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邪悪な役者が揃っていく

 水の嵐が眼前にまで迫って来ていた。驚異が具現化したようなそれは、視界に入りきらない災害だということが嫌でも理解出来る。直撃すれば、明らかに被害は膨大だ。死亡者が出る可能性だって、十分すぎるほどにある。

 水の激流が、全てを飲み込む。

 咄嗟に御札を取り出した鉈内達だったが、自分の身を守れても周りの一般人まで助ける手段はない。

 悲劇の引き金が無慈悲に引かれた。

 逃げ道はない。

 誰もが呆然とした表情のまま、心の奥底で絶望の襲来を受け止めた。

 そのとき。

「わお。早速僕の出番が出来て嬉しいですねぇー、ははっ!」

 ふざけるような声だった。

 いくつもの命が刈り取られる寸前の状況を前にして、遊んでいるような軽い調子の場違いな声が響いた。

 そして。

 直後のことだ。

  


 ボバッッ!! という轟音が空間を揺さぶった。

 同時に、街一つを飲み込もうとしていた津波が一瞬で蒸発して盛大に爆散した。



 煙が霧散するように、水蒸気と化した水の驚異は消失してしまう。あまりにも呆気ない幕の下り方に、思わず鉈内もリーゼも口を半開きにしていた。

 さらに。

 気づけば、街のあちらこちらを黒い服装で身を包んだ怪しい部隊が包囲してしまっている。物騒な銃火器を所持しているところからして、自然保護団体やボランティア団体のような温かい人間の集まりではなさそうだ。

「いやいや、本当にすみませんね。真っ先にカッコイイ登場シーンは僕が頂いちゃいましたよ」

「油断大敵です。もう少し緊張感を張り巡らせてください」

「しばっちは相変わらず固いですねー、だから早漏なんですよ?」

「誰がしばっちだ。馴れ馴れしいにも程があるだろ、ってか早漏関係ねえよ!?」

「たまーに敬語を部下全員から忘れられるんですよね……」

 男の声が二つ聞こえた。

 ゆっくりと、鉈内は振り返っていく。背後へ顔を向け変えて、息を止めながら奴らを認識した。

 趣味の悪い金色のスーツを着用した、金髪の混じったオールバックが目立つ柔和な笑顔を浮かべている若い男。その隣で部下に指示を出している、黒髪短髪の真面目そうな雰囲気が自然と流れ出ている銃火器を所持した男。

 彼らの存在を知る者は少ない。

 闇で生きることでしか存在していけない、血反吐まみれの方法で悪を討つ悪の組織だ。

 天使と敵対する悪魔。

 エンジェルと対立するデーモン。

 すなわち。

「じゃ、ぱぱっと殺してお疲れ様会しましょうか」

「そうですね、俺は居酒屋じゃなくて焼肉屋がいいです」

「いいでしょう。大柴さんの要望通り、ソープランドに決定です」

「そんな要望してねえよ!?」

 世界を掻き回している『エンジェル』という悪を倒すべき、『デーモン』という悪がようやく動き出したのだ。

「まぁ、とりあえず駆逐しましょうか。一匹残らずね」

 こうして。

 徐々に、邪悪な役者達は揃っていく。 


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