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自殺行為

 そこから先は手近にあった軽トラックを使い、雪原しか広がらない銀世界を走っていた。鍵なんてものはなくても、白の空気を操作する力を行使した結果、簡単にエンジンをかけることに成功。空気を集めて鍵穴の形状に合わせて『空気の鍵』を作り、それを差し込んで回すだけでトラックは動いた。

 運転しているのは白だ。車がオートマチックであるためか、はたまた白が人間の域を超えた力を宿しているためか、悪戦苦闘しながらも上手くハンドルを切っている。

 荷台には夜来初三が座り込んでいる。腕の中には雪白千蘭がいて、温めるように抱きしめていた。

 そこで、夜来初三は眉をひそめた。地響きがする。大きな地震が炸裂する前兆のような、初期微動に近い振動音だ。

 音源は、やはり地面。

 そして。

 気づけば、忌々しい日光が皮膚に当たっていなかった。

 思わず頭上を見上げる。

 結果。

「っ」

 驚愕する。

 呼吸が止まり、思わず口を半開きにしてしまう。

 なぜならば、



 雲よりも上の天空で、西洋風の巨大な城が滞空していたからだ。



 さらにサイズは見当もつかない。地平線の彼方まで面積を広げている城は、地球の半分ほどを覆い隠す規模だった。冗談ではない。北半球そのものよりも果てしなく大きい城は、一種の別世界と認識できてしまった。

 夜来初三も白も、トラックから降りて雪原に佇む。天空で君臨する城を見上げたまま、ただ唖然としていた。

「……そういうことか」

 呆然としながらも、夜来は推理した。

 キーは先ほどの津波だ。『エンジェル』が北極の氷の一部分を溶かし続けていたことは知っていたが、奴らが何でそんな面倒くさい行動を取るのかは分からなかった。しかし、先ほどの巨大な津波。あれは間違いなく、北極の氷の大部分が溶けてしまったことで発生した異常現象だ。

 その氷が溶けきってしまったタイミングでの、天空に浮かぶ城。

 恐らくは。

(あの城を、『北極の真下に隠していた』ってわけか……? つまり奴らは、単純な穴掘り作業をしてただけ。加えて、俺を北極に呼び出していたんだから……。まさか、あの城が『実験場』ってことか!!)

 あまりにもスケールが膨大すぎる。

 ここまでの非現実的な事態を引き起こされては、関係のない一般人まで巻き込まれる可能性が高い。

 その時だった。

 夜来初三が歯を食いしばった、その時だった。



『おいおい。夜来初三、貴様はまだ地上で這いつくばっていたのか?』



 聞き覚えのある、王の声が響いてきた。

 音源は空に浮かぶ城だ。スピーカーのような機材でも使っているのか、その忌々しい声は嫌でも耳に滑り込んでくる。

『北極へ来いと言ったろう。「乗り遅れた」のは、遅刻したお前の責任だぞ』

 やはり、アルスの口ぶりからして、天空に浮かぶ城は北極から飛び出てきたもので正解だ。

 夜来初三は表情を変えない。

 冷たい目を、静かに雲の上へ浮かぶ城へ突き刺す。 

『俺の考えでは、北極にお前が来たタイミングでコイツを飛ばそうと思ったんだ。その後に、ゆっくりと空という逃げ場のない戦場でお前を屈服させ、道具として即座に利用するつもりだったんだが』

「安い思考回路しやがって」

『そう言うな。きちんと雪白千蘭の毒を打ち消す「鍵」も用意してあるんだぞ』

 どうやら、こちらの声もアルスには届いているらしい。どういった方法を取っているのかは知らないが、今更あの化物に常識が適用されるはずもないなと夜来は納得する。

 声が届くならば、言いたいことは腐るほどある。

 まず一つ目は、自分の隣に立った十四歳くらいの女の子の話だった。

「おいクソ。このガキは俺がもらうぞ」

『ああ、貴様の弟の量産品まがいの女か。構わんぞ、好きにすればいい。もともと貴様の中身を傷つけるためだけに作った、失敗作の使い捨て道具だ。女の一匹や二匹くれてやる』

「そうかい。そりゃ結構」

『それで、どうして北極へ来なかった?』

「テメェの言いなりになるなんざ、癪だったんだよ」

『それでは雪白千蘭を救えないぞ。解毒剤は俺の手元にきちんと用意してある』

「って思うだろうが、生憎と新しい出口が開けそうなんだよ」

 ポケットから取り出した、一本の注射器。

 中には雪白を助けるための、重要な毒そのものが入っている。

『なるほどな。ウチの奴から奪い取ったか』

「ああ、頭の悪いアホで助かった。速攻で拷問してMにしてやったよ」

『それで? 毒は確かにそれで正しい。だが毒が手に入ったからといって、その後はどうする気だ? 解毒薬を一から作る知識も技術も貴様にはない。結局のところ、俺にすがりつくしか道はない。早めに来い、待っているぞ。俺はこれから「別の用事」があるから、失礼する』

 そこで声は止む。

 静寂だけが辺りを支配して、夜来初三は沈黙していた。

 ふざけているだろう。一秒という時間の中でも、雪白は生死の狭間をさまよっているのだ。だというのに、またこれからも時間をかけろというのか。今から空に浮かぶ城まで飛んで、アルスと対面し、殴り合うという長い時間をかけねばならないのか。

 嫌だ。

 夜来初三は、そんなもの許さない。

 格好よく敵と戦って、勝利して、雪白を元に戻す? ふざけるな。そんなに時間をかけては、雪白が苦しむ時間も増えてしまう。大人しくアルスに従って、雪白を元に戻す? ふざけるな。敵の言葉を全て鵜呑みにしては破滅の道を辿ることになる。

 ならば。

 夜来初三は夜来初三らしく、戦ってやる。

「ほざけ」

 夜来初三は吐き捨てた。

 確かに自分には、雪白を救うための医療的知識もない。ましてや、七色夕那のようにオカルト方面に対する技術もない。

 しかし。

 唯一無二の絶対的な力ならば宿しているじゃないか。

 破壊だ。

 絶対に全てを破壊する最強の悪魔の力。

「見てろよ」

 抱き上げていた雪白を、そっと雪原の上へ寝かせる。

 夜来初三は次にポケットから注射器を取り出し、ニタリと笑って宣言した。

「テメェの思い通りに世界が回ると思うな。今ここで、俺がそれを証明してやる」

 瞬間。



 夜来初三は自分の腕に注射器を刺した。

 さらにピンク色の毒を一気に流し込み、空になった注射器をその辺に投げ捨てる。



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