! さっさと下ろせよクソ野郎がァァァあああああああああああああああッッ!!」

「……無理です。あなたを守ることが豹栄さんとの約束ですから」

 暴れる世ノ華に『呪い』を行使する。

 ガクン、と上岡の力によって世ノ華は全身に力が入らなくなり脱力してしまう。これで動けないはずだった。二度と獣のように暴れだすことは不可能なはずだった。

 だが、

「ンな、もんっ……知るかァァあああああああああああああああああッ!! 離せっ!! いいから離せェェえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッッ!!」

「っ!?」

 再び、少女は兄の背中へ向かおうと動き出す。しかし上岡は即座に動いて、強引に拘束しながらヘリコプター内へ引きずり込もうとする。













 豹栄は振り向かない。

 それが彼なりのプライドだった。

 立ち向かう。

 今はただ、王とその軍勢を殲滅するべきだった。

 しかし。

 どうしても、その言葉には意識を持って行かれてしまった。




「嫌だ!! 嫌だァァあああああああああああああああああッッ!! 待ってよ、お願いだから待ってよお兄ちゃん!! ―――お兄ちゃん、お兄ちゃんってばあああああああああああッ!!」




 お兄ちゃん。

 そんな呼び方、される資格なんてない。それは誰よりも豹栄が自覚していた。

 しかし、

「……っ」

 ダメだった。 

 思わず、涙が溢れてきてしまった。

 この状況になって、やっと覚悟を決めた段階で、そのタイミングで『お兄ちゃん』と呼ばれてしまった。死にたくない……そう思ってしまう。ようやく自分と妹の間に立つ壁を壊して、もう一度二人で笑い合えていた未来へ帰りたくなる。

 また、遊んでやりたい。

 また、撫でてやりたい。

 また、兄妹になりたい。

 だけど。

 その感情に流されてしまっては、世ノ華雪花の兄として格好がつかない。

 ここは戦う。



 最後の最後まで、その命が尽きるまで。

 豹栄真介は妹を守りきって地獄へ落ちる決意を飲んだ。  

  

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