スタントマン
「はぁ、はぁ……!! あ、危ねえ、タイミング間違ったら死んでたぞありゃ……!!」
大柴亮は体中が切り傷まみれだった。というのも理由は単純で、計算通り自爆させてやった男を瓦礫に埋めてやったのはいいのだが、その大惨事に自分まで巻き込まれては意味がない。
故に彼は、『一階だからこそ可能な逃亡方法』である『窓ガラスを突き破って外へ避難した』のだ。これも大柴の狙い通りだった。万が一自分じゃ勝てない相手と遭遇した際には、前もって『逃亡ルートが豊富』な一階を利用するつもりだった。だからこそ、初めに一階に潜む『エンジェル』の者たちを掃除してやっていたので、非常にすんなりとあの男を撃破できた。
いや、すんなりではないだろう。
事実、彼の腕や頬には小さなガラス片が突き刺さっている。
「痛っ……! あー、くそ。やっぱりスタントマンみたいな感じで綺麗にはいかないか」
体中をガラスで切ってしまったことで、チクチクとした地味な痛みが肌を走り回っていた。もちろん、結果的にはスタントマンのように脱出を成功させたのだから、それは大柴の技術が高いからだろうが。
「ま、これは後で適当に治療するとして」
意識を切り替える。
大柴がいる場所は、『エンジェル』の本部内ではなく外だった。窓から逃げたのだから、当然と言えば当然だが。周りは崖に囲まれていて、どう考えても『怖くなったんで先に帰ります』的なノリでは逃亡できない。
面倒だが、まだまだ死線を浴びることになりそうだった。
(さてと、これからどうする? ぶっちゃけ隠れんぼするみたいな感じでじっとしといた方がいいんだろうが、やっぱ隠れてても殺されるもんは殺されるしな。さっきみたいに予め『トラップ』を用意しとくのもアリだが、ありゃあのスゲースゲーうるさい男が結局はただの人間だったから効いただけだ。瓦礫の雨なんぞ、本当の化物レベルが出てきたら小雨となんら変わらん)
このまま一人というのは、非常に危険性が高い。しかしかといって、『デーモン』は特別仲間意識で繋がっているような組織でもない。利用し、利用する。それだけの関係が根本的なこと。故に仲間三人の内に泣きつくような真似は出来るわけがないのだ。
「……ブラックすぎるな、ウチ。にしては給料割に合わなくね?」
そんなことを呟いて、踵を返して立ち去ろうとした大柴。
だがそこで。
ガッッ!! という轟音と共に、すぐ近くにあった『エンジェル』の本部の外壁が消し飛んだ。
「……っ!?」
冷や汗が落ちる。
もしかして、何て思ってしまう。
(さっきの野郎、生きてたのか……!? それとも『本当』の化物サイドのやつか?)
破壊された外壁の場所は粉塵が舞っている。濃い煙のせいで誰かは分からないが、少なくとも大柴亮では勝てないことを先ほどの一撃は証明していた。
だからこそ。
大柴が取るべき行動はただ一つ。
(どっちにしろ逃げるしかねえ!!)
負傷した左腕を押さえながら、一気に全力疾走で逃亡を開始する大柴。
だがそこで。
「あれれー? ちょうど良いタイミングでお会い出来ましたねぇ大柴さん」
聞きなれた、上司の声が背中にかかった。
ゆっくりと振り向く。
そこには、何やら幼稚園児が絶賛遠足中であるような光景があった。五人程度の子供達を連れて、上岡真が立っていた。
「……はぁ」
思わず安堵の息を漏らす大柴。
派手な破壊を巻き起こして堂々と敵地から帰還(さらに子供確保)してきた上岡に、呆れ顔でこう言った。
「ショタとロリにまでストライクゾーン広がったんですか? 誘拐はさすがに見逃せませんよ」
「いやいや言いがかりです。この子たちは助けてきました」
「……助けてきた? それって」
「ええ。とりあえず、この子達だけでも安全な場所へ避難させましょう」




