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王の力

 アルス。

 その神々しい容姿は王と評価するには十分な価値を誇り、尚且つその薄い笑みは強者だけが作り上げられる表情だった。

 彼の原因不明の一撃によって生まれた大破壊は、関係のない一般人達を恐怖のドン底に突き落としていた。自然と飛び交っていた悲鳴は離れていき、徐々に人の気配は薄くなっていく。

 睨み合う、リーゼとアルス。

 いや、睨んでいるのはリーゼのみ、実際のところはアルスは敵意さえも向けていない。

 格上の余裕。

 それが今、アルスの浮かべている顔だった。

「あなた、なんの真似かしら」

 鉈内達から離れ、立ち上がったリーゼはジロリと視線を鋭くする。

 そして片手をゆらりと街全体を指すように広げて、

「ここは一般人も生活する街のど真ん中よ。どう考えても、普段からコソコソコソコソと姿を隠していたゴキブリのようなあなたが登場するには都会すぎるんじゃないかしら?」

「俺としてもお断りだった。まさか、こんなにも早い段階で王である俺が直々に出向くハメになることは計算外だったんだ」

「では、なぜ今あなたはここにいる」

「そこの男のせいだ」

 アルスが指さしたのは、未だに腰を抜かしている現状を理解できない鉈内翔縁。

 ようやく我に返って世ノ華に手を貸しながら立ち上がった彼は、あまりにも自分では手が届かない領域に立つ強者に尋ねた。

「僕、のせい……?」

「そうだ。まったく、実に面倒くさいイレギュラーだな。部下のほうから連絡が入ってな。何でも、『夜明けの月光』という『悪人祓い』の組織が俺たちの動きに釣られてきたらしい。まぁそれだけならばいいのだが、どうにも『こっち』に一人だけ『夜明けの月光』と別行動を取っている『悪人祓い』がいるそうじゃないか」

 目的は判明した。

 間違いなく、王が直々に手を下す仕事内容とは。

「言いたいことは分かるだろう。これ以上のイレギュラーは、王の俺でも許容範囲量を超えるストレスだ。今すぐ立ち去れ、この弱者が」

「……それに僕が従わないなら?」

 散々な言われように腹が立ったのか、鉈内は挑戦的な返しをした。

 すると。



「ならば葬るまでだ」


 

 あごの下から、視界に入りきらない下のほうから、冷ややかな殺害予告があった。いつの間にか鉈内の懐に入り込んでいたアルスが、その余裕の笑みを少しばかり濃くする。

 右手を広げた。

 直後に、その右掌から眩い光の発光が始まった。

「っ」

 反応できない。

 何をされるかは、結末だけは先ほどの『葬る』という言葉から察せた。

 しかし、得体の知れない力で死を迎えかけた鉈内の横から黒い物体が飛び出てきた。正体は金棒。すぐに臨戦態勢に入っていたのか、世ノ華がアルスの横顔に勢いよく撲殺武器を叩きつけたのだ。

 ゴガッッ!! と、空間を振るわせる轟音が鳴る。

 その破壊音から、確実に狙われた生命の肉が弾けとんだはずだったのだが。

「ほう。お前は『鬼』か」

「っ!?」

 仰天した世ノ華は、自分の振るった金棒を片手で握り止めているアルスに目を見開く。ありえないはずだ。世ノ華雪花にかかっている呪いとは『羅刹鬼の呪い』。超攻撃型に特化した『鬼の筋力』を使える呪い故に、その純粋な力は怪物の中でも頭一つ分は追い越している。

 なのに。

 この世で一番の筋力を操った世ノ華の一撃を、あっさりとアルスは無効化していた。

 危険を察知し、すぐさま後ろへ飛ぶように下がる世ノ華と鉈内。リーゼ・フロリアも周りにいた部下たちも、各々がそれぞれの戦闘態勢を取って王との距離を離していた。

「おい女。その『鬼』の力、もしや世ノ華雪花か?」

 自分の名前を奴が知っている。

 自分一人では到底叶わない化物が、自分のことを知っている。

 その表現の出来ない恐怖が、世ノ華の肩をビクリとはね上げていた。

「そうか。ならばお前が豹栄真介の義妹というわけだ」

「……なんで、そこであいつの名前が出てくんのよ」

「はてさて、どうしてだろうな。しかし聞いてた以上に『弱体化』しているようじゃないか。それでは『怪物最強の筋力』を振るう鬼の怪異、羅刹鬼の力を百分の一も出せてはいまい」

 その通りだった。

 全てが全て正論だった故に、世ノ華は苦い顔をして金棒を低く構える。自分に憑依している羅刹鬼は、かつて七色夕那に祓ってもらったために(祓いきれなかったが)、その力も大幅にダウンしている。今までの超破壊ですら、羅刹鬼本来の力とは比べ物にならない程に弱小だ。

 しかし、都合よく力が戻るわけもない。

 今更になって、呪いを祓わなければ良かったと後悔しても無意味なのだ。

「さてと」

 軽い調子で首の関節をコキリと鳴らしたアルス。

 彼はうっすらと目を細めて、



「それでは、早速終わりにしようか」



 直後に。

 アルスの特徴的なオッドアイ―――金色の瞳と銀色の瞳の内、片方が色を変えた。それは金色に輝く右目だった。絵の具が水の中で色を広げていくように、ジワジワとその『金色』が『青色』に変わっていく。

 不可思議な現象。

 だが正体不明のその変化が、すぐに脅威と化すことは察知できた。

「っ……!!」

 息を飲んだリーゼが、即座に懐から御札を取り出す。さらに周りに散らばっていた部下たちも同じように御札を取り出し、凄まじい呂律で即座に呪文を唱え終えた。

「絶対防御―――鉄壁!!」

 全員が全員、『対怪物用戦闘術』で防御結界を作り上げた。ここまでの時間、わずか二秒。投げられた御札が光輝く壁へ変化し、安全を確保するように巨大化する。

 リーゼの防御結界のおかげで、鉈内や世ノ華も守られるはずだった。

 しかし。

 ドバァッッッ!! という爆音が炸裂すると同時に、驚愕の現象が発生した。ここは既に屋外だ。天井は三割も残っていたら良い結果なほど、既に建物は瓦礫へ変えられている。

 だからこそ、街に被った雪はとても見えた。

 よって見てしまった。



 街中に降り積もった全ての雪が、アルスの頭上に凝縮していく。

 まるで太陽のように雪が集まっていき、そのサイズを全長二キロメートルという驚異の塊へ変えた。



 全員、あまりにも桁違いなその力に唖然としていた。雲が隠れて、日光は遮られる。この街自体をペシャンコに出来るだろう巨大な雪の玉は、人間の脳が処理できる限界を超えてしまっていた。

「弱者が。王に噛み付くことがいかに重罪かを知れ」


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