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裏切り者

 上岡真と大柴亮は、黒塗りのワンボックスが停車してある崖の上へ戻ってきていた。普通に崖を登るようならば、大きな負担が足腰にのしかかってくる。しかしそこは上岡の千変万化の能力で助けられた。おかげで子供達も無事に崖を登りきることができたのだ。

「じゃあ、後はよろしくお願いしますね大柴さん」

 丁寧な動作で黒塗りワンボックスの後部座席へ繋がるドアを開けた上岡。彼はそこに客を誘導するバスガイドのような振る舞いを持って、子供達を乗車させていく。

 そんな光景を眺めていた大柴は、首を軽くかしげた。

「あの、よろしくってどういうことですか……?」

「この子達を『デーモン』の本部にまで避難させてください。車はお貸しします。ここまで来る道のりは、どうせ優秀なあなたのことです。覚えているんでしょう?」

「ええ、まぁ、確かに俺一人でも本部に帰投できますが」

「ならばオッケーアイスホッケー。そういうわけで、この子達を連れて先に帰ってください。そのまま本部で待機してくださって構いませんよ、子供達の面倒を見てもらえると助かります」

「……」

 大柴は口を閉ざした。

 子供達を全員後部座席に乗せ終わった上岡真は、車内で不安そうな顔をしている子供達にニコニコと微笑んで手を振っている。安心させているようだ。助けてあげるから、怖がらないで大丈夫だよと笑顔を持って伝えている。

 ……だからこそ。

 だからこそだった。



 だからこそ。

 悪である大柴亮は、上岡真の後頭部に腰から引き抜いた拳銃の先を突きつけていたのだ。



 黒光りする銃口は、しっかりと上司の頭をロックオンしている。すると異変に気づいたのか、上岡真はゆっくりと振り返って、 

「ありゃりゃ? 大柴さんはてっきり、反抗期なんてこない良い子なのかと思ってましたが。予想外ですねー、これじゃ素直な人材が完全消滅ですよ」

「動かないでください。『射殺』しますよ?」

 無慈悲な声だった。

 大柴亮は聡明だ。頭がいい。故に、拳銃一つで上岡真を殺せるはずもないことは分かっているはずだ。だが彼は敵対している。なぜだかは知らないが、あの頭の回転に優れた大柴が『勝てない相手』へ自ら攻撃の意思を表している。

 いきなりの裏切り。

 それも、一番上司に従順で仕事に忠実だった大柴亮の反乱だった。

 さすがに上岡も苦笑して肩をすくめながら、

「おやおやどうしました。本当になんでそんな激怒プンプン丸なんです? 僕、何か悪いことをしましたか?」

「してないですよ」

「じゃあ何で―――」

「『悪いことをしていない』からこそ、俺はあなたに銃口を向けてるんです」

 一見して意味不明な発言だろう。

 だが、これは大柴亮の意見こそが正しい。

 なぜなら、

「俺らは悪党です。『悪いことをする』存在です。事実、今までにも俺たちは『エンジェル』を何人何十人と殺してきました。そうして、奴らを潰すために徹底していた殺人集団だったはずです。なのに、だというのに」

 大柴はギロリと上岡を睨みつけた。

 本気の本気で殺意を見せた。

「何で悪党のあなたが『子供達を助けている』んですか? 悪党ならば仕事中に私情を挟まないはずです。殺し合いの真っ最中である今現在の中で、あなたは『仕事を放り投げた』んですよ。ふざけるな。どういう了見だそれは。そこの子供達も『エンジェル』の本部内にいたというのならば、奴らクソ野郎共の仲間や兵器の可能性だってある」

 冷たい冷たい目を上司に向けたまま。

 大柴は銃口を改めて握り直して。



「今すぐ子供達を殺すべきだ。そこを退け。そこのガキ共を助ける慈悲なんて、俺たち『悪人』には存在しない」

 


 彼は悪人。

 怪物に憑依されているされていない、何て小さな状態は関係ない。大柴亮は根本的に悪人で悪党だ。そして同時に、彼を含んだ『デーモン』という組織も『悪』だったはずだ。

 しかし。

 その悪の組織を上から束ねる一人の悪党が。上岡真が。

 たった今、敵軍の中にいた怪しい子供達を助けるだなんて『善人』のような真似をしたのは許せない。素性も不明な子供達は何かしらの罠である可能性もあるため、即座にここで殺し、残りの『エンジェル』を抹殺するべきだ。

 それこそが。



『デーモン』の一員である悪党が行うべき当然の選択である。



 しかし、それに反した上岡こそが。

『本当の裏切り者』であることは明白だった。

 

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