表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

377/539

必死の帰還

 豹栄真介は目を覚ました。同時に、まずは痛みが襲いかかってくる。腕が熱い。焼けるような激痛がじわじわと溢れていた。顔の半分もドロリとした赤い液体で覆われているのが分かり、間違いなく重傷だということには気がついていた。

(何が……あった……? あのクソガキと一緒にいたところで、確かライオンに睨まれたんだ)

 だんだんと頭も回るようになっていき、顔を振って完全覚醒する。

「そうだ。そんで逃げたら視界がブラックアウトして……」

 と、そこで豹栄真介は自分のいる場所が奇跡的な地点だと気がついた。辺りには無数の瓦礫が散乱しており、気を失っていた自分が巻き込まれていないという事実に呆然とする。

 しかし、すぐ頭をブンブンと振って我を取り戻し、

「これ、全部あのガキがやったのか……? いや違う。待て。じゃああのガキは霜上陸っつー肉食動物を逆に食い殺したってのか? ……ありえねえだろ」

 いろいろな可能性を考慮しながら、折れた片腕と血まみれになった顔の痛々しいセットと共に、ゆっくりと屋上庭園の形すら残っていない廃墟同然の地を歩く。

 しかし妙だ。

 自分が意識を失ってから何があったのかは知らないが、夜来初三と霜上陸が激突したことだけは予知能力者でもない豹栄だって想像はつく。敵同士が遭遇したのだ。間違いなく、あの二人は『戦った』か『戦い続けている』はずだ。だというのに、この場には戦闘中である二人の姿も、戦い終わったことで生まれる『敗者』の死体も見つからない。

 一体、どちらが死んだ? 夜来初三か? 霜上陸か?

 そんな疑問を胸に抱きながら歩いていた豹栄の視界に。

 銀色の悪魔が映りこんだ。

「あれは……」

 正体は大悪魔サタン。

 長い銀髪が破壊の限りを尽くされた床を這っていて、彼女の小学生と同じレベルの小さな体は無造作に転がっている。まるで誰かに敗北したかのよう。しかし彼女が負けたならば、必然的に夜来初三の死体もそこら辺に転がっているはず……。

「あ。いた」

 豹栄は予想通りうつ伏せで倒れている黒ずくめの少年を見つける。なぜだか『ウロボロスの呪い』が正常に作動しない故に、折れたままの腕を片腕で支えながら近寄っていった。

「おい起きろ」

 そうして夜来の黒い髪が生えた後頭部を、ゴン! と少々強めに蹴り飛ばす。だがしかし、一切彼に反応はないため豹栄は眉を潜めた。

「あ? 死んでんのかよ? じゃあ、あっちに転がってるテメェの相棒もくたばったのか?」

 チラリとサタンを一瞥してから、面倒くさそうに溜息を吐いた豹栄。彼は本当に忌々しそうに腰を下ろすことで屈み、折れていない方の手を使って夜来の脈を測り始めた。右手首に指を添える。すると、かすかにだがドクンドクンと血流が流れている感触を掴み止めた。

 生きている。

 意識がないだけだった。

「ったく、何で気ィ失ってんだ? っつーかあの悪魔も夜来とセットのくせして何やってんだよ。一心同体って歯が浮くようなセリフはどこにいった」

 夜来が生きていることを確認した豹栄は、次にサタンの方へ足を運んでいった。途中、腕と顔の痛みに顔を歪めて立ち止まるが、それでも気を取り直して足を動かす。

(チッ。もうずっと『痛み』とか『死』とかとは無縁の体だったからな。今更になって痛みに対する耐性が俺は低いみたいだ。くそ、マジでウロボロスは何やってんだよチクショウ)

 心で吐き捨てて、サタンの前に立った。うつ伏せの状態で倒れている彼女は、長い銀髪のせいもあってか顔は見えない。思わず夜来と同じように頭を蹴り飛ばして生死の確認をしそうになった豹栄は、さすがに見た目幼女にそれはないだろうと自分を戒める。

「おい、起きろ悪魔。テメェの小僧が欲求不満で発狂してるぞ、チャンスだチャンス。あいつ女なら悪魔でも人間でも幼女でも何でもいい的なこと言ってパンツずり下ろしたぞ」

 無反応だった。

 適当にサタンが聞いたら喜びそうな言葉を並べ立ててみたのだが、どうやら彼女も目を開ける様子はない。しかし本当に気味が悪い。一心同体であるはずの夜来とサタンが、しっかりと別々に分かれて沈没している。

(いろいろと意味不明な現状ってわけか)

 大雑把な理解の仕方で納得した豹栄。

 彼はサタンの肩を揺すったり、頬をペチペチと叩いたりして、あまり期待はせずに意識の回復を待ってやった。

 すると、

「お」

 ガリ、とサタンの爪が床を掻いた。指が動き、もぞもぞと足を動かして、ゆっくりと銀髪の中から幼い顔を見せる。

「なんだ、起きたじゃん」

「……」

「おい悪魔。お前にゃ聞きたいことが山ほどある。さっきの襲撃者はどこだ? あいつは野放しにしたらやばいボスキャラ的なやつだ。どこに行ったのかだけでも知って―――」

 そこで。



「小僧は、どこだ……!?」



 豹栄の声を押しつぶすほどの、黒くて低い唸り声が響いた。

 ギロリとサタンに睨みつけられた豹栄は、少々度肝を抜かれた顔をしながらも答えてやる。

 指を少し離れた場所、夜来初三が転がっているところへ向けて、

「あ、ああ。あっちに転がってるぞ」

 返答を聞いたサタンは、四つん這いなって動き始めた。あの大悪魔サタンが、悪魔の神様が、最強で最凶な最狂の怪物が、無様な格好を自ら進んで受け入れてまで動いていく。夜来初三へ近づいていく。必死になって、小さな腕で体を引きずりながら、ひたすらに進み続ける。

(……ッ! まだ、意識が……朦朧としてる……か)

 心で呟き、サタンはようやく夜来初三の傍へたどり着いた。離れた場所では豹栄の怪訝そうな視線が突き刺さってくるが、彼女は気にもとめない。

 ゆっくりと夜来初三の頬に手を添えた。

 彼の黒髪を優しく撫でた。

 そうして―――幸せそうに微笑んだ。

「遅れてすまん……帰って来たぞ」

 悪魔はポツリポツリと謝罪して。



 静かに、その姿を煙のように消し去った。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ