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簡単な整理

 世ノ華雪花はリーゼ・フロリアが管理するアジトの一つで溜め息を吐いていた。場所は人々が歩き去っていく人口密度の多い通路。まるで迷路のように入り組んだ、清潔感溢れる廊下の片隅に彼女は立っていた。

「……はぁ」

 壁に寄りかかり、また息を吐いてしまう。

 なぜならば、

(あのクソ野郎、私の知らないとこで何やってんのよ)

 忌々しい兄の顔を思い出す。

 兄様ではなく、認めたくはないが戸籍上は兄妹関係である兄の方を思考する。アルスとかいう化物が軽い調子で言っていた。『豹栄真介の義妹』か、と。その発言から簡単に理解出来ることは、凄まじく単純で馬鹿だろうと察せる事実。

 あの男は豹栄真介を知っている。

 つまり、逆説的に考えてみれば豹栄真介もアルスという男と関わっている。

(敵かどうかが問題ね)

 世ノ華は近くの自動販売機に近寄り、喉を潤すために糖分が多めの缶コーヒーを購入する。

 自然体を装いながら、それでも彼女は考える。

 自分が取るべき行動を決定する。

(敵なら潰す。敵じゃないならスルー、ね)

 簡単に答えを導き出した彼女だが、実際はあまり深く考えてはいけないのだ。敵ならば倒せばいいだけの話しだし、敵ではないのならば関わる必要性がない。

 極論かもしれない。

 だが、今はそれでいいはずだ。

 それでなくとも、知り合いの一人が妙な毒で苦しめられて失踪し、さらには世界規模の妙な争いが繰り広げられている戦地のど真ん中に自分はいる。これ以上の面倒事は御免だ。目的は増やしすぎると一つ一つの目的を達成する確率が増やした分だけ減る。

 故に、あのクソ野郎のことは簡単に整理すればいいだけだ。

「世ノ華さん」

 ふと、そこで声をかけられた。

 振り返った彼女の目の前には、若い女性が小さく手招きをしている。

「え、と。何かありましたか?」

「鉈内さん達と通信がようやく繋がりました。何か彼に言っておきたいことなどがあれば、今なら伝えることができますよ。通信室までご案内しましょうか」

「あー、なるほど。そういうことですか」

 世ノ華は苦笑して、飲み終えた缶コーヒーを傍のゴミ箱に投げ捨てる。

 そして、ヒラヒラと片手を振りながら、

「死ぬなよ童貞、って言っておいてください。じゃ、私はこれで」

「え、ええ!? そ、そんなことだけでいい―――」

「いいんですよ全然。あのクソお人好しの心配なんてしてたら、ストレスでハゲちゃいます。どうせ無茶ばっかして『僕カッコイーまじイケメンじゃね?』とか言いながら頑張ってますから」

 立ち去っていく世ノ華は、規則的な足音を鳴らしながら廊下を歩く。

 自分も自分がやれることをしなければならない。

「さて。私も頑張ってみますか」

 

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