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変則的かつトリッキー

 呼吸が整っていない夜来初三は、『悪』の奇想天外な戦い方に目を見開いていた。自分じゃあんなことは思いつかない。『悪』は白い力を相手に『設置』することで、遠隔操作型の爆弾的な扱い方をしたのだ。

 トリッキーと言えば聞こえはいいが、客観的に見れば容赦がないという言葉に尽きる。

 だが、

「今のすっごいなぁー。なんつーかさ、発想の勝利的なやつだろ? いやいや危ねぇー、マジで死ぬかと思ったわ」

 霜上陸は生きていた。

 それも、あれだけの爆発に飲み込まれても無傷という状態で。

「へェ」

 そんな彼にニタリと笑ったのは『悪』だ。

「テメェ、案外歯ごタえがアル豚みテェだナ。あー面白ェ!! ぎゃは! ぎゃははははははははははははは!! ヤベェヤベェちょーヤベェよ!! 血圧沸騰してきチまっタぜェオイ!!」

 再び笑い声を響かせて飛び出た『悪』は、荒野を縦横無尽に駆け回って霜上陸を潰しに行く。まるで瞬間移動の応用だった。背後へ回って白い力を纏った拳を振り下ろし、次の瞬間には獲物の頭上に出現して落下のベクトルが加算された靴底を叩きつける。

 どれもこれも異常な速度だ。

 その点に気づいた霜上陸は、四方八方から降り注いでくる暴力の嵐をかわしながらも思考を回転させた。

(早すぎるな……コイツ、特別スピード型ってわけでもないだろ。つーか妙だな、こいつが移動するときは、決まってコイツの傍の空間がぶれる)

 真正面から迫ってきた悪の体が、空気の揺れと同時にいつのまにか背後へ回っている。空間移動でもしているのだろうか、と疑問を持つほどの爆発的なスピードだ。

 しかし霜上は見た。

 


『悪』が移動する際には、彼の体付近に小規模な爆発が起きているのを。



(っ、……そうか)

『悪』は移動していたのではない。『吹き飛ばされていた』のである。自分の背中付近に小規模な爆発を発生させることで生まれる風圧と衝撃。それらに『流されること』で、『爆風に吹き飛ばされて』移動していたのだ。

 右に瞬間移動しているように見えたのは、『悪』が己の左側で爆発を巻き起こして吹き飛ばされていたから。

 左に瞬間移動しているように見えたのは、『悪』が己の右側で爆発を巻き起こして吹き飛ばされていたから。

 全て脚力なんて使っていない。

 猛烈な衝撃に体を飛ばされていただけだ―――ただし意図的に。

「ヒャッハ――――――ッッっ!! モっとハシャげよスクラップがあああァァァっ!! テンション上げテ行かネェとシケルだろォガよォ!! ひゃははははははははっっっ!!」

「っ!?」

 今度は『悪』の体が真上へ飛んだ。直後、さらに『悪』の体が砲弾のような速度で霜上陸の周りを移動し始める。これも爆風を利用した応用方法だろう。空中でも、体を『吹き飛ばせば』好きなポイントへ進むことができる。

(何て使い方だよ……普通ありえねえだろうが)

 心で吐き捨てた直後。

 ズガン!! と背中に莫大な衝撃が襲いかかってきた。一瞬の静寂。しかしすぐに、運動エネルギーに従って霜上は荒野の果てまで吹っ飛ばされる。

 原因は、『悪』の無慈悲な突き刺すような飛び蹴りだった。

「ぎゃっははははははははははははははははっっ!! オイオイどォした何ダよ何なンだよ!! モっと笑顔でヤロォぜェ? さっきカラつまンねェ面ァ見せらレてる俺様の身にもナレ!!」

 これほどのスピード。

 これほどのパワー。

 これほどの戦闘能力。

 全てが全て、『エンジェル』No.2を圧倒しているだけのことはあった。強い。それは荒野から起き上がった霜上陸も分かっていた。しかし予想以上だ。あの化物はまだ本気なんて出していない。戦い方もそうだが、何より、あの変則的な戦闘方法を実現できるだけの器用さが恐ろしい。

「痛い痛い。ったく、もちっと手加減してくれよー、マジで泣いちゃう」

「―――ジャあワンワン泣かせてヤル」

 気づけば。

 目の前に『悪』の笑顔があった。

「っ」

 喉が干上がった時には既に遅い。目と鼻の先に接近してきていた『悪』に顔を殴られ、腹を蹴られ、脳を揺らされ、様々な衝撃が全身のいたるところに襲いかかってくる。

 そして。

 ガシィッ!! と顔面を片手で鷲掴みにされた霜上陸は、そのまま地面に後頭部を叩きつけられた。ガン!! と脳が頭の中で静かに揺れる。乱暴的かつ強引な攻撃方法だった。

 だが終わらない。

 まだ終わらない。

「ヒャっははははははははははははははははははははははははははははッッ!!」

 邪悪な笑い声が響く。

 直後に。


 

 ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ!! と、霜上陸の頭を地面に埋め込んだまま、『悪』は爆発的な速度で走り出していた。



 目をそらす光景だ。

 頭を頭蓋骨ごと削られているだろう残酷な絵だった。しかし『悪』は笑い声を上げながら、無邪気な子供のように人間の頭を走りながら地面で削って削って削り続ける。

「ぎゃは!! ぎゃっははははははははははッッ!! 脳みそ直接マッサージはドォダヨ!? 何ならモット気持ちヨクしてヤル!!」

『悪』はようやく立ち止まった。

 しかし汚れまみれになった霜上だけは、無造作に横合いへ投げ飛ばしてまう。ただそれだけの仕草だというのに、スポーツカーから振り落とされたような激しい勢いで黒い荒野を転がっていく。

 だがしかし、さらに、すぐさま霜上へ驚異が牙を剥いた。

 黒い大地を転がっている最中の霜上陸の顔面に。



 無慈悲な第二波が来た。

 ズゴン!! と『悪』の爪先がめり込んでいたのだ。



 驚異のスピードを利用して、すぐに霜上の反対側へ回って顔を蹴り上げたのだろう。サッカーをするように振り切られた『悪』の足には、白い力がまとわりついている。威力は絶大だった。今度は逆方向にある白い荒野へ吹っ飛ばされていく霜上は、体そのものを痛々しく打ち付けながら煙を巻き上げてようやく停止する。

「どォしタよ黒人。まダまダサウンドバックやレんダろ?」

『悪』がニヤニヤと笑って、煙を巻き上げている破壊地点へ尋ねる。

 すると、そこから返答があった。

「……あー、痛い。鼻血出てるわ。ちょー痛い」

 生きていた。

 あれだけの暴力の餌食になっても尚、霜上陸は鼻血を出す程度の怪我しか負っていない。 

「……お前、やっぱり『怪物』か?」

「さァ? どォデしょう?」

「えー、答えてくんないの? スゲー残酷じゃんそれ。こんだけズタボロにされたってのに、何でこうも不運なのかなぁ俺」

 

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