暴虐で残虐なショー
文字通り氷と雪だけで構成された神秘的な銀世界。あるのは周りを走る美そのものを具現化したような純白の山脈と、すぐ真横にある視界に入りきらないぐらい広がる北極海のみ。そんな白い世界の中にある『エンジェル』の基地跡地で、夜来初三は十単位の敵に囲まれていた。
銃火器を装備していて、どう考えても殺す気で囲まれている。
だが、実際は夜来初三を鍛えるためなのだから、殺される心配はないと思いたい。もちろん、奴らが『うっかり』と殺そうとしてしまう可能性はあるゆえに、結局のところ命を落とす可能性はあった。
だが。
残念ながら。
夜来初三は怪物だ。怪物に憑かれている人間ではない―――怪物に憑かれた怪物なのだ。彼自身が人間の皮を被った悪魔なのだから、ただの人間風情が銃火器をいくら所持したところで抗えるわけもない。
ゆえに。
「……」
夜来初三はしばし考えた。腕には雪白千蘭がいる。彼女をこの冷気が激しい世界に連れてこれているのは、自分が彼女に触れていることで『絶対破壊』を雪白にも張り巡らせてあるからだ。魔力の薄い膜……それが『絶対破壊』の具体的な形と構成。
よって、自分が彼女から離れれば雪白は寒さに震えるだろう。
さらに言えば、自分が彼女から離れれば雪白は『絶対破壊』を装備していない無抵抗な状態ゆえに攻撃されるだろう。
だから。
彼女を抱いたまま、彼はゴミ掃除をすることにした。
再び夜来は考えをまとめる。
次に、それを実行に移す。
破壊を宿したサタンの魔力を、雪白千蘭の体に全集中。
全て雪白千蘭第一の行動がほとんどになっていた夜来だったが、やはり彼は頭のネジが飛んでいた。今の彼は『絶対破壊』すら使用していない。ただの人間そのものだ。冷気をシャットアウトする程度には魔力を纏っているのだろうが、そのくらいの出力では鉛玉どころか石が当たっただけでも血は流れる。
だが。
その代わり。
―――雪白千蘭が傷つくことは絶対にない。
自分に回す魔力も含めて全ての力を雪白の『絶対破壊』に変えた。これで彼女は弾丸が当たろうとも傷つかないし、冷気なんてものどころか核爆弾の一撃だって無傷で生還できる。これから始める暴虐で残虐な戦いで起こる騒音さえも届かせない。なぜなら、それだけの魔力を全て雪白に使ったのだから。
だから。
夜来初三は『身体能力』だけで、奴らを全員皆殺しにする。
「―――、」
目の色を変えた夜来が、ゴバッッ!! と砲弾のように飛び出した。サタンに憑依されているゆえに、身体能力だけでも応戦できる力はあるのだ。
よって、一瞬で『エンジェル』の男の懐へ入り込んだ夜来。
右手を開く。
それを、『エンジェル』の男の右耳にすっと添えて―――ブチブチブチィッッ!! と、強引に耳を引きちぎってやった。
「ゴァァあああああああああああああああああッッ!?」
悲鳴を上げて耳のあった場所から血飛沫を噴出させる男を、さらに蹴り飛ばす。顔にめり込んだ靴底は、見事としか言い様がない一撃であったために男はゴロゴロと雪原を転がっていく。
一瞬、そこで静寂が流れた。
あまりの瞬殺劇に、『エンジェル』達の脳が処理をしきれなかったのだ。
だが、待たない。
夜来初三はご丁寧に待つほど優しくはない。
「……次」
ポツリと言って、目をうっすらと細めて、即座に消える。
いや、消えるように移動するという言葉が適切だろう。あっという間に離れた場所でライフルを構えていた女の背中に回った直後、彼はその女が被っている防具のヘルメットを無理やり片手で外しとった。長い髪があらわになる。非常に整った顔立ちをした女性で、綺麗な茶髪が美しい顔に大変似合っていることが分かった。
だが。
夜来初三はその女の後ろ髪をグイッ!! と右手で無理やり掴み、引き寄せると同時に背中へ靴底を叩き込んだ。
「っがッッツは!?」
悶絶した顔で呻く女。
だが、夜来はさらに女の髪をギギギギギと引っ張りながら、背骨を曲げるように靴底を肩甲骨あたりに押し付ける。そのまま地面へ叩きつけて、うつぶせの体制になり身動きが取れなくなった女の後ろ髪を、まるで綱引きをするような調子で引く。
と、同時に背骨を圧迫させている足に力を加える。
すると当然、力の向きが反対にかかり合うのだから―――ゴギィ!! という背骨が折れ曲がった轟音と同時に、ブシャァッッ!! という髪が引きちぎられた気持ち悪い音が雪原に響く。
ドサリと倒れて気を失う女。
これで二人目。
「っ、構えろ!! 全員殺す気で引き金を引けェェええええええええッッ!!」
一人の『エンジェル』が、英語で絶叫を上げて仲間の士気を高めた。
よって、残りの『エンジェル』達は大声に影響されて冷静さを取り戻したようで、引き金をようやく夜来に向けて躊躇いなく引きはじめた。
しかし、遅い。
それでは、既に遅い。
夜来初三は先ほど鎮圧した女が足元に転がっていることを確認すると、その女性特有の細く柔らかそうな体を使うことにした。
彼らが引き金を引く寸前に。
真下で気絶している女の頭―――まだ残っている頭頂部の茶髪を右手で鷲掴みした。さらにグイっと持ち上げて前へ突き出す。
そう、彼は敵とは言え女を何の躊躇いもなく盾がわりにしたのだ。
「っ」
『エンジェル』側の息を呑む音が聞こえた。仲間を殺すことに抵抗があったのだろう。だがしかし、今ここで攻撃の機会を逃すわけにはいかないと己に言い聞かせて、引き金を震える指で引く。




