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王と何者か

 

 また。

 黒崎燐とシャリィ・レインも今回の大事件に関わることとなっていた。知り合いの『悪人祓い』が管理している、イギリスに根を張った基地に派遣されることとなったのだ。フラン・シャルエルからの命令とはいえ、さすがに今回ばかりはいつも以上に重労働になりそうだ。

「本当に大丈夫なんですか?」

 ヘリコプターを飛ばして日本海上空を飛んでいる黒崎は、隣に座るシャリィ・レインに尋ねていた。何を、とは言うまでもない。今回の世界規模の異変に立ち向かう無謀な行動自体に対して、改めて遠まわしに『後悔していないか』の確認を取ったのだ。

 シャリィは小さなため息を吐いた。

「何度と同じ質問をするな。私も可能な限りは手伝うと言っているんだから、それでいいだろうが」

「ですけど、『悪人祓い』でもないんですから、シャリィさんは別に戦場へ向かう決意を固める必要はないのでは……」

「確かにそうだ」

 そこは肯定する。

 だが、すぐにシャリィは首を横に大きく振った。

「だがな、私はお前らに生活の面倒を見てもらっているし、そこのところの恩を少しでも返したい」

 そして。

 シャリィは頬杖をついて窓から広大な海を眺めながら、

「鉈内の奴には莫大な感謝をしているんだ。もちろんお前にも。だからこそ、お前らが戦場へ向かうというのならば私もそれに協力したいだけだ」








 




 アルスは世界各地に散らばっている基地の一つへ帰ってきていた。洋風の内装をした廊下を歩く彼の姿は、もともと人間離れした神々しい容姿故に童話や別世界の住人のようにも見えてしまう。

 そんなアルスは、歩行速度を緩めることなく無線機越しに誰かと会話をしているようだった。

「くく、なかなか面白いやつだったぞ。王である俺に果敢にも立ち向かってきた、あの根性という名の無謀さだけは賞賛に値しなくもない」

『未熟な「悪人祓い」一人を相手に、お前が直々に動くことはなかったと思うが?』

「興味が働いたんだ」

『? 興味?』

 怪訝そうな声が返ってきた。

 アルスは薄い笑みを貼りつけながら告げる。

「そうだ。俺の道具として活躍してくれるだろう夜来初三とは真逆の男。そこに興味を持っていた。くははッ、確かにあれは光っていたぞ。夜来初三とは違い、あいつは目障りなほどに輝いていた。俺はどうやら、ああいった聖人君子のような人間よりも夜来初三のような極悪非道な人間が好みらしい。類は友を呼ぶ、では不適切だな。……悪は悪を好むとでも言っておこうか?」

『それで。今後はどう動くつもりだ』

「第一段階は既にクリアした。残るは計画を第二段階へ移行させることだ」

『なに? 既に第一段階はクリアだと? いつ?』

 アルスはその疑問にはすぐに答えなかった。

 彼はただ、全てが全て世界そのものが自分の手のひらで踊っている現実に笑いをこらえながら、吐き出すように言った。 

「夜来初三の内側をズタボロにしただろう」

『ああ。だが、下部組織からの報告によればお前が追い払ったはずのガキと殺し合って、最終的には回復してしまったようだが?』

「―――それでいいんだ」

 キッパリと言い切ったアルス。

 その思わぬ反応に、無線機からは困惑の色が混じった声が響く。

『……どういう、ことだ? 夜来初三を廃人寸前まで追い詰めることで、奴を利用しやすくするんじゃなかったのか?』

「そういうベクトルにことが進んでも構わないな」

『だが、奴は既に正気を取り戻してしまったんだぞ? これは失敗ではないのか?』

「いいや、そういうベクトルにことが進んでも成功なんだよ」

『……何だと? つまり、「どっちに転んでも成功」ということか?』

 アルスは全知全能の神のような口ぶりだった。

 まるで全ては彼を軸に回っているような、そんな雰囲気が広がっていく。

「夜来初三は、今回の精神的ショックで俺たちに対する警戒心が強まったはずだ。同時に、雪白千蘭を守るという意思と決意もさらに膨大したはずだ。―――それでいいんだ。これで奴は雪白千蘭を思う気持ちが莫大になったのだから、万が一の時、雪白千蘭を人質にとってしまえば自然と奴は動けなくなる」

『つまり、雪白千蘭の価値的なものを増幅させたことで、彼女を人質などに利用した際の夜来初三を縛り付ける「拘束力」を上げたということか?』

「その通りだ」

『……それだけのメリットを得るために、お前はあの少女を夜来終三に作り上げて、脳をいじくりまわし、挙げ句の果てには夜来初三に嬲り殺されて来いと送り出したのか?』

「そうだな。俺は非人道的な王だな」

『自覚はあっても、正さないというのか』

「当たり前だ。世界をハッピーエンドに迎えてやるためには、その目的を果たすまでの過程で起きる罪を背負う覚悟がいるんだ。それこそが、王としての器だ」

 アルスは無線機に口を近づけて、最後にこう言った。

「『お前ら』のような日陰者には分からんだろう。よく見ておけ。王の俺が完遂させる世界平和革命の過程も結末も」

 グシャリ、と片手で無線機を握りつぶしたアルス。粉々になって床へ落ちた無線機だったが、アルスは無視して廊下を歩き進んでいく。

 そして。

 ポツリと、王は大きく宣言した。

「さてと。そろそろ第二段階に計画を移行させようじゃないか」


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