テメェはそこで見てろ
『悪』と霜上陸は視線を交差させる。その状況に、ほとんど蚊帳の外にいるような感覚に襲われた夜来は、思わず『悪』に向かって怒鳴り声を上げていた。
「テメェ!! 何でこんなところにいやがる!!」
「……」
「さっきから俺を空気にしてんじゃねぇよ。いい加減状況説明くらいし―――」
「ウるせェよ。チッと黙れ」
ゴン!! と夜来初三の体がいきなり吹っ飛んだ。くの字になって苦痛の息を漏らし、砲弾のように飛んでいく。『悪』が真っ白な人差し指をヒョイと軽く振っただけで、理解不能な衝撃が発生したのだ。
ゴロゴロと黒い荒野を転がる夜来。サタンの魔力を一切使用できない今の彼では、『悪』に太刀打ち出来るわけもなかった。
「が、っは……!?」
軽い呼吸困難になり、ダメージが足の先まで浸透する。
おかげで、動きたくても動けない無様な状態へなってしまった。
「テメェはソコで見テろ。アレは俺の客人ダ」
そんな夜来を一瞥した『悪』は、ニヤニヤと笑いながら霜上へその顔を向ける。
「デ? てメェが俺に用がアルらしィからこうシて出てキテやったンだが。何ダよ?」
「殺しに来たわ。悪いけど死んでくれ」
「……ハッ」
鼻で笑った『悪』。
彼の黒い眼球で輝く白い瞳の瞳孔が凝縮した。
「ツーかよ、テメェ誰だ? 自己紹介ぐらいすンのが常識だろォガよ」
「『エンジェル』の霜上陸だよ。お前を討伐するためにここにいる感じ。夜来初三なんかは大悪魔サタン引き離して終了だから、ぶっちゃけ簡単にいくんだけどさー。お前、『何』なの? 怪物ってわけじゃないよな? だったら俺の操作が効くはずだ。さっきから結構やってんだけど……無反応って悲しいわ」
どうやら、既に『怪物操作』を実行していたようだった。しかし『悪』には微塵も効果が表れないため、直々に叩き潰しにきたということらしい。
ますます、夜来初三を置いて話が進んでいってしまう。
「ヘェー。俺を殺すネェ」
異質な声を鳴らして苦笑したのは『悪』だ。
「面白ェな、オマエ。俺を殺すッテ自信満々で吠えルその口も面白ェモンだガ、何よリ面白ェのは『ここ』に来タってトコロだナ。ココは俺のマイハウスなンだヨ、なーにズカズカ挨拶もなシに足ィ着ケてンだ?」
「寄生虫みたいなやつだなぁー。ここって夜来初三の中なんだろ? あれじゃん、家賃ゼロのお得物件じゃん」
「イイだろ? ガス代水道代なしデ快適なンだゼ? ちっト殺風景なノがマイナスだガな」
「で、そろそろ答えてよ。お前さえ潰せば夜来初三はどうにでもなる。サタンだって俺の下だ。上岡真だって、あれは『怪物』そのものだから問題ない。豹栄真介も同様だなぁ」
その通りだった。怪物を操れるということは、怪物人間である上岡真も、不老不死である豹栄真介も、誰一人として勝ち目はない。大柴亮などは論外だ。夜来初三だって現状から見て論外。上岡ならば怪物を操作される前に『千の呪い』から幾つかの絶対的攻撃を繰り出せそうだが、非常に曖昧である。
すなわち。
「お前さえ潰せば、俺らの勝ちなんだよね。この戦争」
霜上陸に唯一左右されない『悪』だけが、『エンジェル』にとって最大の難敵でもある。
対して。
『悪』は沈黙し、ククっと肩を震わせて笑い、
「ヒャっっハァァァァァァァ―――――ッッッ!!!!」
楽しそうな雄叫びを上げて、一瞬で霜上陸との距離を詰めた。
消えて出現する。そんな表現が可能な一瞬のスピードだった。
「っ!?」
霜上の顔にも驚愕の色が現れる。彼の顎の下へ潜り込んでいた『悪』は、その笑顔をさらに黒く染め上げると同時に右手を勢いよく開いた。
さらにその五本指を霜上陸の腹部に添えたタイミングで。
ゼロ距離から白い力を爆発させた。
ゴガッッ!! と、ピッチングマシーンの野球ボールのような動きで霜上は吹き飛ばされる。だがそれでは終わらない。『悪』はニヤニヤと笑いながら、指をパチンと鳴らした。
その瞬間。
腹部に熱い感覚が走った。
(っ、こいつ―――っ!?」
霜上陸は察知した。先ほど、自分の腹部に『悪』が触れていたことを。そして、直後に爆発を巻き起こされたことを……。
青ざめた顔のまま、ふと目を腹部にやってみると。
『悪』の所有する白い力がリングのような形になって、霜上の腹部を覆っていた。
先ほどの接触で付けられたのだ。
そして、白い力は爆発させることは知っている。
故に。
ゴガッッッ!! と、気づいた時には既に遅く、霜上の腹部に設置されていたリング型の時限爆弾が起爆する。『悪』の指を鳴らした無情な音だけが、静かにこの世界で反響していた。




