計画的に行動せよ
「ああ、服とは何て素晴らしきものなんだろう」
この世の真理を見据えた宗教信者のようにぼやいたのは鉈内翔縁。彼は暖色系のジャケットを着用している現在の自分に、思わず温かい声で自問を送る。辺り一面が雪で覆われた白い世界の中で、陽を迎えるように両手を天高く広げながら、
「あなたにとって服とはなに? 僕にとって服とはなに? 公然猥褻罪防止道具? 我が魅惑のボディを包む慈愛に満ちた優しいマフラー? いいや違う。違うんだよ。服とは言わばジーザスの化身さ!! ジーザスジーザスジィィィィィィィィィザァァァスッッ!!」
「うるせェよアホ」
「ごばッ!?」
頭のネジが吹っ飛んでいた鉈内を蹴り飛ばした世ノ華は、ゴロゴロと雪原を転がるアホを一瞥する。街から離れ、再び雪景色しか存在しない神々しい雪原にやってきたわけだが、さすがに今はバイクから降りて休憩中である。
ガソリンの問題も含めて、やはり計画的に行動せねばなるまい。
「よ、世ノ華ぁ。ぼ、ぼぼ僕は今まさしく、世の理の断片を垣間見た気がしたというのに! き、貴様は我が『悟り』を妨害した大罪人だぞコノヤロー!」
「ギャーギャーギャーギャーうっさいわね。冬服一着で世界の全て理解されちゃうくらいなら、私がこんな世界ぶっ潰してあげるわよ」
「服のありがたみが分からないの!? 君はスタートの時から冬服のお世話になってたから、衣服の存在価値がどれほどのものか分からないんだろ!! スゲーから、マジで服ってスゲーから! あの刺すような冷気を完全にシャットアウトしてるから! ああもう僕ってば服フェチになっちゃった、きゃー! 恥ずかしー!!」
「……キモ」
自分で自分の体を抱きしめながらクネクネと体を動かして悶える鉈内の姿に、思わず世ノ華も本音を漏らしてしまう。しかし今更ながら、この極寒の地をあれだけの薄着で耐え抜いてきた鉈内にとって、服とは言わば女神の微笑み。差し出された慈愛の神の手にすがりつき、ようやく手にした光だったわけだ。
もちろん、結局は大げさなことに変わりないわけだが。
「はいはいそうね分かった分かった。分かったから、ちょっとは今後を考えなさいよ。北極に行っても、結果的に何をすればいいか具体的に理解してるの?」
「溶けてる場所ぉ見つけてぇー、そんで調べてぇー、そんで北極熊とメアド交換してぇー、北極熊と雪合戦しにいくのさ!」
「……」
「あ、あれ? どうしたの? 何で無言で撲殺にもってこいの石を拾い上げてるの? ねぇなんで!? 何でそれを持ってこっちに来ちゃうの!?」
と、テンションが上がりに上がっている鉈内故に、具体的な行動方法を固められない二人だったわけだが。さすがに鉈内も本気で世ノ華が切れていると察し、服の価値から発生した温かい余韻だけは心にしまっておきながら、
「え、ええとですね!? とりあえず北を目指してレッツゴーですはい! ですから世ノ華様の愛車を使っていただきまして、北へ北へ参り、最終的には北極海あたりに行きたいのでございます!」
「……そっからは? あ?」
「そ、そそそっからっすね!? はいええと、そこからは船を見つけて確保し、とにかく北極の氷の大地にたどり着ければいいのです! だ、だからお願いします、マジでもう石をそれ以上振り上げないでくださいはい!!」
「チッ。結局アバウトじゃない。ま、いいわ。あんたが北極に歩いて行こうなんて言わなかっただけで、こっちとしては万々歳よ」
「万歳の沸点低すぎじゃね!?」
罵倒を超えた哀れみの言葉に、無知なチャラ男は心をズタズタにされたのだった。




