赤いカーペットを作る
漆黒の魔力を纏って飛び出した夜来初三。サタンをあれだけ徹底的に蹂躙されたことで、彼は理性が吹き飛んでいたのだ。どうしようもない殺意。それに抗うことができず、ただただ憤怒の激流に飲み込まれて獲物を叩き殺しにいった。
そう。
(ふざけやがって……)
ここでいつもの聡明な夜来初三だったのならば、間違いなく攻撃の手は上げないはずだった。相手は『エンジェル』のトップ。『エンジェル』のNo.2にすら単身で適わなかった自分では、勝算が低いことは明白だ。
しかし止まれなかった。
(ふざけやがってェェェェええええええええええええええええええええッッ!!)
どうしても、大切な相棒を釘で磔にされたことだけは許容できない。
故に突っ込み、全てを破壊する魔力を宿して右手を叩きつけようと接近したのだ。
しかし、
ゴバッッッ!! と。
突如、夜来初三の上半身に光のような一閃が直撃して肉が弾け飛んだ。
思考が止まった。意味がわからない。痛みよりも展開の速さに意識が持っていかれる。そんなことを無意識に感じていた夜来は、気づけばシャワーのように胸から血飛沫を上げて二回、三回、四回と後ろへ転がっていった。
同時に血がドバドバと溢れてくる。
本当に、例えでもなんでもない膨大な出血量だった。湧水のような勢いで血が流れてくるのだ。胸からだけじゃない。耳も、口も、両目からも赤い鮮血が蛇口からひねった水のごとく放出される。
「が、ぽ……、ッァァァああああああああああああああああああああああああああッッ!? が……っつごっ!? グ、ッっぼふぁッ!? ご、っハ……ッボァァあああああああああああああっッ!?!?」
嘔吐するような調子で、口から赤い滝が落ちてきた。ビチャビチャと床に赤いカーペットを作り上げていく吐血の量に、思わず人間とはここまで血が詰まっているものなのかと驚愕する。
そんな、本当に死にかけ寸前の夜来初三を見下ろして、アルスは苦い顔を作り上げた。
口元に手を当てて、
「あ、すまないな。つい加減に失敗した」
理解不能なセリフだった。あれだけの一撃を放ち、万全状態の夜来初三を瞬殺したというのに、彼はそれでも加減に失敗しただなんて謝罪の言葉を並べ立ててきた。
出血は止まらない。
呪いにかかっていなければ、間違いなく即死だった威力。
「が、っふ!? ぐふっ!?!? ご、っっぶぉぉおおおおおえええええあああああああああっっっつ!!?!?」
血が、本当に止まらない。口から、目から、耳から、鼻から、胸から、全身からさらに漏れでてくる。内蔵が吐いた血の中に混じっていそうで、思わずそんな最悪の想像をしてしまい吐き気も催してきた。
そもそも、なぜだ。
夜来初三は完璧に『絶対破壊』を纏っていたはずだ。確かに今までにも『絶対破壊』をすり抜けてきた強敵は腐るほどいた。由堂清、桜神雅、主にこの二人は夜来初三に一番の脅威として迫ってきた強敵だ。だからこそ、先ほどの一撃が今までのように『絶対破壊』を無効化する可能性もなくはないはずであるが……。
なぜか納得できない。
アルスは、きっと由堂清のような専門的な力を使ったわけでも、桜神雅のような己の力を上手く活用したわけでもない。
間違いなく。
格の差というものが、そこにはあったのだ。
「大丈夫か? 生きているよな? 死なれたら困るから生きてて欲しいんだが」
軽い調子で言ったアルスは、死にかけのカブトムシのようにピクピクと痙攣している夜来初三を見下ろして安堵の息を吐く。きちんと生命活動を行っていることに、胸をなでおろしたのだ。
「いやいや本当にすまない。俺も少々加減というものを鍛えるべきだな。いや、正確には推測力といったところか。てっきり、お前ならばあの程度の一撃は耐えられる程度のものだと思い、大きく期待していたのだが……何だ、あんなちっぽけな一撃でダウンか。非常につまらん」
失望したような声が響く。
しかし、夜来初三は長々とした言葉には微塵も耳を傾けていなかった。その右目に埋まっている黒い瞳の色が反転する。白い狂気へ染まり、眼球を黒く染め上げた。さらには顔の右半分にビシビシとヒビが入っていき、ガラスが砕けたような音と共に白すぎる肌が顔を見せる。
「ヒゃ、ッッハァァァァアああああああああああああああああああああああッッッ!!」




