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必然的な行動

 夜来初三は軍事基地のような場所にいた。恐らくは軍事基地で正解なのだろうが、正確に言えば『悪人祓い』の軍事基地だ。場所はイギリス。善人との死闘の果てに貨物列車に乗せられた後も、妙な黒服の男達に連れられてかなりの大移動をした結果、意味がわからないのだが『悪人祓い』の巣窟へたどり着いていた。

 ここが、あの気に食わない野郎の言う『ためになる場所』らしい。

 軍事基地は全体的に白を基調とした内装と外見で、その巨大な作りはかつて所属していた『デーモン』の地下アジトを思い出す。もちろん、夜来初三にとっては日光さえ遮断できる場所ならばどこでも構わないのだが。

 そして。

 現在、彼はその軍事基地内に設置されていた病室のパイプ椅子に座っていた。

 すぐ目の前には、異常な量の汗をかいている雪白千蘭が清潔感溢れる白いベッドで寝ている。ここまできちんとした設備に恵まれている場所だとは思わなかった故に、そのあたりは素直に感謝する夜来だった。 

(……ここが『悪人祓い』の組織の根城ってことは、一応あのクソチャラ男の同僚といった奴らが集まってるわけだ。なら、そのへんのアスファルトの上で寝転がるよりは、この女も安心して休めるってもんか)

 安全地帯ならば、それでいい。

 今はとにかく、雪白のためにも一度休憩を取りたかったところだ。使える奴らは使ってやる。甘い蜜は吸い尽くす。メリットになることは全て握って、全力でそれを咀嚼するのだ。

 この病室に篭って一時間。

 その『一時間も雪白を安全な場所で休ませた』という事実に、思わず夜来は安堵の息を吐いた。

「小僧」

「何だ。虫の居所が今の俺は悪いぞ」

 夜来の膝の上にチョコンと座っていたサタンは、苦しげに呻いている雪白に視線を移して、

「蛇女はただ寝ているだけだが、本当にいいのか? この基地の奴らが言うには、『症状の悪化を防げるかも知れない点滴』とかもうってくれるのだろう? 蛇女のためにも、点滴とやらをうってやったほうがいいのではないか?」

「ふざけろ。俺がそこまで奴らを信用してるわけねぇだろうが」

 その通りだ。

 あの善人のおかげなのか、こうして妙な『悪人祓い』の組織が自分たちに協力してくれていることには感謝している。だが、信用はしていない。もしも奴らの中に『エンジェル』のスパイでも紛れ込んでいて、雪白に点滴をうつ際にさらに毒を盛ってくる……という可能性もあるのだ。

 だからこそ、寝かせてやる以外に方法は皆無。

 それに、

「雪白の体ァ弄りまわしてんのは、ただの毒でも何でもねぇんだ。科学的な薬品でどうこう出来る問題じゃねぇよ」

「そうなのか……」

 少々、残念そうに俯くサタン。

 何だかんだで、彼女も雪白のことが心配らしい様子に、夜来は内心で苦笑した。

 そこで、

「様子はどうだ?」

 病室のドアが大きく開いた。

 入出してきたのは、夜来たちをこの基地に連れてきた内の一人。三十代ぐらいの日本人で、多種多様な国籍の人間が集うこの場所では会話が通じる数少ない相手だ。

 夜来初三は面倒なのか返事をしない。もしくは警戒をしているのだろうが。

 ただ、男はその反応にいちいち動じず、

「大丈夫そうか、そこの彼女さんは」

「大丈夫だったらココにいねぇ。よく考えてモノ言えよテメェ」

 本気で殺してやろうか、という殺意と激情で構成された眼光を向ける夜来初三。そんな初歩的な質問は、今の彼からしたら暴走の引き金を引くものだったのだ。悪魔のような黒一色の格好や邪悪な悪人面もあってか、思わず『悪人祓い』の男は生唾を飲み込んで一歩下がる。

「……な、何度言ったらわかる。俺たちはお前に協力しているんだ。そうやって敵対心を向ける必要はない」

「知るか。興味もクソもねぇ」

「助けてもらっている立場なんだ。少しは感謝を態度で表してみたらどうなんだ。このメチャクチャ忙しい中、わざわざお前らを『助けてやった』んだぞ。ふざけるな。救ってやってるんだから、それなりの対応をしろよ」

「―――、」

 今度こそ。

 本気で、夜来初三の堪忍袋が破裂した。どうしようもない程に、気に入らないのだ。こういった、『助けたやった』という見下した感満載の『ちっぽけな悪』の考えが、凄まじく大嫌いなのだ。

 人を助ける、という行為はこういう場面で悪だと分かる。

  


 この男は。

 今にも死にかけている雪白千蘭を、『助けてやった』と見下しているのだ。



 これが人を助けた人間の姿だ。こういった事態に発展する可能性があるからこそ、夜来初三は『人を救わずに目的だけを遂行する』という『本物の悪』を信じているのだ。助ける行為は善じゃない。それは実際に雪白と夜来をここまで連れてきて、彼らを助けた目の前の男の証言から理解できる。

 ふざけんな、と唸る。

 夜来初三は、こういった『独善者』のクソ野郎共が大嫌いだからこそ、尚更ブチギレてしまった。

「助けてやった……? テメェ、何様? 今にも死にかけてる女を『助けてやった』のか? そうして、俺からの見返りがこなきゃキレるってのか? 助けてやったんだから感謝しろ、だと? そんなクソッたれな動機から取った行為を、さらにテメェは善だと思ってやがんだろ? つーか、こっちは別に助けてくれだなんて頼んでねぇよ。勝手にテメェらが助けてきて、俺もそれに少なからず感謝してたってのに、何だぁさっきのセリフは? 今ので全部ぶっ飛んじまったぞ、あ?」

 夜来初三は立ち上がっていた。

 ゆっくりと、ゆっくりと、本当に足音なんて微塵も立てない。その真っ黒な闇を吸い込んだような目を見開いて、血走らせて、ついに『一流の悪人』としての行動を起こした。

 ゴガッッ!! と、男の首を右手で鷲掴みした。

 さらに奥の病室故に白い壁にまで背中を押し込んでやって、悲鳴を上げることも出来ずに白目を剥いているクソ野郎に告げる。

「神様気取ってんじゃねぇぞテメェ!! 悪の一つも知らねぇ青二才が何を吠えてんだゴラァ!!」 

「っぎ……が、っぁ……!?」

 本当に意識を失いそうになっているので、夜来初三は首を解放してやった。ドスンと勢いよく尻餅をついた男は、激しく咳き込みながら息を荒げている。

 だが。

「オイ」

 夜来初三が男の髪を鷲掴みした。 

 結果、グイッと強制的に顔の向きを上げられた男は思わず情けない悲鳴を上げた。

 魔王の眼があった。

 この世のものとは思えない、恐ろしすぎる顔があった。 

「オラ、起きろゴミクズ。助けてやったんだろ? 俺とあの死にかけの女を、テメェらはお優しい善意から助けてやったんだろ? ハハ、自惚れてんじゃねぇぞドクソがァ!! 今すぐ全員ぶっ殺して基地ココを征服してやっても構わねぇんだぞ俺ァ。さっきから喧嘩売ってんのか? ピーチクパーチクと喋ってねぇと死ぬのかテメェ? うるせェんだよ。その口ィここで剥ぐぞゴラァ!!」

 ガクガクと震え始める男は、あまりにも次元の違う相手から浴びせられる殺意に耐えられなくなった。指先までもが細かく振動してしまい、プライドなんて粉々に砕け散ってしまった。

 だが。

 その時。

「もうやめろ小僧。そいつめっちゃ泣きそうだぞ」

 長い銀髪を持った銀眼の幼女が、夜来の服の袖をクイクイと引っ張った。

 しばし黙り込んだ夜来だったが、すぐに舌打ちをして男から手を離す。ようやく心臓を圧迫してくる凶悪なオーラから解放されたことで、男はすぐさま逃げるように病室から出て行ってしまった。

 夜来初三は何も言わなかった。

 自分の短気が招いた結果とはいえ、さすがにやりすぎたと後悔しているのだろうか。

「ま、小僧よ。仮にも我輩たちは奴らの世話になっているんだ。さすがにあれは、メッだぞ」

「……悪かった。確かにキレる沸点が低すぎた」

「よーしよし。偉いなぁ小僧は。反省出来たご褒美に、蛇女から我輩に乗り換える許可を出してやろう」

「前提が狂ってんぞアホ」

 夜来初三は再び雪白の傍に近寄って、パイプ椅子に腰掛ける。

 確かに世話になっているが、『助けてやった』だなんて見下してくる連中にはやはり好感は持てない。そんなものは本物じゃないのだ。『本物の悪』というものは、誰も救うことなく問題の解決を図ることで幕を下ろすのだ。

 だから。

 自分は、雪白を『本物の悪』として助けているが奴らのように『助けてやっている』わけじゃない。 

 なぜなら。



 自分が彼女を助けることは、呼吸よりも当然のことなのだから。

 助けるという言葉にすら当てはまらない、あまりにも必然的な行動なのだから。 

  

   

 

 

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