表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

372/539

何で、それをお前が知っている

 霜上は鼻から流れてくる血を袖で拭ってから、ふと、目つきを鋭く変える。今までのようにダラけきった表情から、真面目な雰囲気を若干ながら纏い始めた。

 そして告げる。

「俺は大悪魔サタンを夜来初三から引き離した。すると、直後に夜来初三の体が異形な化物のそれへと変わった。最初は意味分かんねぇあー面倒くさい、何て思って流してたが……たった今分かった」

「……」

「夜来初三が異形な化物へと姿を変えたのは、『大悪魔サタン』がいなくなったことで、『お前を抑える存在』が消えたからだ。今までの報告にあった夜来初三がお前に飲み込まれた時の特徴としては、目、肌、人格または性格の変化だけ。だが、今回は違う。夜来初三は『それ以上』の気味が悪い変化を見せた」

「デ?」

「つまり、過去に夜来初三がお前に飲み込まれた時は、『大悪魔サタンがお前の侵食を阻害していた』んだろう?」

 その言葉に肩を跳ね上げたのは夜来初三だ。何やらややこしい話になっているが、霜上の言いたいことは簡単に纏めれば凄まじく納得できること。

『悪』が今まで夜来初三を飲み込んだ時には、全て『大悪魔サタンごと』飲み込んでいたはずだ。一回目は由堂清との激突、二回目は桜神雅との衝突、全て全て『サタンは中にいた』はずである。

 しかし今回は、サタンが夜来から『離れていた』時に『悪』の侵食が始まった。その結果、夜来初三は過去最大にまで人外の姿へ変形してしまっている。

 よって。



 過去に二回発生した『悪』の侵食は、全て大悪魔サタンが『悪』を内側で破壊していたのだ。『悪』の侵食を出来る限り阻害はかいすることで、夜来初三を出来る限り守っていたのだ。

 しかし。

 今回は大悪魔サタンが夜来初三の中にいなかったことで、『悪』の侵食を最低限抑えられる存在は誰一人いない。故に、好き勝手出来るようになった『悪』は夜来初三を『完全』に侵食したということ。



 今までに起こった『悪』の侵食は、軽度だったのだ。あの程度で済んでいたのは、全て大悪魔サタンのおかげだったのだ。

 どこまで夜来を思っているのか。

 彼女はいつだって彼の支えだったのである。

「正解ジャん。よク分かったナ」

 だが、今回は『悪』だけが夜来初三の中にいる。だからこそ、異形な姿へ成り果てた今回の夜来初三こそが、『本来』の『悪』の侵食そのものである。

 今までが軽かっただけ。

 今回こそが『当然』の現象だった。

「なんていうか、興味深いもんだな」

 知りたいことがハッキリしたことで、霜上陸の目がぼーっとした通常モードへ戻った。

「怪物と悪人を繋げるのはお互いが似た存在だってことだ。同じような過去、同じような過ち、同じような人生、同じような存在であるからこそ、お互いを受け入れ合って怪物は悪人に力を貸す。もちろん中には有害になる怪物も腐る程いるから、世の中じゃ『悪人祓い』なんて奴らが怪物退治に駆り出されてる。でも、お前はどーだ? 夜来初三と似てるのはその容姿だけ。精神的に似た者同士ってわけでもなさそうだし、何よりお前、夜来初三と仲良しこよしってわけじゃないよな」

 だからこそ、と付け足して、

「お前は何なんだ? どうやって夜来初三の中にいる? 何で夜来初三の中にいる?」

「……」

『悪』の顔から表情が消えた。

 しばしの静寂と共に、音さえもが世界から消える。

 だがそこで。

「テメェの知ったこっチャねェだろォガよ。面倒くセェのは山々なンだが、俺もイロイロとここで仕事が溜まっテんだヨ」

『悪』は離れた場所で倒れている夜来初三を一瞥し、

「俺がソイツに憑いてルのは単純なコトだ」

「単純?」

 アア、単純単純クソ単純だヨ、と『悪』は笑いながら言った。

 さらに続けて。



「『夜来終三』ってアホのセイでここに居るンだヨ。文句ガあルならあのクソガキに言エよ面倒くセェ」



 夜来初三の瞳が凝縮した。

「―――っ」

 全身の細胞が暴れまわる。脳みそが急激に熱くなっていき、額の辺りからはピリピリとした痛みが走った。神経が研ぎ澄まされる。体が悲鳴を上げていようと、それでも、夜来初三は爪を地に突き立てながらゆらゆらと起き上がった。

「何で、知ってる……?」

 グラグラと揺れる瞳を、真っ白なもう一人の自分に向けた。

 対する相手は、狂気の笑顔を満開に咲かせた。

「ヒャハハっ! さーテ何ででショウ」

「ふざけるな……。何で、あいつのことをテメェみてぇなクソが……知ってんだよ……」

「マぁマァ。そうピリピリすンなよ、楽しくヤローぜ?」

 瞬間、

 夜来の口が小さく動いた。

「―――殺す」

 呟き。

 夜来はギョロリと『悪』を睨みつけて、ひとまずは軽く嬲り殺しにしてやろうと駆け出していた。だが忘れてはいけない。今の彼では不良集団を一人で相手にできるかどうか程度の、一般的な人間の範疇の力しかない。

 よって、結末は必然的だった。

「落ち着けヨ。ソうやって発情すンな」

『悪』は軽く指を振る。すると夜来の体が真横へ吹っ飛び、無様に転がっていく。咳き込みながらも、必死に立ち上がろうとする彼だったが、やはり所詮はただの人間。

 故に、再び地に倒れふす格好になった。

「サてと。マぁあれだ、とりアえずテメェを殺せばイイって展開だろォ?」

 馬鹿正直に突っ込んできた呻き伏している夜来を一瞥し、『悪』は霜上に言った。

「結局、お互いにお互いを消すって感じだなぁー。もう聞きたいこともないし、答えてくれないから別にいいや」

「ソォかイ。そリャ結構」

 直後に。

『悪』の真っ白な体から真っ白なエネルギーが放出していく。全てを塗り潰す白が、今まさに莫大な渦を描きながら『悪』の体に纏われる。

 ニィ、と口の端を釣り上げた化物。

 彼は静かに宣言した。



「授業の時間だァ小悪党。絶対悪ってモンを教えてやンよ」



 ゴガッッッ!! と、その膨大すぎる白い力によって生まれる風圧に、思わず霜上は苦々しい顔を作る。あれは見ただけで分かるほどに膨大な闇だ。迂闊に挑めば黄泉の国の扉へ足を突っ込むハメになる。

 故に。

 大きな溜息を吐いてから、

「……こりゃマジでやらなきゃダメっぽいな」

 白い狂気の笑顔と向き合って、彼も出し惜しみなどせずに『エンジェル』No.2の実力を振るう。対する『悪』も、久々に良い暇潰しが出来ることに期待で胸を躍らせているのか。

 化物の笑顔を裂いて、裂いて、裂いて、とにかく引き裂いて笑っていた。

  


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ