表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

449/539

次こそは、きっと

 つまり。

 現在、豹栄が治癒能力を失っている理由は。

「あなたを守っているからです。あなたに見える場所でね。だから豹栄さんは呪いを使いきれていない」

「い、意味がわからない!! 何でコソコソと裏で守らなくちゃならないの!?」

「……いつだったか、夜来さんも言っていたでしょう。『人を助けることは間違った悪だ』と。本当に正しい悪は、『誰も救わずに目的だけを遂行する悪行』だと」

「っ。た、確かにそうだけど……!!」

「それと同じです。豹栄さんも、あなたを『完全に守る』ために、守っていることを見られたくなかったんです。それが彼の悪だった。そういうおもいが、あなたのお兄さんの本性なんです」

 それ以上は、世ノ華の相手はしなかった。

 そして、上岡は笑顔ではなかった。いつもの仮面を剥いで、『本当の表情』を浮かべて、豹栄の背中をただ見つめる。一方、大柴亮は視線を落としていた。何かを諦めたような、悔しがるような、そんな暗い顔へ成り果てて俯いていた。

 空気が重い。

 何か、不吉なことが起こる前兆のようだった。

「豹栄さん。もう、無理そうですか?」 

 上岡の真剣な顔が、豹栄の背中に向いている。

 尋ねられた部下は、上司に振り返ることなく返答をかえした。

「……ええ。ちょっと、もう、無理っぽいです。左足の感覚もありません。傷はもう治らないでしょうし……はっきり言って、もう無理です」

 豹栄の返事を聞いた上岡は、しばし沈黙する。

 だが、すぐに判断を下した。

「まだ、戦えますか?」

「それは可能です」

「あなたを早急に治療すれば、なんとかなりますか?」

「いいえ。出血がひどすぎます。だから、もう無理です」

「……そうですか」

 小さく頷いた上岡は、大柴と一度だけ目を合わせる。

 お互い頷きあってから、的確な判断を下す。

「豹栄さん。『最後』の命令です」

 上司としての言葉で告げる。

「『エンジェル』達を可能な限り足止めしてください。僕らはその間に撤退します。あなたを連れて逃げるには時間がかかりますし、助からないあなたはお荷物です。だからこそ、ここで連中を足止めしてください」

 世ノ華の顔が青ざめる。

 だが、彼女が何か言う前に、豹栄の返事が飛んできた。

「了解しました」

 振り向いた。

 苦笑している顔を、豹栄は上岡に向けた。

「今までありがとうございます。本当に、あなたは最高の上司でしたよ」

「……そうですか。豹栄さんのような優秀な部下に認められて、僕も嬉しい限りです」

 続いて。

 豹栄は己の部下である大柴亮に視線を変えて、冗談を飛ばすような調子で言った。

「大柴。今の俺はどう見えるよ。相変わらずカッコイイか?」

「……馬鹿でアホでカッコイイ、いつもの豹栄さんだと思います」

「くはは! そうかそうか、お前もいい部下だったよ。『凶狼組織』は馬鹿の集まりだから、お前がきっちり手を引いてやれ」

 息を吐く。

 そうして、豹栄は意識を切り替える。

「上岡さん。雪花のことは頼みましたよ」

「……それぐらいはします。安心してください」

「はは、なら後悔はないです。ありがとうございました」

 今度こそ。

 ハッキリと、豹栄真介は前方に広がる『エンジェル』を見渡した。その何百という数の武装集団の先頭に立っているのは、神々しい容姿を持った一人の男。

 王だ。

 アルスという化物だ。

「もういいのか。そろそろ殺したいんだが」

 わざわざ時間を与えたのか、アルスは首を傾げて尋ねた。

 対して、豹栄真介はウロボロスの翼を大きく広げながら腰を落とす。

「雪花」

 そして。

 最後に、彼は振り向くことはないまま伝えることにした。

「っ」

 世ノ華の肩が跳ね上がる。

 彼女は口を小さく開けるが、何も言えないままだった。

「俺はお前を傷つけた。それも深い傷だ。治ることなんてない、傷跡がハッキリと残る痛みだ。謝ってすむことじゃない。それは分かってる。けどな、俺はお前にどうしても言いたいことがあるんだ」

 戦闘態勢を整えていた豹栄は、もう一度だけ振り向いた。

 それは微笑みだった。妹に兄は優しい笑顔を浮かべていたのだ。

 思わず胸がえぐられた。

 ついに、世ノ華はポツリポツリと言葉を漏らす。

「……ま……って、よ……」

「もちろん謝罪じゃない。謝って済むことじゃないって言ったからな。かといって別れの挨拶でもない。俺みたいなクソ兄貴は、お前にさようならを言う権利もない。だから……だからな、最後に俺の言葉だけ聞いてくれ。後で忘れてくれて構わない。だけど、今だけはどうか聞いてくれ」

「だ、から……なにを、言って……」

 時間はない。

 いつまでも王が待つとは限らない。

 だから、



「次こそは……。もしも来世があって、また俺がお前のお兄ちゃんになれるなら……今度こそ、お前を守れるお兄ちゃんになるから。きっと、立派な兄貴になってみせるから」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ