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大好きな人は関わらせたくない心情

 雪に覆われた純白のイタリアの街に、一台のキャンピングカーが停車していた。

 その車内に鉈内翔縁は乗り込んでいる。フカフカとした質感が気持ちいいソファに座っている彼の前には、簡易的なテーブルがあった。さらに言えば、先ほど調達したカップラーメンが二つ湯気をたてて置いてある。鉈内の隣に座っている『悪人祓い』のリーゼ・フロリアは、その内の一つ、味噌をベースにいろいろと味付けの工夫がされているカップ麺を手に取って淡々と食事を始めていた。

(……うん)

 鉈内は思った。

 この広い車内に金髪美人、しかもロリじゃなくて自分よりも年上という、鉈内好みのお姉さん的美女がいるのだが、やはり今更になって鉈内は気づいていた。

 ハッキリと言おう。

 隣で音も立てずに胃袋に栄養を詰め込んでいるリーゼ・フロリアと二人っきりの状況は、鉈内にとって、この上ないほどに、

(め、めちゃくちゃ気まづいわァァああああああああああああッッ!!)

 ついに心で絶叫した鉈内だったが、リーゼは相変わらずな無表情顔でロボットのように食事を黙々と取っている。

(え、いやあれじゃね!? カップラーメンって、友達とかとダベりながら笑顔溢れる時間の中で食べるものじゃない!? 何でこの人は黙々と簡易的食事を取ってるの無言で!! あ、やばい空気が冷たい。い、いやいや、でも唯神ちゃんとかも感情の起伏がないタイプの子だったし、別に話せば意外と気が合うかも……)

 恐る恐る、鉈内は決心をして口を開いた。

「い、いやー! マジでもうなんかイタリアすごいっすね!! こ、このキャンピングカーもリーゼさんの所有してるイタリアの基地から借りたんですよね? 世界各地にリーゼさんの力は広がってる的な感じっすか?」

「ええ」

「ふぇ、ふぇー!! そりゃすげー! マジでちょースゲーっす!! いやマジで!! マジで僕ってばマジで何かもうテンション上がりに上がってますよマジで!! マジで!!」

「そう」

 ……そこで再びの沈黙。

 咄嗟に鉈内は窓の外を指差して、

「あ、ああ!! ほらあのイタリア人カッコイー!! うわーすごいなぁー、僕もあんな高身長が欲しいなぁー!! り、リーゼさんもあそこで歩いてるお兄さんとかタイプなんすか!?」

「生理的に無理ね。ナルシストの兆候が見えるから反吐が出るわ」

「そ、そそそそそそーっすねよねぇ!! いやだってあのお兄さん格好がもうカッコつけっすよね!! よっぽど自分のことをかっこいいと自覚してなきゃ、あーんなチェック柄のハット帽とか被れないっすもんねー! はは、いやいやリーゼさんは男を見る目が合ってマジぱねぇっすハイ!!」

「いい加減食べなさい。麺が伸びるわよ」

「……ふぁい」

 シュンとうなだれた鉈内は、言われるがままにカップ麺を食べ始める。この重たい空気に耐えながら食べるご飯は、無味無臭に感じられるほどに残念だった。

 こんな時、世ノ華となら会話が弾むのになぁ。という今更になってだが世ノ華の価値を思い始めた鉈内。意外と自分は、ああいった男勝りのサバサバ系女子との相性が抜群なのかもしれない。

 再び長い長い沈黙が流れる……。

「そういえば」

 と、また重い重圧に耐えるのかと予想していた鉈内だったが、いきなりリーゼから口火を切ってきた。

 麺を咀嚼中だった鉈内は驚いて咳き込むが、彼に構わずリーゼは続ける。

「フランさんから連絡があったわよ。何でも、私の管理しているイギリスの基地の一つに『夜明けの月光』に所属する『悪人祓い』を送ってくれるらしいわ。あなたもよく知っている女の子らしいわよ」

 しばし思考をフルで使う鉈内。

 だが、そんな相手は一人しか心当たりがなかった。

「あ、もしかして燐ちゃんですか?」

「確かそんな名前だったわね。黒崎燐っていう子と、もう一人セットでフランス人がついてくるらしいわよ」

「あ、あれ? それって間違いなくシャリィちゃんですよね? 何であの子まで?」

「さぁ。ただ、協力してくれることは私としても嬉しいけどね」

 ついに黒崎燐やシャリィ・レインまでもが、今回の騒動に関わることになった。その現実は彼女達を大事に思っている鉈内からすれば胸にズシンとのしかかってくるもの故に、思わず表情が苦虫を噛み潰したように歪む。

「……あんまり、僕はあの子達を関わらせたくないですけど」

「黒崎燐は『悪人祓い』なのだから仕方ないじゃない。お人好しも度が過ぎるとしつこい男に退化するわよ」

「いや、やっぱり自分の好きな人達が傷を負いに行くのは嬉しく思えないですよ。それに、僕は一回だけ、カナダの街中で奴とやりあいました。敵の親玉と戦いました。だからこそ、身をもって『敵のレベル』が桁違いだということはわかっています。尚更、危険だと承知で周りの人をそこに向かわせたくはないですよ」

 全ての元凶であるアルスの力は、誰よりも鉈内が理解していた。あいつに立ち向かうということは、つまり死に向かって走ることと同じ道理。自分よりも黒崎燐は優秀な『悪人祓い』だろうが、だからといってアルスに届くかは別問題である。

 あいつは化物だ。

 前提から考えれば、世界のどこに奴と渡り合える輩がいるというのだろう。神様でも助っ人で現れてくれるのならば光は見えるが、そんな都合のいいことはありえない。

 そんな不安を抱く鉈内だったが、今の彼に不安は通じない。

 何とかしてみせる。

 そういった、子供のように漠然とした非現実的な行動力こそが彼の力の源なのだ。

「確かに、アルスに届く存在と言えば世界のどこにもいないかもしれないわね」

 リーゼは食事を済ましたようで、口元をハンカチで拭いながら、

「それでも、世界中の『悪人祓い』が結集して立ち向かっているのよ。勝機はあるわ。単体であの怪物を倒せる者なんて、この世にはきっといないでしょう」

「……いや」

 そこで、ようやく鉈内の顔に笑みが浮かんだ。

 彼は怪物と渡り合える怪物の顔をようやく思い出し、

「一人、いるかもね」

「え?」

「一人だけ、そのアルスとかいう悪の親玉と張り合える悪の親玉がいるかもしれない」

「……まさか。一人であの男を倒す存在なんて、それこそ、そのアルスを上回るかもしれない者こそが一番の怪物じゃない」

「そ。あいつは怪物なんだよ。はは、だから怪物は怪物に倒してもらいたいもんだ」

 鉈内も食事を終えて、使っていた食器類をテーブルに置いた。

 一息吐いて、愚痴るようにぼやく。

「悪の親玉は悪の親玉が倒してくれる。……ならいいんだけどね、あの馬鹿はあの馬鹿で何か頑張ってるし、その案は却下か。やーっぱり僕達でどうにかしなくちゃですよねー」

「よく分からないけれど、最終的に信用できるのは自分よ。あなたは強いわ。内側が強い。だからこそ、ここでグジグジ言わずに黙って行動して欲しいわ」

「はは、そいつはすんません。そうっすね。リーゼさんもいることだし、絶対に大じょ―――」

 苦笑しながら振り向いた鉈内。

 そこには、唖然とする光景が発生していた。



 なんか、可愛い白の猫耳カチューシャを頭につけてる金髪美人のリーゼさんがそこにいた。



「「………………………………………………」」  

 空気が冷えた。

 固まって、重りになって、凄まじい圧力と化してキャンピングカーの車内を押しつぶす。 

 しばしの静寂が立った後、

「ごめんなさいあなたが何だか私と喋ることを無理しているようだからギャグというものをしたのだけれど引いたわよねごめんなさい本当に悪かったわ二度としないからごめんなさい!!」

「本ッッ当マジですいませんでした!! だから似合ってる猫耳カチューシャを片手で折り曲げないで!! いや本当に面白かったし似合ってたしギャップ的なアレがアレでアアなってたからカチューシャを握りつぶさないであげてッ!!」  

 何だかんだで相性が良さそうで何よりである。

 自分を見失ったリーゼに鈍感な自分が悪かったと頭を下げまくった鉈内だったが、やっぱり自分は年上の方が好みだなと自覚した瞬間でもあった。

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