ナメてんのか?
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ!! と銃弾が夜来の体に突き刺さっていく証拠の炸裂音が響き渡る。だが当たらない。夜来初三が片手で突き出している女は、特殊なゴツイ装備をつけているのだ。必然的に体周りは夜来よりも大きいゆえに、全ての弾丸を受け止めてしまう。
だが。
顔だけは、夜来初三の手でヘルメットを取られていたから丸出しだ。
よって―――銃声が止んだ後の女の顔は、鉛弾がいくつか直撃したことで原型を止めていなかった。体のほうは防具があったゆえに傷ついていないが、顔だけは既に顔ではなくグチャグチャの肉へと変貌していた。
それを夜来初三は使い終わったので投げ捨てるのではなく―――ここまで非情に女を扱っておいてなお、彼は盾がわりにした彼女を攻撃用の砲弾として扱った。
無造作に、キャッチボールをするような調子で、顔を失った死んでいるだろう女を『エンジェル』の複数人に放り投げた。速度は弾丸のようだった。バドッッッ!! と、三人ほどの『エンジェル』の男女に直撃した女は、無造作に役目を終えて雪に埋もれる。
非情すぎる。
夜来初三は冷酷すぎた。
だが、彼はそんな自分を自覚しているし、わざわざ指摘されるまでもなく理解している。
非情。
冷酷。
残酷。
だから。
だからこそ、夜来初三は悪人だと夜来初三が理解できるのだから。
「ち、っくしょうがァァあああああッッ!! 回れ回れっ!! 囲んで全員殺しにかかれェェええええええええええッッ!!」
残った『エンジェル』の数人が、再び動き始めた。夜来初三を改めて取り囲むように動く。全方位から銃口を突きつければ、先ほどのように味方を盾にされても『隙』はできるだろうからだ。
が、それは夜来初三が読んでいた。
だからこそ、もはや浅はかな思考回路をしている雑魚共に軽蔑するような目を向けて、
「失せろ」
無慈悲に言った。
そして片足を雪原に叩きつけた。まるでアリを踏み潰すように靴底を叩きつけた直後、ビシビシビシィッッ!! と周囲一体の雪原から亀裂音が炸裂する。莫大な衝撃が地に加わったことで、地盤が大きく揺れ動いてしまったのだ。
マグニチュード5は超えるだろう大きな揺れが発生し、そこら辺の雪原が亀裂を走らせて割れる。そうして体制を崩した『エンジェル』の残党達は、一人一人丁寧に夜来初三の手で意識を刈り取られていった。
だが。
最後に残った一人が、思いのほか早く体制を立て直してしまう。仲間の一人の腕を折り曲げて蹴り飛ばしている夜来初三の背中にショットガンの先を突きつけた。
引き金を引いた。
ドガン!! と轟音が炸裂する。
ショットガンとは散弾銃。その射程距離は他の銃と比べれば圧倒的に短く、近距離専用のものになることが多いが、あくまで近距離とは『戦場の中での近距離』に過ぎない。五メートルや十メートル程度しか弾丸が飛ばないと誤解する者も多いが、実際はもっと長く威力を維持して弾は散弾する。
丁度、今の夜来初三の背中を狙う男の距離ならば、余裕で弾は届くのだ。
そして。
ショットガンとは散弾銃。ゆえに、弾は広範囲に散らばってしまうので―――夜来初三の背中に直撃すると同時に、彼が左手で抱きかかえている雪白千蘭にも当たりかけた。
背中から血を吹き出した夜来初三。
しかし、呪いにかかっているゆえに回復力は高い。致命傷でもないので、傷口は数分で塞がるだろう。だからこそ、あまり大きな問題ではない。一撃で仕留められなかった『エンジェル』の男のほうも、苦い顔をして後退していた。
だが。
そこで、男は見てしまった。
「―――っ」
呼吸を忘れる。
夜来初三がゆっくりと振り返り、その顔にはギョロギョロと動く血走った眼があった。まるで獲物を探しているよう。そして、ようやく狂った眼球は『エンジェル』の男をロックオンする。
「……こいつに、当たりそうになった……」
夜来初三は言った。
先ほどの―――雪白千蘭の頬をかすめたショットガンの一撃。自分の背中を傷つけたことに対する怒りではなく、彼は自分の腕の中にいる雪白千蘭に弾丸が『当たりかけた』事実に暴走していた。
もう一度、言う。
雪白を傷つけようとした、ふざけた輩にボソリと告げた。
「……ナメてんのか?」
ゴバッッッ!! と、瞬時に夜来初三はミサイルのように飛び出した。獲物は最後の一人ということで、夜来初三が魔力を自分にも回し始めて攻撃を開始したのだ。今まで以上の速度で男の目と鼻の先に接近した夜来は、開いた右手をすっと男の胸に添えてやる。
「散れ」
冷たく告げた。
呪いを引き出す。
右掌から破壊の魔力を発動させる。
直後に、それは雪白を傷つけようとしたクソ野郎の体を粉々に吹き飛ばした。文字通り、木っ端微塵に消えてしまったのだ。血飛沫だけが辺りには散布され、ピンク色のブヨブヨとした肉と思われる固形物が散らばっていき、白い雪原に赤いカーペットが出来上がる。
だが。
夜来初三と雪白千蘭だけには、血飛沫すらも破壊されてしまう。『絶対破壊』の操作を夜来自身が的確に行っているからだ。
返り血なんて、夜来が許さない。
この大事な白い少女に汚れが付着するなんてことは、絶対に許さないのだ。




